黒ヲ纏イタ白キ君

□第一羽 君ヲ思フ
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ボクはただ、乱菊の盗られたもんを取り返したかっただけや。
後は何もいらんかった。

イヅルにも。三番隊にもなんも未練もなかった。ただ、君が心配や。


さよちゃん。

50年前にボクが言うたこと。
君は何度も助けてくれた。



『市丸さんはなんで意地悪ばっかするんですか??意地悪したら、友達無くすよ?!……わたし市丸さんあんま好きじゃない!』


自分の腰にも満たない少女を市丸はしゃがんでからかう。

50年前。
彼は三番隊の副隊長に昇進していた。
当時の九番隊の副隊長の一人娘の死神見習いの女の子をからかうのを日課にしていた。


彼女は鮎川 さより。
さゆりと間違えられるが、さよりと父親が付けた。飄々とした市丸とは正反対の礼儀正しい性格をしている。


母親が元々自由奔放過ぎて幼い時から『お母さんが、皆に迷惑かけてる。』と痛感し、『母が迷惑かけてます。』と口癖になる。


黒い髪をツインテールにし、真っ黒な瞳からは意思が強い眼差しが伺える。
銀髪の市丸とは、正反対だった。

彼は、さよりが生まれた時に出産に立ち会った災難な一人で、もう一人はまだまだ未熟な入隊したばかりの檜佐木 という青年だ。


さよりも幼いながら勉強熱心なのか、死神の纏う 『死覇装』を着ている。
彼女は切り株に座り、市丸を睨みあげる。


「……なんで笑ってんの?!わたしひどいこといったんだよ?」

「…くっくく…いやぁ。おもろいお顔してはるなぁ。」


ぶに。
頬を両手で引っ張りついついからかうと、涙に変わり市丸はギクリとする。
彼女を泣かすと、周りから殺意を抱かれる。

「…うぅ゛ーっ!!」

「な、泣きなて。さよちゃん。そんなんで泣いたら剣術教えてあげへんで?」


「…教えて下さいって言ってない!!……でも、教えて貰ってる。」


素直やなぁ。市丸は正反対の性格を感じてつい、クスッと笑ってしまう。
薄ら笑いの『蛇』、『化け狐』そう周りから言われているのを知っているし気にも止めない。


この頃から、彼は途方もない闘いをたった一人で行っていた。味方もつくらず。ただ、一人。

そんな時に、さよりとの交流は『ただの市丸ギン』にもどれる時間だった。
彼は、さよりの感性に助けられている。


彼女はふと、市丸の薄ら笑いを見て今日も聞いてくる。


「市丸さん。」

「ん?」

「…なんかやな事あったんですか?」

「よー分かるなぁ。ボクいつもと変わらんで?」

「母が迷惑かけましたか?」

「ちゃうちゃう。大人の事情や。君にはまだ早い話やで。」


ふと、息が詰まる時がある。
幼馴染みを相手にした時は、いつも辛い。距離を置かないと触れたくなる。言いたくなる。

それに蓋をしている。それが、まだ若い彼には溢れそうで辛い。
幼い子供は、無邪気に溶かす。
時に、ぐちゃぐちゃにしてしまう。


「…ちょっと悲しそうだから。」

「さよちゃんが言うなら、そうなんかもな。」

「元気出して下さい。市丸さんあんま好きじゃないけど。」

「君。最近いうよなぁ。」

「…だって、松本さんが女は度胸と意地よって言ってたよ。」

「ははははは!言うてそうやなぁ。真似したらあぁなんで。」

「おっぱいおっきくなるかなー。」


松本という女性の胸が大きいのか、さよりはしきりに胸を誇張する。
擬音語まで繰り出す。だから、市丸はゲラゲラ笑えた。


「プルプルぼいーん!」

「あっはっはっはっは!アカン…っ…ハマルっ……っ!…っ!」

「プルプルボイーン!!……ボインボイン!」

「さよちゃん、2回で飽きるわ。次また考えてや。」

「はい。」


この二人。性格は違うが不思議と馬が合った。市丸は切り株から下りたサヨリを膝に乗せる。
185cmある自分に対して、さよりは110cm以下、親子のように身長差がある。彼女はいつも嫌そうに市丸を見上げた。


「市丸さんの膝やだ。」

「ふぅん。ほなら、お漏らしたことおかあはんに。」

「…いい膝だー。」


膝をやたらと誉め出す。
彼は、懐から一冊の本を出して彼女に見せてやる。切り株に背を凭れ。
腰の刀も一時的にはずして彼は、指差す。


「…檜在木くんには内緒やで!」

「やったぁ!!……鬼道の本だぁ!!」

「2週間で、31番詠唱したいんやろ?」

「…はい!!……ありがとうございます。市丸さん。」

「あんま好きじゃないけど。は言わんねんなぁ。ほなら、ボクの株も上がったからたまにはお願い聞いてや。」


さよりは嫌そうに顔をしかめたが、すぐに丸い瞳を市丸に向ける。
どんな色で自分が映ってるか、市丸は聞いてみた。


「……嫌か?」

「ううん。友達だよ。あんま好きじゃない!…」

「そうか。…なぁ、さよちゃん。
ボクが困ってて。どうしようもなかったら、助けに来てくれるか?」


その声色は変わらない。
変わらないし、薄ら笑いも変わらない。だが、うっすらと薄く塗るように。市丸は打ち明けたかった。

『乱菊を助ける。』
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