めいこい 続き物
□やっぱりもう一度【1】
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結局、せっかくのショータイムも上の空のままで、帰りの時間がきた。
1度お店を出たけどお手洗いを借りに戻った友人を待っていると、ドアの隙間から店員さん達の会話が聞こえて来た。
「さっきの、また知り合い?」
『分かりませんよ』
「逆ナンされてたんだよ、こいつ」
「またかよ」
『はは…お客さんに逆ナンは言い方が悪いですよ?』
「でもまあ本当に知り合いだったら何か分かったかもしれないのにな」
「可愛かったもんなー」
『まったく…。
まだお客さんがいたらどうするんですか。
僕は向こうを手伝って来ますから』
足音が近づいて来たけど、隠れる場所なんかあるわけなくて、ドアを開いた彼と鉢合わせてしまった。
『………!』
『……あ』
「どうしたんだ?ーあ!!」
恐らく会話の相手だったであろう他の店員さん達にも気付かれてしまった。
「き、聞こえて…ました?」
『あ………………。
………………はい』
「本当っにすいません!!!もうお客様は全員帰られたと思っていて!!」
…うん。帰ったのを戻ってきてしまったんだからこの人達は間違ってない。
もう良いから、この気不味い空気から早く逃げたい。
……んだけど、せっかくだから、さっきの話だけでも聞いておこうかと思った。
『あの…すいません、知り合いかどうか分からないというのは…?』
「あぁ…」
どうする?と言ったように店員さん同士で顔を見合わせていたけど、本人から話してくれた。
『実は僕、1ヶ月前より以前の記憶がないんですよ』
『………え?!』
全く予想もしなかった答えが返ってきた。
記憶が無い???
ーーまるで私が明治に行った時みたいだ。
『じ…じゃあどうしてここで…』
「あぁ、こいつは忘れてたけど俺たちは覚えてたから」
……あ、そうか。
この人にもちゃんと生活があるんだもんね。
記憶喪失か…。
『何か覚えている事は無いんですか?
それか思い出した事とか…』
『うーん。ここのお店での事は少し覚えてたけど、あとはなにも』
「こいつの事知ってるんデスカ?」
『あ、いえ、よく似た人がいて…』
見れば見る程、似てるどころではない。
……唯一気になるのは、あの右頬の痣が無い事。
あれがあれば、記憶が無いにしても確信を持てるんだけど…。
「あっ!じゃあ、もっと詳しく聞いてみれば良いんじゃないですか?!この後時間あります?」
『あ、ありますけど…』
『(は?いや、勝手に話を進めないで下さいよ…)』
「(さっきの罪滅ぼしも兼ねてお前が行け)」
『(いや、僕は聞かれてまずい事なんか言ってません)』
「(俺たちじゃ意味ないだろ)」
「じゃあちょっと待ってて下さいね〜♪」
『は、はい…(汗)』
……な、なんか色々聞こえてしまってるけど、渡りに船と思う事にしよう。
『…なんかスミマセン』
『い、いえ…。こちらこそすいません…』
『終電は?』
「あ、まだ大丈夫です」
『…そう』
……あれ、迷惑そう?
…と思ったのも一瞬で、すぐに営業スマイルに戻る。
『じゃあ準備してくるから少し待ってて下さい』
『…はい』
取り敢えず待っていた友人と3人で駅まで行き、友人を見送った。
友人はすごく驚いていて、後で報告しろって約束させられた。
『どうしようか。ファミレスが良いかな?』
『あ…日比谷公園…はどうですか?』
『外で良いの?』
ちょうどここから近いし、もしもチャーリーさんだったなら何か思い出すかもしれない…。
それにしても、敬語じゃないと話し方まで同じで、ますます本人としか思えなかった。
※続く※