HIT企画

□ハルマゲドンin松野家
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そんなこんながあって、運命的に再開した互いに一人身の2人。
記憶持ちのせいか、特に他の異性にときめく事もなかった彼らが、今生でも連れそおうとするのは、けして不自然な事ではなかった。
シノはその日の仕事は全てキャンセルし、2人でこれまで過ごしてきたイギリスや日本での日々を話し、愛情を確かめ合ってしまえば、時間はあっという間だった。
夕飯の時間だ、と言ったシノが、今では6人のニートと両親がいるのを知っていたローは思った。
とりあえずこいつ連れて帰ろう、と。
ちなみに帰る場所は日本ではない。


「シノ、籍入れてアメリカで暮らすぞ。お前の仕事はあっちでも出来るだろ」

「…んー…でもすぐには無理かも。お母さん達に言わなきゃ」

「わかってる。筋は通さねェとな……行くぞ」

「…えー……」


シノはシャツのボタンを留めながら、すごく嫌そうな顔をした。
相変わらず正直に物を言う顔に、ローは目線だけで何だ、と問う。
するとシノは「……いいけど…」と、彼女らしくなく、口をもごもごさせて言った。
松野家には、妙なクソニートが6人もいて、もれなく恥ずかしいうんこなのだ。
ここでのシノの暮らしを端的にだが聞いていたローは、事情を察したのか追及はせず、家に連絡を入れさせた。
それよりも、今度は自分の家族にシノを会わせる事を考えて、少し気が重かった。
女の影も形も無かったローの連れてきたシノだ。
気に入られないという事もないだろうが、妹は少々うるさそうだと思う。
前世を思えば贅沢な悩みなのだろうが、面倒なものは面倒だ。
そんな気持ちでいたローは、松野家が、ローがこれまで経験してきたのとは全くの別ベクトルで厄介な家族の巣窟であるとはまだ、理解していなかった。


わかったのは、例の六つ子と母親に対面してからである。
父親はわりと普通だ。
あの中では。



「まあお医者様なの〜?すごいわァ〜〜三高ってやつねェ〜〜!!」


平成生まれの若人の為に説明させていただくと、三高とはその昔流行った、女性が結婚相手に求める条件で、高身長、高学歴、高収入の事である。
バリバリ昭和の母、松代には死語ではないらしい。

本来ローは、こんな風におばちゃんの話しにいちいち耳を傾けて答えてやるような優しさは持っていないのだが、一応シノの家族という事で黙って聞いている。
どのような人物達かを見定める目的が大きい。
ローは松代の質問に答えてやりながら、その後で遠巻きにこちらを窺う6つの同じ顔をさり気なく観察していた。
1人だけ、やけにギョロッとした顔がいる。



「エヌティー○ィーって病院もあるのねェ〜〜知らなかったわァ」

「(N○T…?)」

「いや母さん…MITだっげっふおっ!!」

「あらやだ!うふふふ」


何じゃそりゃという顔をするローに、松造が間違いを訂正してやろうとするも、将来有望な義理の息子を逃すまいと愛想笑い全開の松代の肘鉄の威力たるや凄まじく。
ゴロゴロと転がって障子を破った松造の尻だけが、空しく居間に残っていた。
気を利かせた六つ子の下2人が、よいせっと松造を救出している。


「(エ…なにそれ、エヌエチケー的な?)」

「(フッ違うぞおそ松…LEDだろ?)」

「(離れてってるから!!しかも2人して一文字も合ってないってどーゆー事!?確かアメリカの学校の事だよ!)」

「(M(AZOH)I(SU)T(O)の略じゃないんだ…)」

「(お前こそどーゆー間違いしてんだ一松!?っつーかそれお前だろ!?)」

「(へへェ…)」

「(照れんな!!)」


上4人は、2人分ぽっかり空いた円陣でこそこそといつも通りくだらない口喧嘩に興じている。
母に受け答えをしつつ、そっちにもしっかり注意を払っているローの横で、シノは身内の恥に膝をすり合わせて耐えている。
そんな元妻、ならぬまた妻を、ローは手持ち少ない優しさで見ないフリをした。



「…将来的にはイギリスにある実家の病院を継ぐ予定だが、」


「(ぐれーとぶりてん…!!??)」

「(しかも御曹司ィッ!?)」

「(何だそれ言ってみたいィィィッ!!!)」

「(…死のう)」

「(ボンボン…!!)」

「(どんだけ!?どんだけ大物釣り上げてきてんのうちの妹!?僕らにどんな顔しろって!!?)」


少なくとも、某かずおの様な顔ではなくていい。


「今はアメリカのマサチューセッツ工科大学で研究をしている」


「「「「「「(しかもこの期に及んでステイツとか…!?)」」」」」」


「まあアメリカぁ!?」


察していた松造は静かだが、盛大に眉を顰めた。
ローはその目を正面から受け止めると、一家の大黒柱であり、最も話が通じると見た松造に頭を下げる。



「シノが欲しい。結婚してアメリカで暮らしたい」


「「「「「「はァーーーーッ????!!!!」」」」」」


「今日はその話をしに来た」


「……」


ローのようなしかめっ面で黙り込んだ松造の横で、松代は歓声を上げた。


「きゃーっ!!プロポーズねぇ!!ちょっと悪人面だけどこんな三高のイケメン捕まえてくるなんてさっすが私の娘〜〜〜!!!」


あけすけ過ぎる松代を置いて、ローと松造の間には重い沈黙が降りていた。
ばしんばしんと背を叩かれながら、シノはまだも耐えている。
身内の恥ずかしさに。
やがて放心から我に返った六つ子が、更なる恥の上塗りを続けていく。


愛されてるのはわかるのだが…だが……うん。


「はァっ!?何それ許すわけないじゃん!!一度家訪ねてきたくらいで人んちの妹ホイホイ貰えるとか思ってんの?めでたいね〜〜!!おめでたい頭だね〜〜!」

「その通りだな…!生憎とうちの可愛いシスターはそう…安くは…ない…!!」

「まあ普通そうだよね。だいたいうちの妹どんだけ人見知りだと思ってんの?ちょっとの付き合いで結婚なんて短絡的な物を言う子じゃないんだよ。長い付き合いってんなら、それこそあんたの存在も匂わせなかったとか不自然すぎんだろ」

「……おれらみたいなクズに会わせたくなかったってんならそれまでだけど…」

「野球する!?」

「そうそう〜…って何で野球出て来たの十四松兄さん」

「え?…まずはお互いをよく知ってからと思って」


そう言う十四松が振っているのは、釘バット(血痕付き)である。


「もぉ〜説得力ないなァ〜」

「いや、お前も大概だからね」


いつぞやの、神松抹殺計画の武器を手にした各々。
指摘されたトド松は、大鎌を持っていない方の手で、てへっと自分の頭を小突いた。
唯一武器をもっていないシコ松は、口先だけで戦うつもりのようだ。


「ってわけだから。出直してくれる?」


孤立無援の男1人に対し、凶器を手にした家族達の四面楚歌の構図――に思えるだろう。
普通は。
シノはあちゃー…と思った。

このニート共は知らないのだ。
相手にしているのが、自分達が束になっても絶対に勝てない妹の、更に上を行く男だという事を。
まさに巨象と蟻の戦い。
しかも、盲目の蟻には巨象の正体が見えていないときた。


「ごめんロー…後でよく言っとくから」

「いや…」

「ちょっと妹よ…今お兄ちゃん達がどこの馬の骨とも知れない男を叩き出そうとしている感動的なシーンだよ?何でそんな、聞き分けの無い子みたいに言うの。さすがにお兄ちゃん傷つくよ?」

「おそ松の自意識、ポケットのゴミクズだもん。大丈夫でしょ」

「よせやい!照れるだろ?」

「照れてる場合か!?」


鼻の下を擦る長男に、三男のツッコミが鋭く斬りかかる。
今真剣なシーンなのだから、茶化すなと言いたい三男をはじめ、シノはかわいそうなものを見る目で言った。



「ローに挑んでもニート達がくたばるだけだよ。ローは私より強いんだから」



―――え……?



誰かの、呟きが音にならずに空気に溶ける。

だって、信じられるか。
うちの最終兵器ターミネ○ターより強い生き物なんて、この世に存在しているはずがない。

だが、この時六つ子達は反面、この言葉で驚くほど素直に納得もした。


うちの妹が、自分より弱い男を連れてくるはずがないんじゃないか――?



顔……(悪人っぽいけど)良し。

頭……(医者だしすごく)良し。

地位……糞闇地獄カースト暗黒大魔界からは、逆立ちしてロケットで大気圏突破しても勝てないくらい高い。

その上金もある。
腕っ節も強い。
背ぇ高い。
足長い。



……………。



ギギギギギ…ッ!と、さびついた鉄のような動きでローに注目する六つ子達を、若干呆れた様子の鋭い目が見返していた。


「「「「「「!!??」」」」」」


神松ショック再びである。
いや、妹よりすごい生き物(?)となると、最早神松をゆうに越えた存在である事は間違いない。
こんな奴にどうやって勝てばいいんだ。
多分、悪松でも勝てない。
やらなくてもわかる。
手にした武器が、ボトボトと畳に落ちた。


「まァ〜ロー君強いの?武道でもやってるのかしら?運動神経いいのねぇ〜!うちのお転婆娘よりだなんてすごいわね〜〜!!」


母、松代だけがローのハイスペックぶりを喜んでいた。
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