小話

□夏の終わりに
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パーティーでカミュに会ったのは夏の始めだった。今はもう夏の終わり。でも、あの時から、私の時間は止まったままだった。何をしている人かも知らない、たった一度口付けを交わしただけなのに。
彼にとっては何でもないことだったのかもしれない…でも、私は…
熱い涙が頬を流れ落ちた。
忘れなきゃ。たった今から。私はこの気持ちに決着をつけるためにここを訪れたんだわ。

ふと、人の気配を感じて振り返ると、向こうに人影が見える。顔は見えないけれど、風になびく燃えるような赤い髪。
「カミュ…」
カミュは確実にこちらに近付いて来る。目の前までゆっくりとやって来ると、私をじっと見つめた。私は動くことも出来ず、立ち尽くしていた。カミュが口を開く。
「あなたを探していた。」
「…どうして、ここにいるとわかったの?」
「わかったわけではない。貴女に会えるかもしれない気がして、ここに何度か足を運んでいた。今日も…」
「…どうして来なかったの?」
「すまなかった…」
彼は少し辛そうに目を細めた。
「何か理由が…?」
「……。」
カミュは少しの沈黙の後、きっぱりと言った。
「だが、どちらにしても言い訳はしない。」
「私は…あなたのこと、何も知らないわ…。」
「貴女に私の事を話す機会を再びもらえるだろうか…?」
この2ヶ月の辛さも何処かへ行ったように、私は悦びで胸が熱くなった。けれど、嬉しさを押し込めて、心とは反対の事を言ってしまう。
「もう、遅いと言ったら…?」
「今度は、私が貴女を待つ。…どこまでも。」
カミュの真摯な瞳と言葉に、身体を貫かれる。
(…そんなこと言われたら…)
私は胸を震わせながら微笑んだ。
「いいわ。もう一度、始めから…」
「ありがとう…私は…私の名は、アクエリアスのカミュ。」
カミュは優しく微笑んで私の手をとった。


終わり
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