めいこい 続き物

□やっぱりもう一度【4】
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そうこうしているうちに日は傾き始めてクリスマスのイルミネーションに灯りが点き始めた。
陽が落ちると混むらしいという事で観覧車に
並ぶと、ちょうど夕焼けの辺りで順番が来た。


ゴンドラが上がっていくに連れて、夕暮れとイルミネーションに囲まれた景色が広がり、とても綺麗だ。
すごく良いタイミングだったかも?と思っていると、風なのか僅かに揺れた。
向かいに座る彼女を見ると手を握り締めて目を瞑ってしまっている。

『怖いの?』

『…はい、少し。あはは』

『ふーん。それなら…』

と隣に座る。

『………こうしたら少しは平気かな?』

手を伸ばして抱き寄せると、腕の中にすっぽりと収まった。

『えぇっ、あ、あの…』

『実は僕も怖いんだー』

柔らかい髪に指を通すと、花の様なふんわりとした匂いが鼻腔をくすぐる。

『ふふ、そうは見えませんよ?』

『……怖いよ。
このまま記憶が戻らなかったらと思うと怖くて仕方ないんだ』

『…………え?』

『君は僕の事を消えた彼氏だと思ってるからこうして会ってくれてるけど、
…もしもこのまま記憶が戻らなかったらもう君には逢えないのかな』

『……』

『やっぱり、その消えた彼氏じゃないとダメ?
今の僕として君に触れちゃダメかな?』

ーー抱き締めながらこんな事を聞くのもおかしいけど、つい腕に力を入れてしまう。

『………それじゃあ、店に来るなって言うのは…?』

『……もっと君に逢いたくなってきたから』

『ーーえ?』

『君がその人の事を本当に好きだったんだと分かるから。
君にとっては同じかもしれないけど、今の僕にとっては別の人の事だから……』

『……………じゃあ、嫌われた訳じゃ…』

あぁ、泣いちゃった。

『うん。
…………………むしろ逆、かな。
はは…。
急にごめんね。こんな話をするつもりはなかったんだけど……』

『…………』

『……ダメかな?』

腕の力を抜いて額を付けると涙目で覗き込まれた。


…向き合うと、さっきのココアの甘い匂いがする。

『私もーーさんともっと一緒にいたいです。
でも、切り離して考える事はどうしても出来なくて…ごめんなさい。
ただ………一緒にいたいです…もっと……逢いたい……です』

『…それは、記憶が無いままの僕でも良いって事?』

『ーはい』

『……ありがとう』


西陽が差して少し眩しいけど、君の事をもっとよく見たい。
こちらから覗き込むと君の瞳が微かに揺れる。
その瞳には今は僕だけを映して欲しい。
僕の事だけを考えていて欲しい。
何か言いかけた唇に口付けると暖かくて、微かに甘かった。

『……っん、ココアの味だ』

『………ふふ』

もう一度唇を重ねると、そっと背中に手が回されるのが分かった。
柔らかい唇を食んでいると時間が経つのを忘れてしまいそうになるけど、ここは観覧車だ。
いつの間にか木々の高さまでゴンドラが降りてきていた。


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