鬼人の叙事詩
□閑話
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数十年前、僕は「鬼」を助けた。
リオネス王国にて『七つの大罪』について訊き回っている一人の男がいるという噂が、最近酒場で話題となっていた。
ただそれだけならば、彼らもそんな情報で騒ぎ立てることなどなかっただろうが、話を聞くと、どうやらとてつもなく大きな魔力を保有しているらしい。
それこそ、『七つの大罪』以上のものなのではないか、というもの。
その存在自体が伝説となっている『七つの大罪』以上となれば、話の肴にはなるのだろう。
ここ最近の新しい噂では、聖騎士たちもその噂の男を探しているという。
「…そんなに有名なのか、そのカインってのは」
呆然とした様子の若い青年は、考え込むように腕を組んだ。
「おお! 兄ちゃんもその噂知ってんのかぁ? そらぁ、この辺りじゃ有名らぜぇ……? 話の肴にゃ必ずれてくんら」
そう自慢気に、呂律が回っていないまま話す男。
彼が酒瓶を五つ六つ開けていることを知っている周りは、苦笑しながら青年に気を付けるように言う。
その彼らも酔ってはいるのだが、呂律はしっかりしている。まだまだいけるようだ。
「……ぁあ? んだぁ兄ちゃん、知ったような口聞くじゃねぇかよぉぅ……」
幻聴でも聞こえたのか、青年を責めるかのような物言いをし、そのまま男の頭は机に強く打ち付けられた。
眠ってしまった男を前に、青年は軽く口元をひきつらせた。
「潰れてんじゃねーか。……なぁそこのおっさん、こいつどーすりゃいい?」
「あん? って、んのやろ、またかよ! あーあー、よえぇくせに呑みすぎやがって……。あー、あんがとよ兄ちゃん、こいつ飲みすぎたら死んじまうんだ」
「くはっ! んだそれ、冗談だろ!?」
ありえねー! と笑いが堪えきれなかった青年が、涙目になりつつ笑い転げる。
「いやぁ……それが冗談じゃねぇんだなこれが」
一回死にかけてんだよこいつ。
いやマジで、と真剣な表情でいう男に青年は大きく噴き出し、それにつられて周りも一斉に噴き出した。
「くはは、は、あはははは! マジかよそれ! 懲りねー奴!」
「だろぉ!? 俺らがどんだけ言っても聞かねーの!」
「そのうちマジで死ぬだろこいつ!」
「ひでーこと言うなよなー! かはは……あー、そうそう、そのおっさんのせいで忘れてたことあんだけどさぁ」
涙目のせいで真剣に見えないが、本人としては半分くらい真剣に言った。
「その噂の、カインって男、どんなやつなんだ?」
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