めいこい 中編
□20年目
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「店主さんが戻って来た」
「赤ちゃんも一緒みたいだよ!」
扉がそっと開き、か細い泣き声が入って来た。
「泣いちゃってるよ」
「泣かないで!ほら!」
「笑ってよ〜」
お店にいる付喪神達は赤ん坊に夢中になって我こそはとあやそうとしている。
魂依ではなくても子供の場合はだいたいなんらかの反応があるから、みんな期待してしまうのだ。
そうしてみんなであやしていると、
赤ん坊は何かに気づいたようにキョロキョロと周りを見渡して泣き止んだ。
明らかに指を指してきゃっきゃと声をあげて笑い始めた。
「笑ってくれた〜」
「あれ?もしかしてこの子…」
「うん、僕たちの事はっきり分かってるね」
「魂依だ!」
「こんなに可愛い子が魂依だなんて嬉しいなぁ!」
「……可愛いなぁ…」
これまでも赤ん坊に関心を持った事は無かった。
赤ん坊に限らず人間との関係は主従だけだと思っていた。
だから一生懸命あやしている仲間達を遠巻きにするように眺めていたのに…。
なんでこんなに心が浮き立つんだろう、ずっとあの笑顔を見ていたいと思ってしまうんだろう。
見える世界が変わってしまったのが分かった。
…………………………………………
今、芽衣ちゃんの学校で流行りだというドラマを一緒に観てる。
いわゆる恋愛物で、芽衣ちゃんの回りでは「切なくて堪らない」んだって。
主人公が可愛いとか、その幼馴染役の俳優がかっこいいとか、すごく楽しそう。
芽衣ちゃんの方が余程可愛いけど、って言ったら、一瞬、照れた後に怒られた。
だから話は分かる程度に観て、こっそり芽衣ちゃんの反応を観てるのがその時間の主な楽しみ方になってるんだけど…
「ど、どうしたの?!」
「だ、だっでぇー」
気付くと子供みたいに号泣してる。
デート中の主人公が、席を外した幼馴染の彼を待っている、てだけだよね?
別れ話でもされるのかと主人公は心配しているけど。
「あ、始まった!」
CM終わっちゃった。
幼馴染は主人公にプロポーズするつもりだったのに、指輪を何処かに落として探し回っていたみたい。
日付が変わる5分前にぎりぎり間に合って
『どうしても今日にしようって決めてたから…
待たせてごめんな。
もう一人で置いていかないから』
めでたしめでたし。
良かった、芽衣ちゃんも笑顔になってる。
「さっきは急にごめんね」
と泣き腫らした目で笑ってみせる。
「…それにしても尋常じゃなかったね」
「えへへ。
もしかして置いて行かれたのかも?ってシーンで、チャーリーさんが帰って来るのを待ってた1ヶ月を思い出しちゃって…
なんだか無性に泣けてきちゃったの」
思い出したのか、また泣きはじめる。
笑顔でポロポロ涙を流して
「チャーリーさん、ずっと大好きだよ」
なんて、反則だよね。
「本当に可愛いんだから…」
……………………………
昨日は泣き過ぎてチャーリーさんを心配させちゃったなぁ。
あんなに泣いちゃうなんて、自分でも恥ずかしい…。
それにしてもラストはキレイなウエディングだったなぁ、
と余韻に浸っていると、チャーリーさんがおもむろに包みを取り出した。
「はい。これ、プレゼント。芽衣ちゃんにあげる」
開けてみると、少し前に見つけてずっと気になってたネックレス。
「え?どうしたの、コレ?」
チャーリーさんには言ってなかったのに、なんで分かったんだろう?
第一、可愛らしすぎて私のイメージと合わないんじゃないかと思って諦めてた。
「あれ、お気に召さなかったかな?」
「そんなこと無い!嬉しいよ、ありがとう」
「ほら、着けてあげるから貸して」
着けて貰って鏡を見ると、ピンクと透明の小さいダイヤがキラキラ輝いて凄く可愛い…。
「やっぱりよく似合うよ♪」
でもこれ、結構良い値段だったよね…。
「嬉しいけど、なんだか悪いよ。
つい先週、誕生日のお祝いをして貰ったばかりなのに…」
まさか、昨日のドラマの真似!?
いや、チャーリーさんに限ってそういう安易な事はしないし……
「良いから良いから。じゃあ、成人式の前祝いって事で」
「うん…」
なんだか腑に落ちないけど、素直に感謝を伝えた。
チャーリーさんはいつもはぐらかすけど、今度こそちゃんとお返しをしなきゃ。
大変だったんじゃないのかな?申し訳ないな…。
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