番外編
□内緒のツナギ
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ハートの海賊団では今、小さな問題がひとつ、船内を賑わせていた。
新入りのツナギがないのである。
少し前に空島で新たに加わったクルー・シノは、この間正式にハートの海賊団の一員として覚悟を決め、仲間として受け入れられた。
ならばハートの海賊団としては、必ず通る道がある。
その名もツナギ。
彼らクルーの仲間の証であるツナギを、彼女はまだ貰っていなかった。
彼女のサイズが船になかったためである。
一番小さなサイズで、小柄な男性用か一般的な成人女性用くらいのものしかなかった。
新入りは、一般的な成人女性より、だいぶ小さい。
「じゃあシノのは新しく仕立てなきゃね」
「それかコレを小さく直すかだな」
同じ部屋で寝起きし、シノの面倒を一番見てきたと自負するベポは、立ち寄った島で張り切って仕立て屋へと赴いた。
「これ小さくして」
「いらっしゃいま…クマァーっ!!?」
「…すいません…」
「打たれ弱っ…!!じゃない、いらっしゃいませお客様」
「すまないが、コレをこのくらいの子供サイズに直せるか?」
白熊に驚きすぎて、客にあるまじき対応をしてしまった店主は商売根性で何とか我に返ると、続いてやって来たペンギンを見てホッと仕事モードに戻った。
ペンギンが目測で自分の胸下あたりに手をやって身長を伝えると、店主は難しい顔をした。
「これをそこまで小さくするとなると…そうですねぇ。思い出の品というわけでなければ、こちらとしては新調するのがおすすめです。その方が経費も手間もかかりませんし」
「ならそれで」
「かしこまりました」
店主は算段がついて笑みを浮かべると、子供のサイズを詳しく訊ねる。
するとペンギンに続いてベポまで「えっと、これくらいでね」と身振り手振りで伝えようとする。
自分より大きなこの客を、店主は非常に微笑ましく見守った。
少々まずかったのは、男と熊の表す子供のサイズが、結構食い違ったところだろうか。
「違うよ!このくらいだよ。おれ毎日一緒に寝てるから自信ある!」
「何を!お前は大げさなんだよ羨ましいな!!シノの横幅なんてこれくらいだろ?」
「そんなことない!!シノは結構胸肉があるんだぞ!!」
「胸肉とか言うんじゃねーよ!!」
男に怒られ、打たれ弱い白熊が再び肩を落とす。
店主は哀れになり、ひとまずサイズを測ってからまた来るか、本人を連れて来てくれれば、と促した。
「内緒でプレゼントしたいんだ…」
「それにおれたちは明日か明後日には島を出る予定だ。出直して、それで間に合うか?」
「う〜ん明日は無理ですねぇ。今日中に来てもらえれば明後日までには何とか仕上げますが」
しかし、結局は翌日島を出た。
W7のエターナルポースを手に入れたからだ。
ならば、修理で時間を食うはずのW7で新調ないしサイズ直しをすることにして、ひとまず前回のようにサイズが食い違わぬよう、ベポにはペンギンから内緒の指令が下った。
「お前、シノの服をバレずに盗って来い」
「えぇ!!」
「寝巻きとかじゃねーぞ。ちゃんと身体にあったヤツな」
「シノ、寝るときは下着だけだよ」
「%#$&+”%*〜〜〜っ!!!!」
この白熊は、白熊というだけで一体どれだけ得をしているのだろうか。
ペンギンは、まだ発展途上の少女とはいえ、女子の無防備な部分にほど近いこの白熊にやるせない嫉妬の炎を燃やしていた。
ちなみにシノが服を着ないのは、ベポのもふもふ、特に魅惑の腹毛を全身に感じたいがためである。
「お前っお前ってやつは……!!」
ベポは自分の胸倉を掴み、悔しそうなペンギンにハテナを飛ばす。
「でもおれ…バレずに出来る自信ない」
「同じ部屋なんだから簡単だろ!ちょっと借りるだけなんだから」
だが実際に、ベポが彼女の目を盗むのはかなり難しいのは確かだ。
彼女は普段、ほとんどベポと一緒にいる。
「なっなら仕方ねーな!!おれが適当に見繕って持ってってやるよ!ベポが出来ねーんだし!!そう、仕方なく!」
「それはヤダ」
シノの服を自分以外のオスが漁るのは、何か気に食わない。
ベポはふん!と鼻息を荒くして、ペンギンの測量室侵入を阻んだ。
「じゃあどーすんだよ!」「それはペンギン考えて」「ふざけんな!!」と測量室の入り口で騒いでいると、聞きつけたシャチまで攻防に加わった。
当然、ペンギンの味方として。
「すぐ返すんだからいいだろ!!」
「あ!ダメだそっちは!!!」
止めようとするベポの手を避けるように、シャチは引き出しを持った手を瞬時に後へ引いた。
はずみで、肉球の前を色とりどりの小さいものが落ちていく。
…そこは、下着の収納場所であった。