Novel
□片想い のち 両想い。
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今の状況。
私の後ろには壁。
前には菅原君。
菅原君の左手は壁につかれ、右手は私の腰に回されている。
耳のすぐ近くで菅原君の息遣いが聞こえる。
自分の心臓の音が聞こえていないかすごく心配になるくらい近い。
しかも密閉された場所だからか、菅原君の体温が高いからか暑い。
でも菅原君はあまり気にしていないようで他クラスの男子が全員居なくなるまで見てくれている。
他クラスの男子というのは文化祭でどうしてもメイド喫茶がしたかったらしく、私にコスプレを頼んできた男子だった。
「ちょっとトイレ…」と言って逃げ出したが探しに来た男子から隠れる場所を失って途方に暮れていた私をたまたま通りかかった菅原君が屋上でかくまってくれている。
まぁ片想いなんだし当たり前ではあるけど、自分ばかりドキドキしてしまって恥ずかしい。
「うん…全員居なくなったべ。もう大丈夫!」
いろいろ1人で考え事をしていると頭上から優しい声が降ってきた。
「あれ、なんか顔赤くない?」
薄暗いからバレないかと思っていたのにバレてしまった。
菅原君に指摘されて一層自分の顔に熱が集まるのを感じる。
「菅原君…。」
「ん?」
私が呼ぶと優しく聞き返してくれる。
本当はもっとこのままでいたい。
だけどそんなことしたら心臓が壊れてしまいそうだった。
「近く、ない…?」
私は軽く菅原君の胸板を押して言った。
「…もう少し。」
「え?」
今度は私が聞き返す。
「もう少し、このままで。」
そう言って菅原君はさっきより少しだけ手に力を込めて私を抱き寄せた。
私は自分の耳を疑った。
でも菅原君の言葉がどうしても嬉しくてつい笑ってしまった。
「どうした?」
ふふふと笑う私の声が聞こえたのか菅原君は不思議そうに顔を覗き込んでくる。
また自分の顔が赤くなっていくのがわかったので咄嗟に菅原君の胸に額を当てて隠した。
《キーンコーンカーンコーン…》
昼休みの終わりを知らせるチャイムの音が響く。
「俺の我が儘聞いてくれてありがと。」
菅原君はそう囁くとそっと離れた。
それから教室まで送ってもらい、互いに目も合わせられず只手を振って別れた。
授業の間も微かに残る菅原君の温もりと香りが忘れられず上の空だった。