BOOK ユーリ!!! on ICE
□ヴィクトル×勇利02
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呼吸に合わせて上下する、柔らかな毛並みの背中を撫でる。
ヴィクトルの愛犬、マッカチン。
真利姉ちゃんから電話を受けた時、心臓が凍りつくように冷えるのを感じた。
唯一のヴィクトルの家族を失わせるわけにはいかない。
そう考えて日本に帰したコーチから受けた無事の知らせに、やっと僕の心臓は解けた。
遅れて帰国した僕から、まるで心配かけてごめんねとでも言うかのように離れてくれないマッカチン。
「――、本当、無事でよかった」
大きなヴィクトルのベッドで眠るマッカチンに抱き着くと、トロリと目を開けて小さく鳴く。
「ああ、ごめんね。起こしちゃった」
ペロペロと顔を舐めてくる温かい体を抱き止めて、僕もマットレスに沈む。
そう言えば、ヴィクトルはまだかな。
彼の部屋で待つように命じ階下へ降りてから、しばらく経っている。
そろそろ柱時計の鐘が鳴る。
ちらりとそちらに視線を向けた時、ぴくりとマッカチンの耳が反応した。
ヴィクトルが来たのだと察し、マッカチンを退かして姿勢を正す。
マッカチンも僕の隣で行儀良く伏せをしたその時、間抜けた鐘の音がボーンと鳴った。
それに合わせて鳴動を始める、僕のスマホ。
――そっか、今日は……。
「勇利!Happy Birthday!」
「うわあ!」
元は宴会場だった部屋の引き戸を開けて、ヴィクトルが飛び込んでくる。
激しい祝福のキスを顔中に受けながら、僕は彼の首に結ばれた青いリボンに気付いた。
「ありがとう、ヴィクトル。それで、そのリボンは……?」
「これ?プレゼントは――お・れ♡」
わー……。
このロシア人、またいらない日本の知識を得て来やがって……。
「誰から聞いたの、それ」
「ミナコ」
「ミナコ先生ぇー!」
信頼する、もう1人の師匠からの裏切りに、ガックリと崩れ落ちる。
「ミナコが、日本での誕生日祝いはこうするんだって。surpriseと、プレゼントは私」
「……間違ってはいないけどね」
間違ってはないけど、誰にも彼にもこういう祝い方をしちゃいけないからね?
そう釘を刺すと、よく分からないのか首を傾げたまま、ヴィクトルはコクコクと頷いた。
「OK、勇利だけにする」
「それもどうかと思うんだけど」
まあ、よその人間にやられるよりはマシか。
そう考えて、それで良いと返す。
「それで、」
「?」
ちゅ、と唇の上で鳴るリップ音。
「俺からのバースデープレゼントは受け取ってくれるかい?」
返品・交換は受け付けてないけどね。
そう言って、青緑の瞳が片方隠される、ウインク。
「もちろんだよ。――返してって言われても返さないからね?」
「それを言う予定は一生ないから、安心していいよ」
深まった秋の深夜。
閉じられた空間で大切な1人と1匹から愛と祝福を受けて、僕は確かに幸せだった。
END
2016/11/29