めいこい 続き物

□やっぱりもう一度【2】
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………

「はい、コーヒーで良いかな?」

「………ありがとう…ございます」

「どういたしまして」

隣に座り自分も缶コーヒーを開けながら様子を伺う。
まだまだ日中は暑いとはいえ、夜は少しづつ涼しくなって来ている。
自分も暖かいのにすれば良かったかと思いながら今日の事をぼんやりと思い出していた。

ーそれにしても、こんな夜中に公園で途方にくれる事になるとは。

今日初めて会ったこの子はずっと泣いているし、一体どうすれば良いんだろう?
終電はもう過ぎてしまっているだろう。
嘘を言っている様には見えないけど、本当に僕のコトを知っているのだろうか?


「君の知り合いはいついなくなったの?」

「1年ほど前に…」

「1年?!いや、それなら余計に僕じゃないと思うけど…」

1年前は既にお店で働いてたはずだし、
こんな可愛い彼女がいれば誰か知っていても良さそうなものだ。
というか、それって普通に考えると振られたって事なんじゃないの?…と思ったけどこの状況だし口にするのは止めておいた。


「じゃあ、これには見覚えありませんか?!」


と言って差し出されたのは柔らかいガーゼに大切そうに包まれた狐の根付だった。
割れてしまっているそれは飴色に変色していて相当年季が入っている。
けれど、手にとってよく見てもやはり覚えは無い。


「期待に添えないようでごめんね」

「いえ…」

まぁこれで諦めてくれるかと根付を返そうとすると、驚いた様子でこちらを見つめている。

「っ、あの…その顔の痣は…?」

「…?」

「同じ痣が彼にもありました」

「え、今、見えてるの?」

「……はい」

確かに僕には決まった時間だけしか見えない痣がある。記憶を失くす前からあるのかは分からない。
でも、今はその時間じゃないし、僕以外で見えた人もいなかった。
鏡を見せて貰ったけどやっぱり今は見えない。
ーーそれなのに手帳に彼女が描いてみせたのは確かに僕の物と同じ模様だった。


「……君は今見えてるの?」

「はい」

「うーん、僕には今は見えないんだ」

「どんな時に見えるんですか?」

「どんなというか、夕方と明け方辺りかな。
でも僕以外で見えるっていうのは君が初めてだよ。
いつから見えてた?」

「ーさっき、根付を渡した時から…」

あの根付に全く見覚えはないけど、自分にとって重要なものなのだろうか?

「その、君の恋人も同じ様な?」

「…はい。痣はずっとありましたが…」

「じゃあ他の人にも見えてたの?昼間も?」

「それは……」


ああ、なにか分かりそうなんだけど、また泣き出してしまった。
なにがマズかったんだろう?

子供みたいに泣きじゃくるから、頭をぽんぽんと撫でる。


「……っ、ふふ。同じだ…」


ん?泣き止ん……ではないね。
泣き笑いと言ったところか。
公園に来てから初めて笑った所を見たかもしれない。

ー可愛いなあ。

なんでこんな子を振っちゃったんだろうね。
………って、それが僕かもしれないとはまだ思えないけど。
ただ、自分にしか見えないと思っていた痣が見えると言われて、少しほっとした。

「ーーー今日はもう君に付き合うよ。
タクシー代も出すから」

「……すいません。
それなら……夜明けまでここにいても良いですか?」

「夜明け?!……僕は構わないけど、君は疲れない?」

「平気です。……いつも、夜明けまで一緒にいたんです」

「朝までじゃ無くて?」

「……はい」


随分と不思議なデートをしていたらしい。
でも彼女は慣れている様で、その人と出かけた話や一緒に過ごした時間の事について色々と話を聞いた。
……思い出して欲しい、という気持ちは痛いほど伝わってきたけれど、記憶が蘇ることは無く東の空が段々と白んできた。


「……夜が明けるね」

「……はい。
あの、手を…握って良いですか?」

「ん?ああ…」



遠慮がちに差し出された左手は少し冷たい。


「……右手も貸して」


両手で包んでみてもなかなか暖まらない。
そんなこちらの様子を真剣な表情で不安そうに見つめている。
その一生懸命な様子から掻き立てられる罪悪感に耐えられなくて、そっと抱き寄せると、静かに泣いている様だった。

「…思い出せなくてゴメンね」

「………………」




※続く※
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