めいこい 中編
□吸血鬼チャリ芽衣/パラレル
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ある時、依り代の持ち主の女の子が怪我をして、その血が僕の依り代にかかった。
その時には既にもう付喪神としてその女の子を主と認識していたから、主の芽衣ちゃんに怪我をさせた奴の血も頂いておいた。
特に意識をしてやった訳ではなかったけど、両方ともなかなか良い感触だった。
それからはたまに手近な所で血を頂いたりしていた。
そして、ただの付喪神だった僕はいつの間にか、物の怪の仲間達から吸血鬼と呼ばれる様になった。
西洋ではそういった伝承もあるみたいだけど、自分の周りでは会った事がない。
はっきりしているのは、血を浴びて主の事が前よりも良く分かる様になった事だ。
僕が考えるべきは主の幸福だけだから都合が良かった。
元々存在しないはずの自分が血を吸うなんてどういう事なのか我ながらよく分からない。
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その日は新月で世界は暗闇に包まれていた。
悪い事は大体、今日みたいに月の力を借りれない日に起こる。
その暗闇の中で、大量の血を流している芽衣ちゃんを腕に抱いていた。
見通しの悪い山道で、速度超過のトラックがカーブを曲がりきれず、芽衣ちゃんの乗ったバスに正面からぶつかってきたのだ。
トラックは勢い余って山肌を転がり落ちて行った。
そして、僕は主の前に初めて姿を現してこうして対面していた。
「あなたは…だれ?」
「君の下僕かな?」
「な…にそれ…」
「うーん、まぁ守り神みたいな物だと思ってよ」
「…その守り神さんが…なんでここにいるの?」
「君が死んでしまいそうだから」
「……やっぱり。
…もう、ダメ……なのかな……」
「うん、そうだね…。
…まだ生きたい?」
「…まだ、死にたくない…」
「………僕と一緒に生きてみる?」
「…神様と?」
「いや、さっきのは例えさ。
僕は、君が今手に持ってるお守りに憑いてる物の怪なんだ」
「…え?本当に人間じゃないの?」
「人間じゃないよ。
僕と一緒に生きるって事は、人間ではなくなるって事だけど」
「………どうすれば……良いの」
「君の血を吸わせてもらう」
「……吸血…鬼?」
「まぁ、そう言うことにもなるかな」
「……私は……どうなっちゃうの?」
「正直よく分からない。ただ、この場はしのげる」
「……私は……あなたの事を、…よく、知らない、…け……ど」
「僕が知ってるから良いんだよ。
この先、もしも君が困る事があっても、何があっても必ず助けるから」
「……………」
「だから、僕と一緒に生きる事を選んでよ。
このまま君を死なせたくないんだ」
「…………………」
…意識が無い。
もう時間は残って無い様だ。
「……………、
……………ゴメンね」
本当はちゃんと了承を得てからにしたかったけど、仕方ない。
力の抜けた君の襟元を緩め、所々血に濡れた青白い首筋に歯を突き立てた。
既に依り代には君の血が沢山かかっていたけど、直接吸い取る主の血は、正体の分からない渇きを満たしていく様だった。
ーこれで大丈夫かな…。
しばらく様子を見ていると、頬に紅味が戻ってきた。
「………………ん、ううん…」
良かった………。
「気が付いた?」
「………あれ、私…?」
「途中で君の意識が無くなっちゃったから、
…………血を吸わせてもらったよ。
勝手な事してゴメンね」
「………そう」
彼女は特に何も言わず目を閉じた。
遠くからパトカーと救急車のサイレンが聞こえてきた。
もうすぐ夜が明ける。
芽衣ちゃんを地面に寝かせて、そのまま立ち去った。
ーー満月だったら他に方法があったかもしれないのにね。
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