黄金魂

□もう一度
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ある日の午後、ひとりの男がヘレナの働く食堂の斜め向かいの店先から、食堂の様子を眺めていた。元気そうなヘレナの姿が見える。

「……。」

その男、デスマスクはフッと笑みをこぼし、そっと踵を返した。その途端、

「あーっ、おじさんだぁ!」

声をかけられ、ぎょっとして振り向くと、ヘレナの兄妹達がいた。

「おじさん、久しぶりだねっ!」
「今までどこにいたの?」

「…よぉ。…お前たち元気だったか?姉ちゃん困らせてないだろうな?」

「……っ!」

聞こえた足音に、デスマスクが視線を上げると、ヘレナが立っていた。デスマスクは、少しだけ決まり悪そうに、よぉ、と声をかけた。

「…生きて…たんだね…。」

「当たり前だろ、そんなに簡単には死なねぇさ。」

ヘレナは少し俯いた。

「半年も姿を見せないから…何となく…あたしを助けてくれた代わりになったんじゃないか…、って思ってた…」

「俺はこの国の人間じゃないからな。…今日はたまたま、この近くに来る用事があったからよ、顔出したんだ。」

「…あたし、あんたにお礼が言いたかったんだ。弟たちが、あんたに助けてもらったって言ってたから…ありがとう。」

改まって頭を下げるヘレナ。

「…気にすんなって。」

「 …お金も、本当にありがとうね。お店も軌道にのってきたし、そのうち返せるから…。」

「返す必要はねえよ。どうせ、偶然賭け事で手に入れた、あぶく銭なんだからよ。」

照れたようにヒラヒラと手をふるデスマスクに、何となく、それは嘘だと思った。

「身体は大丈夫なのか?」

「うん、最近、ちゃんと病院にも行ってるから…」

ヘレナは、ぽつりと呟いた。

「何で、そんなに親切にしてくれるの…」

デスマスクは、それには答えなかった。

「…とにかく、元気そうで安心したぜ。……じゃあな。達者で暮らせよ。」

「…待ってよ…」

ヘレナは、デスマスクの背中に向かって言った。

「なんか、中途半端だったじゃない?」

デスマスクが振り向き、ヘレナを見つめる。

「だって、わたし、あんたの名前も知らないんだもの。」

「……」

「だから、もう一度はじめから。…ね、いいでしょ?」

「ヘレナ…」

ヘレナはにっこり微笑んだ。

「私はヘレナ!あんたは?」

「俺は……デスマスク。」

「デスマスク!ふふ、面白い名前だね!…これからよろしくね、デスマスク!」

「…あぁ、よろしくな。」

通りにヘレナの明るい笑い声が響き、デスマスクも自然と微笑んだ。


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