めいこい 中編
□君に逢いに/補完妄想
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「3、2、1、」
慌てて制止するが間に合わず、芽衣の姿は消えてしまった。
「おいっ!」
松旭斎天一の方を向くと、彼は片膝をついて、姿が消えかかっていた。
心無しか苦しそうだ。
「しっかりしろよ、
これからあの子を追いかけるんだろっ!」
だが反応が無いまま姿は薄くなっていく。
必死の呼び掛けも虚しく目の前で消えてしまった。
「あんた、一緒に帰るって、決めたんだろ…」
届かないと分かっていても声に出さずにはいられなかった。
「……ん?」
視線を向けた先に狐の根付が落ちていた。
二人に関係がありそうだけど、付喪神が付くには新しすぎる…
昨日今日買ったかのように真新しいそれは、おそらくあそこの稲荷神社の物だ。
考え込んでいたら、ウサギが身を乗り出して慌てたように箱の中を指差していた。
しまった、芽衣は無事なのか?
移動をする途中で物の怪の妖力が尽きたりしたら一体どうなるのか?
空間の狭間に閉じ込められたりはしないのか?
…なんて世話がやけるんだ!
「あの子を助けられる?」
コクリ、と頷くや否や、ウサギは箱の中へと飛び込んで行った。
『……チャーリーさん。
私たち、現代でも会えるよね?』
『さよなら……芽衣ちゃん』
2人の最後の会話を思い出す。
あの付喪神はこうなる事を分かっていたんだ。
箱に入る前の、芽衣の不安そうな顔が浮かび、箱に向かって呼びかける。
「あんたさあ、あの付喪神の主なんだろ?
だったら少しは信じてやれば?」
泣きじゃくっている…様な気がした。
「ああもう!泣いてないで、とっとと帰りなって言ってるんだよ、このグズ!」
力一杯、箱に向かって叫ぶ。
時間がないんだ…!早く、早く!
…どれ位待ったか、ウサギが箱から飛び出してきた。
と同時に箱は消え、気付くと空が白み始めていた。
芽衣は「向こう」へ、無事に帰れたみたいだ。
後は…あの付喪神だ。
この時代とか現代とか、もしかして芽衣は未来から来た人間だったのか?
だとしたら、この根付は芽衣の物で、松旭斎天一はこの根付に付くはずだった付喪神って事か?
でもここに残ってしまってるという事は…
いくら考えても策が浮かばない。
諦めて取り敢えず持ち帰る事にした。