めいこい 中編

□月虹 〜2編〜/甘
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「夕闇の虹」


夕方、日比谷公園に出かける時間が近付いても昼からの雨は降り続いていた。
すぐに止むだろうと思っていたのに、ガラス窓を叩く雨音は強く弱く鳴り続けている。

ー雨は元々嫌いじゃ無い。
でも雨の日はチャーリーさんが私を早く帰らせようとするし、場合によっては来ない方が良いとさえ言われてしまうから、夜の雨に限っては嫌いだ。
彼の言うことはもっともで、私の事を心配してくれているのは分かるけどー、
そのせいで最近はほとんど逢えていない。

今日は晴れそうだったから久しぶりにちゃんと逢えると思ったのにな…。

落ち込みながらも微かな期待を抱いて出かける用意をしていたら、雨足が弱くなって来た。
この分なら陽が落ちる頃には止んでくれそう。

良かった…!

少しの時間も無駄にしたくないから、いつもより早めに日比谷公園に向かう。
道路は濡れていて普段の様な土埃もなく、空気まで雨でキレイに流された様だ。
久しぶりに逢える嬉しさも手伝ってか、真っ赤な夕焼けの鮮やかさがとても綺麗に感じる。


その夕焼けが空の端で茜色に変わろうかという頃にチャーリーさんが現れた。

「やぁ、久しぶり。
今日も雨が降ってたんだね」

「うん。
夕方までに止んで良かった…!」

…逢えない間ずっと寂しかったんだから、という思いが言葉に乗ってしまうけど、チャーリーさんが気に止める様子は無い。

「本当に」

と笑って軽くキスをされる。

「少し冷える様だけど?」

「平気!」

確かにベンチは少し冷たいけど、もう雨は止んでるよ?
だから今日は一緒にいて良いでしょ?

「…うーん、風邪でも引いたりしたらその間は逢えなくなっちゃうよ?」

「…………イジワル」

私が毎日でも逢いたい事を分かっていて、敢えてそういう言い方をする。

「イジワルなんかじゃないさ!
どうすれば分かって貰えるのかなあ?」

チャーリーさんの事だから、本当に私の身体の方を心配してくれているんだろう。
でもこうしてやっと久しぶりに逢えたんだから、もう少し嬉しそうにしてくれたって良さそうなものだ。

「……なら、寒くない様に何か出してよ」

「まったく、君は頑固だなぁ……じゃあ、
ー3・2・1…!」

と指を鳴らすと、大きなマントの様な物を出して一緒に包まれた。

「これならどう?」

「……うん」

外気が遮断されるだけでも違うけど、肩を抱かれてチャーリーさんの体温が伝わってきた。
膝に手を乗せると手が重ねられ、指先を柔らかく包む様に握り直された。

「はあ。やっぱり冷えてるじゃないか」

溜息混じりで呆れた様に呟くのが聞こえた。

ーーそんな言い方しないでよ。
逢えて嬉しいのは私だけ?


覗き込むといつもの様ににっこりと笑いかけられる。
見上げていると顔が近づいて目を閉じた。
顔中に柔らかく触れる口付けを感じていると、その温かさにここが外だという事を忘れてしまいそうになった。

「少しは温かくなった?」

額をつけたまま悪戯っぽい目でジッと見つめられた。
相変わらずの余裕そうな態度が気に入らない。
さっきから私ばかりが逢いたかったみたいじゃない。

ーならそれでも良い。


「ん………、」


ちゅっ。と音を立てて軽く吸い付く様にキスをしてみるけれど、チャーリーさんの下唇までしか高さが届かなかった。
すると背中と後頭部に手が回り身体を引き寄せられ、覆い被さる様に抱き締められた。
少し細めた目に視線を捉えられると、唇を強く押し当てられて息が出来なくなる。
辛うじて唇の隙間から呼吸をしようとしても、すぐに塞がれてしまう。

「んん……っ!…っふ、ん…」

息苦しいのも手伝ってか熱い吐息を吸い込む度に頭の中が蕩けていく。
チャーリーさんの背中に手を回してはいるものの、身体が崩れ落ちてしまいそうだ。

…結局余裕を奪われるのは私の方だ。

薄らと瞼を上げるとチャーリーさんにずっと見つめられていた様で目が合った。
でもそのままキスを続けるから、自分の余裕の無さを見られている恥ずかしさで耳の後ろまで熱くなる。

視線に耐えられなくなって再び目を閉じたら歯茎を舐められた。
促されるように口を開くと、ひんやりした空気と一緒に入って来た舌の熱さに完全に意識を絡め取られてしまった。
唾液で濡れた肌はすぐに冷えてしまうけれど、触れ合う肌の熱さが際立つ様でそれが愛しくて堪らない。
…息苦しくて呼吸する隙を探していたはずなのに、いまは私たちの間にある隙間を全て無くしてしまいたい。

「…ん、っふ……ぁ」

「………っはぁ。
…………大丈夫?」

「………うん」



お互いに少し息が上がったまま抱き合っていると、チャーリーさんが何かに気付いた。
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