めいこい 続き物

□やっぱりもう一度【3】
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その日は結局、陽が登って彼女の始発の電車を待ってから帰った。
別れ際、さりげなく頬を撫でられる感触は妙に気持ちをざわつかせた。
……まぁ、突然現れた可愛い子に言い寄られて良い気になってるだけだよね。

こちらは何も分からない以上は変に肩入れをしない様にしないと。


それから彼女はたまに店に現れるようになった。1人で来たり、友人と来たり。
僕がメインではやらない日を選んで来ている様だ。
……メインでやる日はホールに出られないからかな?
初めのうちは、あの時の子だ、という事で気を使ってか話題にはされなかったけど、ずっと通って来るから周りの他のスタッフもすっかり覚えてしまった。


「あ、綾月さんいらっしゃい。
今日も来てくれたんだ♪」

「こいつお客さんには手を出さないって言ってたのになー」

『あー、そういうんじゃないですよ。
僕が元彼に似ているらしいってだけですよ』

「そんなに似てるの?じゃあ本当に…」

『はい、ここまで。小田さん、呼ばれてますよ〜』

ちょっと突き放し過ぎたかな……でも他のお客様からも誤解されたらいけないし。
僕はこの子の彼氏に似てるだけ。
時期等を考えるとやっぱり別人としか思えない。
それに、聞けばどんな時でも夜しか会えなかったなんてとても誠実な付き合い方じゃない。

自分ならーー。
もっと大事にしてあげるのに。
どんなに忙しくても、昼間に会う時間位は作るし、夜に会う時だって夜明けなんて半端な時間じゃなくて、

…………朝まで?

…何を考えてるんだろう。
あんまり熱心に通ってくるから情に絆されたかな。
自分はそんないい加減な付き合いをする様な男とは違う、と思いたかったけど、今の状態も側から見ればズルいヤツだ。

ちょうど来週から忙しくなるし、しばらくお店には来ないでもらおう。
この子が本当に逢いたいのは僕じゃないんだから。


「今日、帰りに時間あるかな?」

「えっ…?は、はい…」

嬉しそうな様子に胸がチクリと痛んだ。

ーーーーー

「ゴメン、待たせたね」

「い、いえ!」

パッと顔を上げた彼女の笑顔が妙に眩しい。
気不味さもあってあまり顔を見られないまま並んで歩く。
店の外で話すのは初めの時以来だ。
通っては来るけど、その辺はあまり踏み込んで来ないでくれるから助かっていた。

「…あのさ、突然で悪いんだけど、しばらくお店には来ないで欲しいんだ。」

「えっ…それは…」

こちらを見ているのが分かったけど、目は合わせられない。

「……これから繁忙期に入るし君の相手ばかりも出来ないんだよ」

「あ、そ、そうですよね。すいません…皆さん…にもご迷惑ですよね……」

「迷惑と言うほどでは無いけど、…ゴメンね」


その後はいつもの様に他愛も無い話をして駅まで来た。
平日だというのに構内は人混みで溢れている。

「じゃあ、気をつけてね」

「……あの、」

「ん?」

「まだ終電まで時間があるので、ーーさんが平気ならもう少し…」


と言うと、遠慮がちにジャケットの裾を摘まれた。
不安そうにこちらを見上げる顔は真っ赤になっている。

………そんな顔で見つめられたら本当に勘違いしてしまいそうだよ。

この子は僕の事を消えた彼氏だと思ってるけど、僕からすれば、そうだとは思えない。
だから、あくまで僕は一時的にこの子に付き合ってあげてるだけ、のはずなんだけど…


「ーうん、大丈夫だよ。ここだと邪魔だから端に寄ろうか」

応じてしまった…。
しかもさっきは気付かなかったけど、改札から少し離れた場所は別れを惜しむカップルだらけだ。
柱の陰では人目もはばからずに熱い抱擁と口付けを交わしている連中もいて、その中に僕達が紛れ込んでいるのは非常に気まずい。

「はは…、場所変えようか」

「いえ、ここで良いです。改札から近いし…」

気にしてるのは僕だけかな?

「そう?じゃあ…」

結局、時間ギリギリまで他愛もない話をして見送る。
時間が無いから早く行けと手を振っているのに、何度も振り返る様子がおかしくていつの間にか笑ってしまっていた。
もっとずっと見ていたい、と思いつつもそういう訳にもいかなくて、彼女の姿が消えると無性に寂しくなった。
さっき伝えたし、しばらくはお店にも来ないだろう。
もしかしたら今日はあの子と会う最後の日だったのかもしれない。

ーなんて大げさだな。
それに、そうだとしたら、本当に探していた人を見つけたって事だし、喜ばしい事じゃないか。

想像以上に落ち込んでいる事に気付いて、やはりこれで良かったのだと思う。
僕がその本人だったとしても、全く記憶が無い以上は成り代わることは出来ないんだから。
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