EXOのBOOK

□kiss & cry
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『kiss & cry』


Yifanは仕事から戻ると、鍵をチェストの上に投げつけベッドに勢いよく倒れこんだ。

仰向けになり携帯を見る。

今日もいつもの友達や仕事関係のメールでいっぱいだ。
その中に、期待している相手からのメールがあるか探してみる。


今日もそれは無い。


別に期待なんてしてない・・・


Yifanは、そう自分に言いきかせる。

溜息をつき、携帯を伏せる。
目を閉じてそのまま眠ろうとする。

静かすぎる夜がポッカリと空いた心の寂しさを浮き彫りにする。
遠いところでTaoの呼ぶ声が聞こえる気がした。

『Yifan、ねえ、Yifan・・・』

Yifanは目を開ける。
携帯を再び見る。

サイトを開きタグ検索に「Tao」と入力する。

(バカげてる。俺は何してる?)

検索を押すのをいったんは躊躇した。
でもYifanは押した。

Taoの最新の画像が並ぶ。
相変わらずの笑顔とナルシストな表情だ。
Yifanは自然と微笑んでいた。

でも笑顔はすぐに消える。

TaoとSehun2人が一緒の画像。

それはいくつも並んで出てくる。

かつてはTaoの隣にいるのは自分だった。

Taoの頼る表情も、笑顔も、泣き顔も
自分だけのものだった。

でも今は違う。


Yifanは携帯を伏せた。

疲れた体を起こし、フラフラとバスルームに向かう。
服を脱ぎ捨て、シャワーを勢いよく出した。
バスルームは蒸気で一気に白く煙った。

思い出しかけたTaoとの日々を洗い流すように
頭からシャワーを浴びた。

思い出を洗い流すどころか、
むしろ鮮明に時は甦る。

Yifanは両手を思い切り壁に打ち付ける。
俯くと、滴り落ちるしずくをながめた。

『Yifan。』

Taoの声はYifanの頭の中で微かに聞こえる。

Taoの香水の香り、
柔らかい唇、
熱っぽい肌
潤んだ瞳、

抱きしめたときの感触。


自分のものだった。


でもいつからか、彼を疎ましいと思ったこともあった。

なぜ自分から遠ざけた。


そんな愛しかった者を・・・


「Tao・・・」


Yifanは床に座り込み頭を抱えた。


もう・・・・

忘れなきゃいけない。

忘れるんだ・・・


-------------------------


いつものように朝はやってきた。

携帯のアラームを止めた。
着信履歴があった。

名前を見てYifanは飛び起きた。

Luhanからだった。

携帯の画面を見つめたまましばらく放心状態だった。

なぜLuhanから?


Yifanは迷った。電話をするか、しないか。

2回鳴らして出なかったら切ろう。
Yifanは発信を押した。


「Yifan?」

Luhanは1コールで出た。

「あー・・・Luhan・・・」

何を話したらいいかわからなかった。

「Yifan、元気?」

「ああ。」

少しだけ沈黙があった。

「Yifan、来週仕事で韓国にくるんでしょ?」

「あー、うん。なんで知ってる?」

「芸能ニュースは常にチェックしてる。」

「そっか。」

また沈黙。

「Yifan。

 Taoが。

 毎夜のように寮からでかける。」

「へえ・・・。」

「自転車で。ちょっと走ってくるって。毎夜。」

「へえ。」

Yifanはなんだか電話したことを後悔した。

「Luhan、それだけ?」

「Yifan。」

Luhanはちょっと怒った口調になった。

「Taoはすごく寂しそうだよ。最近のファンカムの写真、
見たことある?」

「そんなもの見ない。」

沈黙。

「Yifan。ごめん。元気ならそれでいいんだ。
 これから仕事でしょ?じゃあ。」

電話は切れた。

嫌な気分だった。

久しぶりのLuhanとの電話なのに
なんでこんな気分になったのか。。

サファリを開くと昨夜検索したTaoの画像がそのままだった。

Luhanの言う通りだった。
写真の中のTaoはどれもどこかしら遠くを見つめた
寂しい目をしてる。

(Tao・・・)

Luhanが電話で何が言いたかったのか。
Yifanにはなんとなくわかっていた。

TaoはYifanとよく自転車で出かけた場所に
毎夜行っている。

それは何故かと考えてはいけない気がした。


--------------------


韓国は数カ月ぶりだった。

午前中に雑誌の撮影の仕事を終え
午後は自由な時間をもらうことができた。

自由といってもマネージャーはつねに付いてくる。
繁華街を歩く。
アクセサリーの店が目にとまった。

最近、ピアスをつけることが減った。
EXOにいたときは、いつもTaoとピアスを共有した。

(Taoと一緒にいたころはこういうアクセサリーの店にもよく来たな。)

Yifanはアクセサリーショップに入った。
ずらりと並ぶピアス。

オニキスの黒いピアスが気になった。

Taoなら、こんなのを着けるだろう。

「このピアスをプレゼント用に・・・」

Yifanは会えるかわからない相手にこのピアスを買った。

夕食を食べた後、Yifanはマネージャーとタクシーで、
ある公園に向かった。
懐かしい公園だった。
プレデビューのころからずっとTaoとよく来た。

「マネージャー。数時間だけ一人にさせてください。」

ダメだと言われるのはわかっていたけど、どういにか説得した。
この公園内で1時間ならいいということになった。

この公園の端に、人目にふれない街を見渡せるTaoと自分だけの
場所があった。
そこへ足早に向かった。

何故か気がはやる。
なぜこんなに躊躇なくそこへ向かうんだろう。

『Yifan。

 Taoが。

 毎夜のように寮からでかける。』

Luhanからそれを聞いてから、
もうその時からここへ来ようと
Yifanは考えていた。

木の茂みをかき分けて
たどり着いた場所は・・・・

厳しいレッスンの後に来た、、
つらいことがあった時に来た、

Taoと2人きりになるために来た。

そこはキラキラとした街並みを見下ろすことができる
静かな場所だ。

Yifanは深呼吸をした。

時計を見る。
いつも2人で散歩にでかけた時間だ。

でもTaoのスケジュールもしらない。
今日彼がここへ来るかどうかもわからない。

でもYifanはここへ来たかった。

Taoと夜景を楽しんで、買ってきたスタバのコーヒーを飲みながら
いろんなことを語った。
歌ったり、笑ったり、叫んだり、泣いたり。

Yifanは夜景をみながら微笑んだ。

急にYifanは不安になった。
もしTaoが来たらどんな表情で会えばいいのか。
何を話すのか。

時間はいつの間にか30分もたっていた。
あと30分くらい・・・

15分くらい・・・

あと10分・・・

不安よりも、胸のあたりがキュッとするような
寂しさを感じ出す。

(会えないか・・・)

携帯が鳴る。
マネージャーからだった。

「はい。もうすぐ戻ります。」

Yifanは溜息をついて空を見上げた。

そのとき、聞き覚えのある歌声が聞こえてきた。
その声は木の茂みからだんだんこちらに向かってくる。

Yifanはただその近づく声に向かって
身動きできず、固まっていた。

Taoだった。
目があった瞬間、2人は言葉も出ず
ただ見つめ合っていた。

しゃべったのはTaoだった。

「なん・・・で?」

Yifanは目を伏せた。

「なんで?・・・なんでここにいるの?」

Yifanは何を言ったらいいかまったくわからなかった。

「Yifan、なんで?
 会いたくなんてないよ。
 なんで現れるの?
 なんで・・・」

Taoの声が涙声になっていく。

Yifanはそっと顔を上げる。
Taoの顔はくしゃくしゃになった。

Taoが後ずさりする。

Yifanの胸はせつない痛みでいっぱいになる。
そして視界がぼやける。

「Tao・・・」

とっさにYifanはTaoの腕を掴んで胸に引き寄せた。
Taoの香水の香りがふわりと香る。
なつかしい感触が体中に伝わる。

Taoが背中に腕をまわす。
苦しいくらいに力を入れる。

Yifanの胸に顔をうずめながらTaoは
嗚咽をこらえながら声をしぼりだす。

「Yifan・・・寂しかったよ・・・」

Yifanは震えるTaoの背中をさする。

「ごめん。Tao。」

そっとTaoの両肩をつかんでゆっくりと体を離す。
2人は柔らかい草のはえた地面にならんで座った。

2人は夜景を見ながら涙を拭った。

「Tao。会えてよかった。」

「Yifan。」

2人は隣同士見つめ合う。
それは2人の中の合図のようだった。
自然に顔が近づく。
鼻と鼻が微かに触れ合うと
一瞬止まり、そしてゆっくりとYifanは
Taoに唇を重ねる。

何度もTaoの唇の柔らかさを確かめるように
口づける。

そしてTaoはYifanの首に両手をかける。
キスは徐々に深く熱くなる。

Taoの涙の味が混ざる。

息をきらしながら唇が離れる。
Yifanは何度もTaoの涙にキスをした。

「泣くな・・・」

携帯の着信音が鳴る。
でもYifanは無視する。

「Tao。時間がない。」

「いっちゃうの?」

「うん。」

「Yifan。」

TaoはYifanの肩に凭れた。
YifanはTaoの肩を抱き寄せて
最後にもう一回Taoの唇にやさしくキスをした。

この感触を忘れないように。

Yifanの携帯が再び鳴った。
Yifanは立ち上がり、電話にでた。
「はい、すみませんでした。今行きます。」

電話を切るとYifanはTaoに手を差出した。
Taoは潤んだ瞳でYifanを見上げて軽く微笑むと
Yifanの手を握り立ち上がった。

「またこの夜景一緒に見れるでしょ?」
Taoが願う様な目で言った。

「うん。」

確信のない返事をした。


夜景に背を向けると
そのまま手をつなぎながら木の茂みを出た。

「Tao。これ。」

Yifanは小さなギフトボックスをTaoの手に握らせた。

「ピアスだよ。」

「Yifan。ありがとう。」

Taoは嬉しそうに小さな箱を眺めながら言った。

「じゃあ、行くよ。」

Taoの目にはまた涙があふれる。

Yifanは痛む胸を振り切るようにTaoに背を向け
早歩きで歩き出す。

TaoはYifanが見えなくなるまでずっと見送った。


-----------------

今日も仕事を終えてYifanはベッドに倒れこむ。

携帯を見る。
今日もTaoからのメールはない。

そしてサファリを開く。
Taoの最新の画像を見て
Yifanは微笑んだ。
Yifanの贈ったピアスをするTaoが写っていた。

Yifanは自分の唇にそっと触れる。
Taoの柔らかな唇の感触はまだ鮮明に残っている。
Yifanはそのまま気持ちいい眠りに引き込まれた。


END
(もしかしたら続き書くかも?)

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