HIT企画

□IFゾウ
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深い霧で視界が遮られる海域の中で見えた大きな影。
間違いない、と確信したローは、目の前の影に騒ぐ麦わらの一味にビブルカードを見せた。


「―――見ろビブルカードはあれを指してる」

「おーーホントだお前の仲間いるんじゃん!!」

「ああ……深い霧と押し返す海流で侵入を阻む島だと聞いている」


近づくにつれ、山のような影が次第に明らかになってくると、その生き物に皆目を見張った。
それは島ではなく、生きた巨象だったのだ。
しかし、ローにはやや腑に落ちない事があった。
それが彼の表情をにわかに険しくさせるが、誰も気がついていない。
霧さえなければ、まさに天にも昇るような体躯に誰もが圧倒されている最中だ。
食い入るように目を凝らしていようと、なんら不思議ではない。
それが他者とは全く違う意味だったのだとしても―――


ローの予想では、船が深い霧に覆われた時点で接触があってもおかしくはないと思っていたのだ。
ドレスローザの件は世界的に大きく報道されているから、このゾウにだって知れていてもおかしくはない。
ならば仲間達とて、ローとの合流が近い事は想定していたはず。
たまたま寝ているという可能性もある、が……それで納得出来る時間はとうに過ぎている。


ゾウの足元、サウザンドサニー号に移っても、一向に動きが無い。
シノからの連絡が一切来ない。


「……おかしい―――おい麦わら屋一味!おれは一足先に行く」

「えー!!何でだよトラ男ーー!!」

「妙だ。おれがいる事に気づいてもいい仲間がいるが一向にコンタクトがねェ」

「ここで何にかあった…あっているかもしれないという事?」

「ああ」

「なっなななな何かって何だよォーーー!!?」

「”ROOM”」


ただでさえ上陸に二の足を踏んでいたウソップは、とうとうゾロにしがみついて叫んだが、それをゾロが腕で突っ張る頃には、ローの姿は無くなっていた。



********



「あっシノ!!良かった気がついたんだね!!!」

「なにィ!!?おーーい!!皆シノがァ!!」

「シノ!?」


ゆっくりと持ち上げた瞼はすぐに下がろうとして、シノが瞬きを繰り返す間に、ベポだけだった視界に仲間達の姿が増えていく。
伝えようと動かす唇はいつもより渇いていて、上手く言葉に出来ないもどかしさが喉につっかかって咳き込み、揺れた身体にひどい痛みが走った。


「っっ!!っふ…っく!!」

「シノ!?無理しちゃだめだ!!」


痛みで蹲ろうとする身体にベポが慌てて手を添えようとすると、シノの唇がかすかに何かを発していた。
ベポが耳を近づけてみると、咳き込む声の向こうに待ち望んだ人の兆しが隠れていた。


「っけふ…!……っっ」

「!?えっシノまさか…!!」

「何だよベポ!!」


ベポが聞き返すも、シノは深く目を閉じ、そっと苦しみを逃がすように息を繰り返すのみである。
息遣いが戻る頃には、シノの意識は再び深く沈んでしまっていた。
その前に、何とか届けられたのはたった二言だけで、シノにはそれを確かめる事すら出来なかった。



―――キャプテン…――クジラの森、………―――



「!」


それだけを残し、パッタリと途絶えた声は、たしかにローに届いていた。
いつになく、これまでにない弱って掠れきった声は、紛れもなくローの待ち望んでいたものだった。
待っても呼んでも返る事のない声に眉を寄せたローは、すぐに壊れた城門の上に飛び、物見やぐらの上に飛んだ。
見渡す景色の中で、クジラは真っ先に見つかった。
緑に囲まれた都の傷跡は色濃く、その向こうには都に負けないくらいに存在を主張するクジラの樹があった。


「あそこか」


歩く暇も走る手間も何もかもを省いて森へ辿り着いたローが最初に見たのは、傷ついた仲間達だった。
まさかと逸る気持ちでクジラの森の入り口に駆けて来る所だった彼らの中に、最も目立つ白熊と、いつも傍らにいるシノの顔はなかった。
素直に、仲間と合流できた喜びに浸れないローの気持ちを察するように、仲間達からシノの負傷が告げられる。
本当は真っ先にローへ飛びつきたかったであろうベポは、シノを置いては来れなかったようだ。


「キャプテ〜〜ン!!」

「キャプテン本物だァーー!!!」

「何があった」


足早に案内されながら見る、こちらを遠巻きに窺っているミンク族達も仲間と同様、負傷と治療の跡があった。
戦いの痕跡は明らかである。
見慣れぬローの姿を警戒していた目は仲間達の声かけによって静まったが、その後は彼らの目的地を察して、一様に悲しみと同情、痛ましいような目になる。
気遣うようなミンク族の視線が、縁起でもないとローの癪に障るが、今はそれどころではない。



着いた部屋には、包帯を巻いてやつれた顔をしたベポと、死んだように眠るシノがいた。


「キャプテン…」


白熊の目から、ポロッと涙が落ちた。
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