BOOK 黒子のバスケ3

□虹村×赤司01
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 赤が好きだ。
 いや、赤司が好きだ。
 熱いのに涼しさを孕んだあの瞳が。

「虹村さん」
「…………あ?」

 目を擦る。
 頭が重い。

「おはようございます。日誌、書き終わりました」
「……オレ、寝てたか?」
「はい」

 マジか。
 確かにここ数日、寝不足だった自覚はある。
 けれど、いくら部活後で疲れているとは言え、人前で眠るなんて。

 グッと体を伸ばすと、変な体勢で寝ていたせいか、背中が少し痛んだ。

「大丈夫ですか?」
「ああ、まぁ…」

 赤司の差し出した日誌に目を通して、頷く。
 さすがは『赤司さま』だという出来。
 すぐにでも部を任せられるな、そう思って、少し、切なくなる。

 こうなるのは、もっと先だったはずなのに。
 本人にも気取られないように引継ぎを済ませていくのは、ちょっとキツイ。

「赤司、」
「? 何か……」

 手招いて呼び寄せて、オレよりも細い腰に腕を回して抱き寄せる。

「悪ィ、少しだけ……」
「…はい」

 こんなにも、赤司と離れてしまうのが怖いだなんて。
 いくら部には所属したままになるとは言えど。

「虹村さん」

 肩を押されて、温もりが離れていく。
 恐怖に囚われてすがろうと腕を伸ばす、瞬間。

 赤司の恐ろしいまでに整った顔が近づいて、額に唇が触れた。

「え…、」
「お疲れのようでしたので」

 こういうのが効くと、黄瀬が。
 悪戯っぽくに微笑まれて、何かが切れた。

 小さな頭に手を伸ばして、力加減も何も考えず、思い切り引き寄せる。
 歯がぶつかって唇が切れても、気にならなかった。

 ただこの温もりを失ってしまうのが怖くて。
 少しでも憶えていたくて。
 少しでも憶えていてもらいたくて。

「悪い……」

 唇の上で呟いた言葉の本当の意味は、赤司には伝わっているのだろうか。

 自分本位の感情が。
 恐怖が。

 あの真理すら見透かしそうな赤い目の前では、隠し事は不可能そうだが。


END

2014/06/14

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