番外編
□内緒のツナギ
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そこへ、最悪のタイミングで通りがかったのがローだ。
彼が騒がしい測量室の方へ足を向けてみると、何かが帽子の上に舞い降りた。
黒い紐のようなものが視界に入り、何だと手にとる。
「……」
ブラだった。
一瞬我が目を疑ったが、紛うことなくそれは、女物の下着であった。
「あ!キャプテン…!!」
「「え゛っ!!?」」
思わぬアクシデントに慌てふためいていたらローを見つけて、ペンギンとシャチがギクッ!と固まる。
「あっあのですねこれは!!!」
「っツナっツナギが…っ!!」
必死で弁解しようとするシャチとペンギンは、ローの手にあるものを見て絶望した。
((―――乳バンド手にしたキャプテン……おれらマジ死んだ…!!!))
「てめぇら……まさかとは思うが、船に女連れ込んで…」
2人の肉体を切り離し、散らかった測量室の惨状を見たローは、途中で言葉を切った。
自分に飛んできたソレの持ち主を察したからである。
「……!”ROOM”」
この船で一番軽い足音が近づいてきたのを捉えたローは、素早く手の中のものと、測量室に転がった首2つとを入れ替えた。
「”シャンブルズ”」
シャワー室から部屋に戻ろうとしていたシノは、入り口にローが立ちふさがっていたため、足を止めた。
しかも、彼は2人分の首がくっついたものを手に持っていて、気持ちが悪い。
「……」
「……」
これから入ろうとしていたドアを、ローがバタン、と閉める。
「…シノ、お前にこれをやる」
ぽいっと投げられた首。
シノは避けた。
「「いでっ!!!」
シャチとペンギンの顔が、ゴロゴロと転がった。
ローは自業自得、と痛がる部下をスルーした。
「お前はそれを適当に甲板に転がして来い」
シノの顔が、わかりやすく嫌そうになる。
この騒ぎのだいたいの事情を察していたローは「いいから早くしろ」と続けた。
「こいつらはお前らの部屋…測量室で暴れていた。部屋は今、ベポが片付けてる」
「うっうん!今片付けるからちょっと待ってて!!」
「それは罰として甲板に転がしておけ」
お前らの部屋なんだから、と言外に、ローはシノに首を持っていくよう促す。
シノはこくりと頷いて、嫌そうに親指と人差し指で片方の帽子を掴んだ。
汚物扱いかよ!とツッコミたかった2人だが、後ろ暗いので口を慎んでいる。
目が合うと、何故か赤くなった首2つをいぶかしむシノ。
「後は放置しといて構わねぇ。身体の方に取りに行かせる。わかったらさっさと行け」
ドアの向こうでは、どったんばったんベポが必死で部屋を片付けているのだろう。
シノはチラチラと振り返っては、しょうがない、と甲板を目指した。
「…行ったぞ」
「わあああありがとキャプテーン!!」
ドアを開いて教えてやると、ベポは救世主を迎えるようにローを称えた。
肉球のついた手が拾い集めた下着が目に入り、ローの目が僅かに引きつる。
「すぐ戻ってくるはずだ。さっさとどうにかしろ」
「アイアイ!」
敬礼したベポを残し、ローは今度こそ測量室のドアを閉めた。
ベポへの罰は部屋の片付けだけでいいだろう。
白熊に、余計な下心などありはしないのだから。
その後、部屋へ戻ってきたシノとすれ違ったローが、彼女の上半身につい一瞬目をやってしまったのは、仕方のないことである。
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W7についてすぐの船内で 〜内緒話〜
『おれたち行ってくるからよろしくね!オレンジね!シノはおれと同じオレン』
『わかったからさっさと行けっ!!バレるだろ!』
片付け中、こっそり持ち出していたTシャツとジーンズを渡すベポでした。
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トラファルガーさんの帽子におブラ引っ掛けたかっただけの話にござる。