HIT企画

□CP9
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スパンダムの直属の部下とあって、一応CP9の所属になっているシノだが、実質的な仕事は長官の秘書的な事が主であり、諜報員ではなかった。
現在ルッチ達を潜入させているW7(ウォーターセブン)も、シノを送り込めば用心深いアイスバーグの核心に迫れる可能性が高くなるだろうに、スパンダムはそれをしない。
ルッチ達を一流の諜報員として認めている事も、まあ…理由として無くも無くも無い。
一番の理由は、己の傍に置いての護身と、任務とは別の私利私欲の情報収集に使いたいからだ。
CP9の長官として本部に出入りし、親の代からのコネクションも多岐にわたるスパンダムは、政府高官や権力者と場を介する事がままある。
そんな時、シノを自分の傍にそっと潜ませるのだ。
目の上のたんこぶの弱みを握ったり、自分には開示されていない情報を入手すれば、容易に他者を出し抜ける。
実に小悪党らしい発想で、能力の無駄使いをシノに強いているが故、シノの能力はいまひとつ上層部が期待したような使われ方がされていない。
しかもスパンダムはそれらの理由を全て、シノの人見知り人間不信のせいにしていて、一流の諜報員と同じ仕事をさせられるだけの教育が充分ではない、と上層部からの圧力をかわし続けているのである。
よくもまあそんなにペラペラと、自分に都合のいい言い訳が出てくるものだと呆れる一方、シノだって他のCP9と同じような仕事はしたくないしで、とりあえず利害の一致からそのままにさせている。
見知らぬ人間がウジョウジョ生息している人里など行きたくないのは当然の事、シノはこれまで、他の動物達と同じ様な生き方をしてきた。
己が生きる為、食い扶持を得る為、戦って生存競争を生き抜いてきたのだ。
逆を言えば、それ以外の為に無闇に誰かを傷つけた事など一度としてない。
空島に来た海賊を最初に監視していたのも、無益な争いをしたくなかったからだ。
自分から先制攻撃など一度としてした事はないし、海賊と戦うのだって、あくまで島を守る為、自分たちの生きていく場所を守る為だった。


世界政府などといった、人間の思惑が星の数ほど集まって、混ざり合って何が何だかわからなくなったような組織の掲げる正義など、シノには理解不能だ。
そんなよくわからないもののために、命をかけて命を絶やすなど愚の骨頂である。
やりたくない。


このままここに染まってしまうくらいなら、まだこのお馬鹿さんを隠れ蓑にやり過ごしている方がマシだ。


(いつか、いつか海軍や世界政府の上層部の中に、信頼できる権力者を見つけられたら、その時は……)


スパンダムについて、音波化して海軍本部に大人しく潜んでやるのも、そういったシノ自身の思惑もあった。


(早く、1日でも早く、またあそこへ)


緑豊かなあの場所へ、



「……かえりたい……―――」



不夜島の夜は時間ばかりがそうで、膝を抱えてみても、日中(ひなか)の明かりがシノ姿を隠してくれる事はない。
だから音波にその身を変えて、空に浮かぶ。
ここには、シノを乗せて飛んでくれる大きな背中はないのだ。



「…………」



プルプルプルプル…


シノの部屋で、電伝虫が着信を告げていた。
上空から流れ、自分の椅子に座るまでがおよそ0.5秒。
W7からの定期報告だ。


ガチャ。


「はい」


受話器を持つと、今は酒場のオーナーに扮しているという彼のようなヒゲが電伝虫に現れる。
いつ見ても不思議な現象だ。
潜入して3年経つが、どうやら目立った進展は今日も見られないようだ。


「わかった」

『……そちらは変わりないか』

「うん…相変わらず……」

『そうか』


CP9の中でも、物静かで人当たりのいいブルーノは、シノが最初に世間話をした記念すべき同僚でもある。
定期報告はガレーラとは少し距離を置いているブルーノから送られる事に決まっているので、シノもその点は安心している。
話しやすいというのもあるが、カクなどは意外とお喋りで突拍子も無い事を言ったりするから面倒だし、ルッチは何かもう、空気が面倒という…些か失礼な事をシノは思っている。
まあ、それはシノだけではないだろうが……なんせ、CP9の中でもルッチは”人を寄せ付けない度”でシノとツートップなのだ。
それも、シノとは違った意味で、主に凶悪な方向でだ。


『こちらは…そうだな……正式な通達はまだのようだがルッチが職長になるようだ』

「……ぷっ」

『………』


今現在、潜入先では鳩(ハットリ)を通さないと喋れない腹話術男が職長とか。
ハットリに扮して、腹話術で部下に指示を出す所を想像したシノは、思わず噴出した。
ヒゲをつけた電伝虫が、微妙な顔でシノを見上げている。


『……そう笑ってやるな』

「う…ん……」


とは言いつつ、まだ笑いが残っているのを感じ取った電伝虫が、ふう、とため息をつく。
あの男の纏う空気が変わってきたように思えるのは、潜入先に合わせたフリだけではないはずだと、ブルーノは思っている。


『あれでもあいつは………―――……いや……上手くやっている。皆……』

「うん」

『ではまた』

「うん」


ガチャ、と最後に言い終えた電伝虫が目を閉じる。
ブルーノが何か言いかけてやめた事は、シノでも気づいた。
だが、彼が必要ないと思った事ならそうなのだろう。
そう思って、やがてそんな事も忘れてしまってから―――数年後、ブルーノはルッチ、カク、カリファと共に、古代兵器に関わる重要参考人を連れ、エニエス・ロビーへと帰還した。



「おかえり」

「おう!今帰ったぞ〜〜!!相変わらずシノはちっこいのう!」


数年ぶりだというのに、出会い頭からイラッとさせるカクの手が頭部に触れるのを避け、シノはカリファのもとへ行く。


「ただいまシノ。長官のお守り大変だったわね」

「それはもう」


しみじみ大きく頷いたシノは、カクの言うようにちっとも変わっておらず、カリファは懐かしさで頬を緩ませ、指通りの良い黒髪を優しく梳いた。


「何でカリファは良いんじゃ!?」

「今ジャブラ達もいるから、多分メンバー全員揃う」

「あら珍しい」

「無視かい」


カクの肩を優しく叩き、背中を押して先を急がせるブルーノ。
彼らの方こそ相変わらずで、シノは最初に重役のように頷いたっきり、さっさと歩いて行くルッチの後をカリファ達と歩きながら、こちらも相変わらずだな、と思った。


表情を無くしたニコ・ロビンと、どう見ても海水浴中に捕獲されたとしか思えないカティ・フラムを引き渡した後、シノは彼らの任務報告書を受け取った。
秘書のような立場で酷使されているとはいえ、本来ならまっすぐ長官へ提出しても良さそうなものなのだが、内心ではゴミのように思っている長官の前にシノを通しておく方が安心であると同時に、非常に物事が円滑に進むらしい。
とは、以前尋ねてみた時にルッチに言われ、全員から同意されての事である。
長官が信頼されてない上司NO.1のせいで、シノにいらぬ手間がかかっているのは果たして円滑なのか。


書類と一緒にシノの肩に飛んできたハットリの羽毛を頬に感じながら、ザッと目を通していく。
きっと、これだけ見ても何がなんだかシノにはわからなかっただろう。
能力は優れていても、シノの頭は凡人に毛(現代知識)が生えた程度のものだ。
しかし、彼らが潜入していたのと同じだけ、彼らの報告を受けてきたシノには、内容だけではなくその重みが少しだけわかるような気がした。


「おつかれさま。ハットリ君も頑張ったね」

「ポッ」


書類を片手に持ち変えハットリの頬を撫でると、彼は羽ばたいて相棒の肩に戻っていった。
確かに受け取りました、という意味でシノが頷き、頷き返したルッチもまたすぐに踵を返す。



「――シノ」

「?」


と思いきや、部屋のドアに手を掛けたルッチが、こちらを振り返らずにシノを呼ぶ。


「お前の狙いはわかっている」

「……」


別にシノは驚かなかった。
一流の諜報員達が、わかりやすいシノの考えに気づかないわけはないからだ。
シノの周囲で気づいていないのは、唯一長官くらいである。
ただ、それをどのようにして事を起こすか、シノが空島の動物達のために何をするのかまではわかるはずがないので、シノもわかって放っておいた。
それすら見通しているだろうに、何か言いたい事でもあるのか。


背を向けていながら、ルッチには静かな黒い眼が問うのが目に浮かぶようにわかった。
あの馬鹿も、これくらい静かに物事を見極められたらどれだけ…と脳裏過ぎる。



「何をどうしようがお前の勝手だが…………おれがお前の望むものになってやってもいい」


「……」


然るべき時、おれを使う事を許してやる。


その意思がある事を伝えたかった。
おそらく、何年も前から。



「―――それだけだ」



閉じたドアに向け、もういない背中にシノは答えた。



「………うん」



島の外で、初めて仲間が出来た気がしていたのは、思い違いではなかったのかもしれない。
その為にはルッチにそれはもう華々しく出世して貰わなくてはならないが、不思議とそこは心配にならなかった。



…なんて思ったその日にエニエス・ロビーが滅茶苦茶になろうとは―――本当に、世の中どうなるかわかったものではないと思い知るシノだった。



********

無記名様、企画へのご参加ありがとうございました!

・管制官inCP9

以前からご希望頂いていた事もあり、ずっとやってみたかったCP9編。
やっと書けてとても楽しかったです!
シーザーといい長官といい、OPの浅知恵キャラってユニークでイジリたくなります。
職長に昇進した次期とかは捏造。
もし管制官がCP9にいてまともに戦っていたのなら、エニエス・ロビー戦は麦わらの一味負けそうです――が、あの長官なので「ルッチと共におれを守れ!状況を報告しろ!」とか言って、彼女の使い方を誤りそうです。
それにルフィの天運が加わり、多少の戦況の優位に差は出そうなものの、管制官自身、麦わらの一味の世界政府に逆らう姿勢とかにも色々思ったりして、何とか仲間1人取り返せそうな麦わらの一味を想像。
失態は、押し付けられる前に管制官が何とかしそうですが。
今回は入りきりませんでしたが、次があったら他のメンバーとも絡ませてみたいです。

リクエスト、どうもありがとうございました!
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