小説

□恋の芽生え
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城戸邸の自室でお茶を飲みながら、アイオロスのことを考えていた。
聖戦後、アテナの大いなる力で蘇った黄金聖闘士たち。
初めてアイオロスと対面を果たした時のことを、私は決して忘れないだろう。自身が赤子の頃、身を挺して救ってくれたアイオロス。
「アイオロス…ありがとう。貴方のお陰で今のこの地上の平和があります。」
「アテナ…よくぞ聖戦を戦い抜かれました…。」
アイオリアによく似た、精悍な顔立ち。アイオロスから感じる小宇宙。何かしら、ひどく懐かしい…

「アテナ、どうかされましたか?」
不意に声をかけられ、我に返る。
「アイオロス…」
護衛のため日本へ同行していたアイオロスがいた。
「何でもないわ。貴方もお茶をどうぞ。」
沙織は椅子に座るように促し、アイオロスはそれに従った。アイオロスが口を開いた。
「アテナ…前々からお尋ねしたいことがあったのですが…」
「何でしょう?」
「私は何故、死んだときの姿でなく、この姿で蘇ったのでしょうか?」

言われてみれば、アイオロスがかつて命を落としたのはまだ少年だった頃。たが、目の前にいる彼はどうみても20代である。少し考え込んだ沙織が言った。
「何故かしら…私にもわからないのです…。」
アイオロスはにっこりと笑って答えた。
「そうですか…いえ、私はこれで構わないのです。弟よりも若い少年の姿ではむしろ困りますから。」

沙織は考えていた。アイオロスから感じる温かい小宇宙。自分はこれに似た小宇宙をどこかで感じていたことがあるような…
この温かい感じは…お祖父様?
小さな頃から深い愛情を注いでくれたお祖父様。そのお祖父様が亡くなってから、感じたことのなかった、この温かい小宇宙…何故アイオロスから感じるの?

誰かに支えてほしかった。城戸沙織としての、時々折れそうな心を。そう、彼の小宇宙は…彼はまるでお祖父様のように、まるで兄のように私の心を包んでくれる。彼の魂はずっと前から私に寄り添ってくれていた。ずっと探し求めていた存在、それが今のアイオロス…

アテナ…薔薇がお好きですか?
ええ…好きです、特に小さな薔薇が。
アイオロスは、テーブルの花瓶から小さな白い薔薇を取り、沙織の髪にそっとさした。アイオロスの指が沙織の耳を掠めた瞬間、沙織はまるで身体中の血が沸騰したかのように身体が熱くなった。
とてもよくお似合いですよ。
アイオロスが微笑む。

アイオロスは、自分のすることがどんなに私をドキドキさせるか、わかってないんだわ。そんなことしないで。私の心は止まれなくなってしまう。それとも…止まらなくっても構わないの?
決意したように沙織が言った。
「アイオロス、私とふたりの時は、アテナでなく沙織と呼んでくれますか?」
「…それは命令ですか?」
「いいえ…」
頼りなげな、小さな声で答える。アイオロスはじっと沙織を見つめて言った。
「…でしたら、喜んでお呼びしましょう。」
アイオロスは沙織の耳元で名を囁いた。


 

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