企画
□それは奇襲というやつか
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※言葉遣いが悪いです
※恋愛要素全くありません
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なんて事ない、夕日が辺りを染める時間。
部活を終えてプールから寮に戻る途中で、"ヤツ"は現れた…
夏の大会がひと段落して、そろそろ引退する者も出て来始めた頃。宗介は泳いでないから、着替えるのは誰よりも早い。何となく凛が着替え終わるのを待っていようと考えた宗介は、ロッカールームの外でベンチに腰掛けていた。
暫くして出て来たのは、地方大会のリレーを共に泳いだ仲間たちだった。顔を合わせると自然と笑みが零れるのは皆同じなようだ。
今日の練習の事、何気無い世間話、そんなものに花を咲かせれば寮までの距離なんてあっという間に感じられる。
最初に異変に気がついたのは、御子柴百太郎。
「ん?あれ、誰っすかね?」
そう指差した先を他の三人が振り向く。プールと寮の間には裏門がある。ちょうどその辺りに誰だかは不鮮明だか、ここには居るはずのない…女の姿があった。
「はっ!もしかして誰かの彼女のとか…?!」
「誰かって…誰だよ」
「それはわかんねぇすけど…」
この4人の中でそういった色恋話は残念ながら聞いた事がなかった。では一体誰の彼女なのか…?
考えてもわからない事だったが、しかし、あちらが動いた事で事態は急変した。
「──────── 宗介!!」
なんと、その女は宗介の名を呼んで此方に近づいてくるではないか。これには一同も驚きを隠せなかった。
「え、山崎先輩!そうだったんですか!?」
「どういう事だよテメェ」
詰め寄る野郎には目もくれず、当の本人は近づいてくるその人物の姿を捉えると、傍目にもわかるくらい 渋い顔をした。その表情に面食らった周りの男たちは、思わず振り返り女を見た。
そして、静止した。
スラリと伸びた手足に豊満な胸。
艶のある黒い髪の毛は肩口で緩く内巻きにされている。
キュッと結ばれた唇に意志の強そうなエメラルドグリーンの瞳は真っ直ぐ宗介に向けられていた。
「なんでいんだよ。顔も見たくねぇんじゃなかったのか なまえ」
「もちろん今でも見たくないと思ってるわよ」
「だったら帰れよ」
「言われなくても用が済んだら帰るわ」
「あ!あの!!」
険悪なムードに割って入ったのは百太郎。
突然現れた女(主に胸)をチラチラと見ながら宗介に向かって言い放った。
「この人、山崎先パイとどーいったご関係なんすかァ?!」
すると、ずっと思案顔だった凛の顔がぱっと上がる。
「ちょっと待て…なまえってもしかしてあのなまえ??」
「ん?…あ、もしや松岡凛??」
「ああ…お前…変わったな」
「凛くんもね」
「えっ、凛先輩もご存知なんですか??」
「ああ。知り合いっつーか…」
今だに信じられないと言った表情の凛はちらりと宗介に視線を向ける。気づいた宗介が代わりに口を開いた。
「俺の…妹だ。双子のな」
後輩2人の絶叫が木霊した。
「山崎なまえです。いつもこのクソ兄貴がお世話になってます」
なんて事ない声色で言ってのけた目の前の女…改め山崎なまえ。
彼女が鮫柄にやって来たのは、宗介の荷物を母から預かったという理由だった。それには最もな理由だと納得した一同だったが、目の前で起こっていることには 唯一なまえと接点のあった凛でさえも理解が追いつかなかった。
「だからってなんでお前が来るんだよ」
「仕方ないじゃない、どうしても外せない用事が出来たって押し付けられたんだもの。そんな事もわからないの?この筋肉ゴリラ」
「なんだとホルスタイン」
「ふざけないで私は人間様よ」
「人間なんて見当たらねぇな」
「目の前にいるじゃない」
「おっと、悪い。小さ過ぎて視界に入らなかった」
「っ、あんたね!!」
まるで小学生の喧嘩のようなそれに3人は呆れ半分耳を傾けていた。後輩2人に至っては、宗介の姿が信じられないと言った表情だ。
「仲 良くないみたいですね」
「昔はそんな事なかった筈だけどな…」
「オレ、あんな子供っぽい所があるって知りませんでした」
暫く眺めていたが、段々とヒートアップしていったのでさすがにこのままではマズイと仲裁を試みる事にした。
…が、修羅場と言っても過言ではない空気。我先にと進み出るものはいなかった。
「……アイ、行け」
「えっ…モモくんよろしく」
「どぅえ?!オ、オレっすか?酷いっすよー!似鳥先パァイ!」
半泣きになりながら、先輩2人に脅された1年生の百太郎はそろりと近づく。そして、覚悟を決めたように大声で叫んだ。
「おふたりとももうやめてくださぁい!!」
「「あ?」」
「ヒイッ!」
「何この青臭いガキは…引っ込んでろ」
「ギャーーッ!!」
▽百太郎は迫力のある睨み×2をくらった!
さらにとどめの一言をなまえから受けた!
百太郎は戦線離脱した!
「うわーん!あの人たち怖えよォォ!」
「モ、モモくん!ごめん!君にはまだ早かったみたいだね!」
「チッ、よし行けアイ。お前ならきっと出来る」
「ハイ!頑張ります!」
憧れの凛にそこまで言われて喜ばない似鳥ではない。
意気揚々と進み出た似鳥は、勇気を持って訴えた。
「山崎先輩!なまえさん!」
「大体お前はなんでそんな薄着なんだよ」
「もう無駄な喧嘩はやめてください!」
「暑いんだから仕方ないでしょ!その言い方エロ親父みたい!」
「あの!」
「誰がエロ親父だ。兄がわざわざ心配してやってんだよ。感謝しろ」
「…聞いてますか…?」
「感謝する必要がどこにあるの?」
「……」
▽愛一郎は精神的ダメージを100受けた!
心の傷を負った!
愛一郎は戦線離脱した!
「ううっ…僕そんなに影薄い?」
「ドンマイっす似鳥先パイ…!」
「なんか…悪かったな2人とも」
「凛先パァイ!」
「お願いします!」
後輩の想いを広い背中で受け止めながら、悠々と山崎兄妹のもとへと歩いていった。
「おい、お前らいい加減にしろ」
「凛…」
「凛くん…」
真っ向から怒られた2人は大人しくなった。
「大体昔は仲良かったじゃねぇか。なんかあったのか?」
「それは…」
「俺のせいだ」
「…宗介の?」
思ってもみなかった言葉に驚く凛。
宗介は続ける。
「俺の肩がぶっ壊れて1番怒ったのはなまえだったんだ。こんなになるまで何やってたんだって…」
「……」
「今では心配してくれてたんだってわかるけど、当時は自分でも受け止めきれなくて、なまえにキレたりもした。そこからだな…顔合わせたら喧嘩おっ始めるようになったのは」
「…フン。こっちに戻ってきたからやっと治療に専念する気になったのかと思ってた。まぁ予想は外れたんだけどね」
「感謝してる…あの時怒ってくれたこと。今まで悪かったな」
「宗介…」
「山崎先輩…」
そっぽを向くなまえだったが、怒っているわけではなくただ 照れているようだ。
「…許す。コーヒー牛乳奢ってくれたら」
「ふっ、ああ。今度な」
こうして突如嵐のように現れた山崎宗介の双子の妹、なまえは笑顔を見せて去って行ったのだった。
めでたしめでたし。