小道

□あの夏は…
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「好きです!付き合って下さい!!」















暑い暑い夏
線香花火の様に一瞬で
キラキラした青春











『…… ごめん 付き合うとか今は考えられないから
それに、私アンタの事知らないし』


そう言い残し去ろうとする私を
男子生徒は呼び止める

「待って!!」


私は足を止め真っ直ぐそいつの目を見る


しばしの沈黙
一層 煩さを増した蝉達
運動場で、野球部が号令を交わす声
吹奏楽部の演奏 笑い合う声 走る音
雑音の中に響く体育会の床がバッシュで擦れる音


『(あ 花道叫んでる あれは寿とリョータの声だ
赤木から拳骨受けてなきゃ良いけど……)』

暫く飛んでいた意識を戻したのは
先程の男子生徒の声

「あ、あの!!
やっぱり 付き合ってるのか……?





三井君 と…… 。 」













『 はぁ!?寿と私が?
違うよ私等はそんな関係じゃないよ
アイツとは腐れ縁だよ
それに、寿はバスケットしか見てないから』

“じゃ、私部活あるから”
と伝え私はその場を後にした












『ごめん!遅れた』
ジャージに着替え体育会に入る
彩子に一言謝りを入れ自分の仕事をこなす


「いいですよー!
それより、今見ものですよ!!春未先輩」

目を輝かせ彩子は指を指す


「さっき、桜木花道が馬鹿やって
赤木先輩にバスケ舐めてんのかって怒られて
そしたらなんやかんやで
3対3の試合になったんです」


『へぇ、楽しそうだね!』

赤木、木暮、流川チームと
寿、リョータ、花道チームの試合



「三井先輩、赤木先輩に捕まってますよ!」

『 おー。赤木にハエ叩き喰らってる(笑』


汗だくになりながら
ボールを追いかける姿


三井寿 私の幼馴染み中学ではMVPを取り
安西先生に憧れる3Pシューター

そのバスケは
リョータみたいに光速ドリブルは出来ない
ましてや楓の様に華やかな技はないし
花道程の脚力と 体力は毛頭無い
体格なんて赤木と一緒に居れば小枝の様だし
木暮が持つ強い信念もない

すぐ寄り道したり拗ねたりするけど
その分 立ち直りも速い
この道を行けばいいと分かったらとことん進む
それが分かった今、寿は誰よりも何よりも強い

どんなに打ち負かされようが
ボールを手にしたら絶対に決める
息が切れようが体力が尽きようが
寿の放ったボールはゴールに吸い付けられる様に
綺麗な弧を描いて入る

小学校から、一緒だった
その時から私は見ている寿のバスケ姿を

寿はバスケットを再開した
この湘北で 安西先生が育て、
赤木と木暮が守ったこの場所で


『 私と寿が……ねぇ、』
水を指すなんてできないよ
今が、アイツの栄光時代なんだから


「オレと春未がどうしたんだ?」

『ぅお! ビックリしたー なんだ寿かよ
あれ?試合は!?』

「なんだってなんだよ 人の名前出しといて
あぁ?そんなんとっくに終わったぞ
オレの圧倒的勝利で幕を閉じた!」

「1点差だ!1点差!!」
『あはは! こんなのに負けるなんて
赤木らしくないねぇ』
「言ったな春未!
今日、お前ん家に寄って春未の晩飯食ってやる」

『うげ!今日唐揚げなのに!?』
「あ ゲームも持ってきた!」
『まじか 兄貴に今日帰って来るなってメールしよ』
「残念だったな!もう兄貴には連絡したぞ
今頃家に帰ってきてるだろーなー♪」
『ええ!?いつ!?』
「きのう」
『だからか!だから今日我が家は唐揚げなのか!!』
「そのとーーり!!
ついでに今日は兄貴と徹夜でゲームだから」

『まじかよ
ゲームつまんねーからお笑いみよう!』
「はい却下ーーー!」


「春未先輩、お兄さんいたんですね」
「うん、三井とも仲良いんだよ
よく春未と3人でバスケしてたんだって」
「木暮先輩会ったことあるんすか?」
「うん、何回かね 強そうだったよいろいと……春未のお兄さんだからね」

木暮の乾いた笑い声に
彩子とリョータは笑うしかなかった
























夏の長い日差しもようやっと沈んだ頃
部活を終え帰路につく二人の姿




「なぁ、春未」
『んー?』
「今日告られてただろ?」
『 何でしってんの!?部活中だったでしょ』
「んなこたどーでもいいだろ
その、付き合うのか?ソイツと」

わざとらしくぶっきらぼうに問いかける寿
ポケットに手を突っ込み小石を蹴る
ちょっとイラついてる時の仕草

「あれだろ 1年の時一緒のクラスだった奴だろ
顔が良くて頭が良いのが女は好きなのか?」


唇とんがらして
小学生から変わらない寿の癖
街灯に照らされた横顔

私の悪戯心に火をつける

『そうねー 女子は王子さまみたいな人に
憧れるのかも「 ! やめとけ あんな奴!

あんな薄っぺらい奴なんかと付き合うな
お前は、その 顔はまぁ、良いんだし
性格はあれだけとよ…………」

『あれって何よ』





「オレしかいないだろ!
こんな暴力女 他に捕まえとける奴居ないだろ
しょうがねぇからオレが面倒見てやるよ!!!」


バッと振り向いた寿に私はたぶんとんでもなく
アホな顔をしてるに違いない

『え、あの、、それは……』

私の両肩を掴んでいた寿の手が離れたと思うと
次の瞬間背中に回されガッチリと抱き締められた

私の思考は追い付かず
真夏の夜生暖かな空気と
寿の体温が私の頬を火照らす
けたたましく鳴り響く心音が寿に伝わりそうで
生唾を飲み込む


「いいだろ? ……オレが、春未の彼氏じゃ不満か?」



『 あ、たしは
私は…………寿がいいよ
寿が、好き』



「 ほ、本当か!?」

『うん
って、何度も言わすな!//』

「そっか、そうか!
よっしゃ!!好きだ!春未!!大好きだ」


ギュッと強く抱き締める

沈黙が二人を優しく包む












私よりも大きなゴツゴツした寿の手
二人で手を繋ぐ帰り道

「あー じゃあさこんどの休みデートするか!
春未弁当作れよ」

『いいね!弁当は母ちゃんに頼むけど』
「はぁ!?春未が作れよ!ウマイんだから」
『やだよ、めんどくさい』
「オレはお前のハンバーグが食べたい!!
だから作れ!あと、オムライス」

『ぅげ!めんどくさいのばっか


んー……ウチん家まで競争!!!
ドベが弁当作る!ってことでよーーーーい ドン!』
「はぁ!?ちょ、拒否権なしかよ!
春未ーーーー!!!! 」











あの夏の想い出は今も
この胸に色褪せず残っている











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