めいこい 中編
□彼女は渡さないから/甘
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芽衣から彼氏が出来たと聞いて、良かったと思うのと同時に、その彼氏に芽衣を取られてしまった様で少し寂しかった。
芽衣は彼氏が出来てから明らかに以前の明るさを取り戻していて、そこは素直に嬉しかった。
けど、やっぱり男じゃないとダメなのかぁとも思ってしまった。
今まで彼氏とか興味無さそうだった芽衣が夢中になる程って、どんな人なのかすごく気になる。
まぁ、夢中と言っても友達付き合いが減ったわけでも無いから、良い付き合いをしているんだろうな。
私だって彼氏を紹介してるんだから、芽衣の彼氏も紹介して欲しい。
と思いながら買い物をしていたら、芽衣……と、あ、噂の彼氏かな?
うわ、背高いなぁ。
それに、かっこいいじゃん!
「芽衣!」
「あ、マイちゃん!」
「彼氏ー?」
「あ、うん」
わぁ、真っ赤になっちゃって、可愛いんだから。
でも付き合いたてでは無いよね。
初心過ぎない?
既に心配なんだけど。
「あ、紹介するね。
この子はマイちゃん。幼なじみで中学校まで一緒だったんだ」
「ああ、あのマイちゃんかあ。
はじめまして。
いつも芽衣ちゃんから聞いてるよ」
「はじめまして」
と、握手をする。
「あ、マイちゃんに紹介するね、
えーと……」
??
「あ、僕の事はチャーリーって呼んで」
チャーリー?
彼女の友達にも初対面であだ名を教えるんだ。
随分と、くだけた人の様だけど、何者なの?
まぁでも、芽衣はすこし真面目過ぎる所があるから、少し軽そうな位が合っているのかも。
って、いやいや、ちょっとこれは心配だ!
この人で大丈夫なの?
本当に芽衣の事を大事にしてくれてるの?!
だいぶ心配になって、芽衣がその場を離れた時に試してみる事にした。
一応、ナンパもよくされるしそれなりに自信はある。
「ねえ、芽衣の何処を好きになったの?」
一歩前に出て彼の手を取り、掌に指を滑らせる。
鳩尾を軽く指で押して上目遣いに見上げてみる。
ま、大抵の奴はここで何らかの反応をして来るのよ。
ーーでも、何事も無かったかの様に自然に距離を取られた。
「……あれ?
芽衣ちゃんからは、マイちゃんは大事な親友だって聞いてたけど、違ったかな?」
「違わないわよ」
とりあえずは大丈夫そうかしら?
「あなたよりも私の方が、
芽衣との付き合いは長いし、よく分かってるんだから。
芽衣は真面目だから、あなたみたいな軽薄そうな男に騙されてるんじゃないか心配になったの」
「えー?軽薄そうだなんて心外だなぁ」
あからさまな作り笑いで明るく返す様子が、更に胡散臭い。
なんだろう、この人を食った感じ。
手玉に取られそうというか…、あぁ!
詐欺師っぽい。
…………………益々不安だ。
いくら彼氏とはいえ、突然現れた男なんかに負けないんだから。
まぁ、ちゃんと大事にしてくれそうなら認めてあげるけど。
「…ふーん、そっか。
ーーそれなら安心だ」
つい今までの軽妙な調子とは打って変わり、別人の様に静かに呟くのが聞こえた。
「何?」
「ん?昔から芽衣ちゃんから聞いていた"大好きなマイちゃん"は、
本当に芽衣ちゃんを大事にしてくれるんだな、と思って」
昔から?
まだ3〜4年じゃない。
それに、それは私の台詞だし。
ーーでも、芽衣が彼氏に自分の事をどう話しているのかが分かって少しくすぐったい気持ちになった。
「これからも芽衣ちゃんを宜しくね」
だから、それも私の台詞。
「言われなくても私たちはずっと親友ですから!」
ちょうど戻ってきた芽衣の腕をとって絡めた。
「マ、マイちゃん、どうしたの?
チャーリーさん何したの?」
「え、僕なの?」
「違うの?」
……その短いやりとりで、二人がお互いに本当に信頼しているんだとよく分かった気がした。
「マイちゃんも芽衣ちゃんのことが大好きなんだって」
「ん、それが?」
ほら、当然。
私たちはあんたみたいに確認する必要なんかないの。
芽衣の腕を取ったまま芽衣の彼氏の方を見やる。
「えー。妬けちゃうなあ」
ニヤリと口の端で笑うと、芽衣の頭に手を回して目の前で、キスをした。
ーーなにこの人!!
「チャーリーさんっ!!」
唖然としていると、真っ赤になった芽衣が、これまで見たことの無い速さで彼氏を靴でバシバシと叩いていた。
芽衣、あんた、こんな素早い動きも出来るのね…。
というか靴で叩くって。
「痛いっ、痛いって芽衣ちゃん!」
ーー対して彼氏の方は、叩かれながら喜んでいる様に見える。
実は予想外に呆れるほどのバカップルなのかもしれない。
「はあ、そういう意味で彼氏さんと張り合おうなんて思わないですから」
「そうなの?なーんだ。
てっきり芽衣ちゃんは渡さない!
とか言い出すのかと思ったよ」
「もう2人とも。本当に、私がいない間に一体なにがあったの?」
「…芽衣ちゃん痛いっ」
叩くのをやめた芽衣の腰をこっそり引き寄せようとした彼氏さんが、また叩かれてる。
……………あの、バレバレですから。
なんだかすっごく楽しそうに子供のケンカみたいな事をしてるのを見ながら、これは大丈夫かなと思った。