BOOK テニスの王子様3
□仁王×柳生26
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柳生比呂士は、俺にとっての最高の理想の形である。
俺とはまったく異なり、それでいて一番演じやすい、一番近い存在。
“イリュージョン”を使えば、道具を用いずとも他者に成るのは容易い。
しかし、それじゃつまらん。
練習前にひっそりと耳打ちで打ち合わせをし、互いにウィッグを被って入れ替わりの支度。
度のないレンズをはめた眼鏡をかけ、柳生はコンタクトを入れ。
そして、最後の仕上げの微調整。
「柳生、おまん少し太ったか?」
「貴方が痩せたのですよ」
人口毛の前髪を直しながら、頬のラインの差に気付く。
俺が痩せたんと?
そうかもしれんなあ。
完璧な柳生に完璧に成るために、俺は柳生に近付かんと。
ちゅーて、飯食うんは面倒じゃき、あんまり好かんけどなあ。
「夏が近付くと食欲が落ちるのは……分からなくもないのですが。大会もあるんですから、少しは気を付けなさい」
「へえへえ、分かっちょるって」
「口先だけで答えて結果が伴っていないのならば、分かっていないも同然ですよ」
柳生はこれを口が酸っぱくなるほど言うちょるし、俺は耳にタコが出来るくらい聞いた。
……これでキュウリがあれば、酢の物が出来よる。
なあんて、柳生が聞いたら「下らない」と吐き捨てそうなことを考えながら。
「『すみません、仁王くん。以後気を付けましょう』」
“紳士”らしく笑って。
「『本当じゃろうな?』」
「『ええ』」
ようし、入れ替わり完了。
そろそろ行かんと、真田の雷が落ちそうじゃしの。
梅雨の晴れ間の貴重な青空に、人工雷は落としたくはないて。
「『じゃあ、行きましょう』」
――Shall We Tennis?
END
2016/07/12