小説

□一方通行
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「アテナ、このような夜更けにどうされました…」
「…何でもないの、サガ。ちょっと眠れなかったものだから…」

アテナ神殿にアテナの小宇宙の気配を感じ、気になったサガは神殿に足を踏み入れた。そこには沙織が空を見上げてひとり佇んでいた。
『最近顔色が優れないのは…星矢たち青銅がそれぞれの地へ帰っていったからか…』

聖戦を戦い抜き、地上に平和が訪れた。しかしサガが見る限り、最近の沙織は気落ちしているように見えるのだった。
『アテナにとって同年代で気心知れた彼らが、遠くへ行ってしまっては、お寂しいのも無理あるまい。』

「アテナ…ここは冷えます、どうか御寝所へお戻り下さい。」
アテナは無言だった。
「アテナ…そのような薄着で居られては寒いでしょう…」
「…ええ寒いわ…寒くて寂しいわ…」
彼女らしくない様子に思わずアテナを凝視した。振り返ったそのすがるような瞳は紛れもなく少女のようだった。
「…失礼します。」
サガは自分のマントをアテナに掛けた。
「サガ…ありがとう。」
沙織はにっこりして、
「戻るわ、困らせてごめんなさい。…良かったら中で少し話しません?」
「しかし…このような夜更けに…」
「少しだけ…ね?」
沙織はいたずらっぽく笑う。いつも大人びているアテナが年相応の少女に見える。

「戦いが終わったら出来ると思ってたけど…アテナと城戸沙織の切り替えなんて、上手く出来ないものなのね…。」
「アテナ…日本へ行きたいのですか?」
「そうね…」
「日本で星矢たちと…?」
沙織は目を閉じた。
「彼らには彼らの生活があるもの…。それに私も。」

『アテナ…貴女は星矢を…?』
アテナは、自分の中に芽生えた感情のまま、走ることが出来ないのだ、神であるが故に。

「サガ、貴方の心も…泣いているの?」
サガははっとした。アテナには何でも見透かされてしまう。
「…そうかもしれません。私の犯した大罪、到底償えたとは思っておりません。日々聖域に対して申し訳ない思いでおります。ですが、貴女の小宇宙に触れる時だけ、心が安らぐのです…。」
「じゃあサガ。あなたはずっと私の側にいないとダメなのね。」
無邪気な笑顔でアテナはサガを見た。
「アテナが許して下さるなら、このサガはずっとお側でお仕えします。」
捧げます、この心を貴女に。

「では、そろそろ失礼します。」
「おやすみなさい、サガ。」

サガはアテナの部屋を出た。
アテナ、可哀想に…普通の少女として生まれていたら星矢のもとへ行けただろうに…
アテナ…どうかお許しください。罪を犯した私が貴女を想うことを…

「サガ…貴方も可哀想なひと…」
ひとりになった部屋で沙織が小さく呟いた。
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