番外編

□君の常識非常識
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「ベポ…お前太ったか?」

「えっ?ああ…!違うよキャプテン」


ローがいつもより腹の出たベポに問うと、ベポは一瞬ショックを受けた顔をしてから、思い出したように前を寛げた。


「ホラ」

「…ぉ……おはよぅキャプテン……」


襟元から顔を出したシノは、冷たい空気に声を震わせて挨拶した。
ローは挨拶を返すこともせず、僅かに首を傾げる。


「……何でそんなことになってんだ?」

「シノ、朝からずっとこの調子なんだ。寒がりみたい」

「さぶい…!!」

「次の島は冬島だからな」


海面に程近い場所を潜水しているにも関わらず、船内の気温は氷点下に近い。
シノの育った空島は、四季に当てはめれば春島だ。
生い茂る密林で占められていただけあり、夜以外は比較的年中暖かい気候だった。
彼女にとっては今生初体験となる本格的な冬である。
十数年ぶりに味わう冬は、それはもう寒かった。
いくら着ても寒くて、ホッカイロもない中、シノは体温を提供してくれるという白熊に、一も二もなく頷いた。
むしろ飛び込んだ。
それでもガタガタ震えるシノに、ローは呆れを隠そうともしない。


「これくらいで何言ってる。上陸したらもっと冷えるぞ」

「楽しみだな」

「!?」


白熊のベポには願ってもない気候だ。
普通に服着てどこにでも行くから忘れがちだが、ベポは本来極寒の地に住む種族なのだ。
シノが知るホッキョクグマのように、きっとベポも顔から雪原(もしくは氷)にダイブしたいに違いない。
果たしてそのときシノは…


「ベポ君…私…上陸はしないから……絶対……っ!!」

「ええっ!!」


初めてシノと一緒に歩ける冬島を楽しみにしていたベポは、妹分の言葉にがーん!となる。
冬島といえば、ベポが最も本領を発揮できる環境だ。
雪や氷の遊びも教えてやりたかったし、氷った湖に穴をあけて、一緒に魚とりもしたかった。
…魚釣り、ではなく魚とりというところが重要だ。
次が冬島だとわかった時からベポの頭の中では、湖に手を突っ込んで上手に魚をとる自分と、それを真似るシノの姿が思い描かれていたのである。


「そんな……!!一緒に寒中水泳は!?」

「!!?」

「能力者じゃなくても死ぬぞ」


勢いよく首を横に振るシノを横目に、ローは冷静に白熊の希望を窘めた。
ローにまで否定されたベポは、もう一度「そんなァ…」と零し、大きく肩を落とした。
それはもう、すごく楽しみにしていたのである。
ローは内心、このカンガルー状態からして不可能だと気づけよと思ったが、ベポなので、わざわざ指摘するのは酷だと黙っている。


「ここまで寒がる奴もこの船じゃ珍しいけどな」


ローが北の海出身なためか、ハートの海賊団のクルー達は同じく北の海出身が多い。
皆寒さには慣れており、吹雪の中でさえ、こんなに震えることはないように思う。


「……ん?こいつ……」


何かに気づいたローが、シノの額に手を伸ばす。


「熱あるぞ」

「えええっ!!」

「どーりで…」


寒いというか、寒気だったらしい。
ローの冷たい手のひらが、ほんのり心地よかった。
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