めいこい 中編

□月虹 〜2編〜/甘
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「あ、虹が出てる」

促されて目を向けると、闇の中に白っぽい光の橋がぼうっと浮かび上がっていた。
虹なんて昼だけの物だと思っているから、その違和感も手伝って、とても幻想的だ。

「……キレイ。夜の虹なんて初めて見た…」

「そりゃそうだろう。
現代の夜は明る過ぎるから、出ていても見えなかったはずだよ」

「そうなんだ…」

まだ夜の闇が深い時代にいるからこその景色。
現代だと明る過ぎてその姿が見えないなんて、物の怪達みたいだ。
そう思うと、チャーリーさんと虹の姿を重ねてしまう。
…この虹の橋の向こうに行ければ、私達もずっと一緒にいられる、なんて。


「どうしたの?」

「……なんでもない」

虹を眺めながら、ありえない事を考えてしまう位にはチャーリーさんの事が好きなんだなあと改めて思う。
おとぎ話への架け橋は、高く上っていく満月とは対照的に低くなり、徐々にその姿を薄くしていった。



「…消えちゃった」

「いやぁ、明治とはいっても珍しい事には変わりないから、ラッキーだったね。
芽衣ちゃんと一緒に見られて嬉しいよ。
……今日は来てくれてありがとう」

「………もう帰れって言わないの?」

「まだ拗ねてるの?」

「……………」

「うーん。本来ならもう帰った方が良いとは思うよ?
霧雨にもなってきたし。
これで君が風邪を引いたりしたら責任を感じてしまうよ」


「…それは…っ…」


「ーでも」

と、一呼吸置くと眉尻が下がって柔らかく笑う。

「流石に今は帰れなんて言えないよ」

それだけ小さく呟くと、頭を支えられていた手で、髪を梳く様に撫でられる。
指の間に残る毛先を軽く握って引きよせられた。

「僕だって芽衣ちゃんに逢いたくて仕方なかったんだ…」

……聞きたかったのはそれだ。

「…………本当にそう思ってる?」

「あはは、まいったな。
毎日逢っていたって、次に逢える時が待ち遠しいのは僕だって同じだよ。
今日は久しぶりにやっと逢えて、抱き締めて、キスをして…、
今もこうして腕の中にいるんだから…」

額にキスをされて抱き締められる腕に力が込められる。
心なしかチャーリーさんの鼓動も速い様だ。

「もうしばらくここにいて欲しいんだけど、ダメかな?」

「…………」

答える代わりに背中に腕を回す。
ずっとこうして一緒に抱き合っていたいな…。



…………………


「……さっきの虹はね"祝福の虹"って言われてるんだよ」

「祝福の虹?」

「そう。
見た人はこれから幸せになれるっていう縁起物だよ。
芽衣ちゃん良かったね♪」

…こういうところは相変わらずブレない。

「ふーん。
…チャーリーさんの幸せは何?」

「僕の幸せは、芽衣ちゃんが幸せになる事だよ」

「なら、"私達"はもう幸せだね。
チャーリーさんと一緒にいれば私は幸せだから」

「…………っ


………………ありがとう」



強引なくせに弱気な恋人にはこれ位言ってあげないとね。



「夕闇の虹」
※おわり※
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