番外編

□小さな恋のメロディ
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※オリキャラ&悪魔の実、注意。



突然だが、悪魔の実の能力というのは、規則性や常識などに当てはめることは困難、いや不可能だとシノは改めて知った。
自然(ロギア)、超人(パラミシア)、動物(ゾオン)系などといった種類に分類することは出来ても、能力そのものは、実際に目で見て、体験してみなくてはわからない。


シノは、自分の真っ白な手のひらについたピンクの肉球を見て、しみじみと思ったのだった。


「……シノ……?」


ベポは、変わり果てた妹分……のはずの、彼女と同じ服を着た白熊を、震える声で呼んだ。
見上げてこくりと頷く仕草はシノにそっくりで、ベポはとうとうなりふり構わず叫んだ。


「うわあああーーーっ!!!!シノがメス熊になったーーーっ!!!!」


両頬を手で包んで驚愕するベポの叫びに被さるように嘆きをあらわしたのは、この事件の犯人である。


「なっ何てことだ!?まさかこんな愛らしい乙女がっ!!よりによって白熊になってしまうだなんてーーーっ!!!!」

「………」


屋根の上で大げさに喚く男。
おそらく年のころは20代後半から30代くらいだろう。
大きなハットにマントを着て、背中には海賊の証であるジョリーロジャーのマークがある。
何を隠そうこの男こそが、シノを白熊にした犯人であった。
シノの隣には、同じく動物となったシャチと思われる獅子がいる。


「おっお前がシノっシノをメス熊にしたんじゃないのか!!?」

「そうとも!!!!」

「ガウウウーーッ!!(何で威張ったーーっ!!?お前今すげえ残念そうだっただろ!!それにベポ!!おれも忘れんじゃねェ!!)」

「うるさい!!私は愛らしい小動物が大好きなのだ!!普通、こんな小さな少女が好きな動物といったら愛らしい子猫やうさぎではないか!!何故そこでこんな大型動物が出てくる!!?」


小さい方の白熊が、照れた様子で俯いた。
本人、大好きな兄貴分と同じとあって、ちょっと嬉しいらしい。


「逆ギレしてやがる……」

「……どうやらあいつは、そいつが好きな動物に姿を変えることが出来る能力者のようだな…」

「ペンギン!キャプテン!!」


騒ぎを聞きつけてきたペンギンとローに、混乱しきっていたベポたちが顔を輝かせる。


新しい島にたどり着いた一行は、なかなかに賑わいを見せる港町を思い思いに散策していた。
そんな時、人ゴミに紛れたこの男が、まずシノが人ゴミシールドにしていた1人のシャチに狙いをつけた。
その手が触れた途端、シャチはライオンになってしまった。
ベポは初めから動物だったため、眼中になかったようだ。
急に姿が変わったシャチに驚いている隙に、シノも不意を突かれた。
避けようとしたが、男の手がシノの腕に掠った直後、シノもまた白熊へと姿を変えたのだ。



「いかにも!!私はケモケモの実の能力者!!触れた相手を本人が望む動物に変えることが出来るのだ!!そして私は……っ愛らしい小動物が大っ好きだーーーっ!!!」

「ガウウガウッ!!!(だから威張んな元に戻せーっ!!!)」

「この帽子とサングラスはシャチか…」

「で…こっちがシノか…」

「(こくり)」


ベポより二回り近く小さな白熊が、こくん、と頷いた。
本人はあまり動揺していないのか、とても落ち着いた様子だ。
むしろベポの方が慌てている。
そして何故か両目を手で覆う。


「シノ…っ!!うわァ……っシノってば…うわああっ!!!!」

「?」

「ペンギン!!ちょっとそれ脱いで!!」

「はぁっ!?っわっ何しやがるこら!!!」


シノから目を逸らし、突如ペンギンの服を剥ごうとするベポと、抵抗するペンギン。
男はそれを好機と見て、マントを翻して逃走する。


「如何に元は可憐といえど、大型動物になった少女に用は無い!!さらば!!!」

「ガウーッ!!!!(待てこらーっ!!!!)」

「逃がすか”ROOM”」



…決着はあっさりついた。
注目を集めた町中から離れ、バラしてボコった男を連れて町外れに来る頃には、男は気絶。
それで能力が解けるかと思いきや、シノとシャチは依然動物のまま。
瀕死の男に鞭打つが如く、電流を流して目覚めさせるローは、男からすると正しく鬼である。


「……っぅ……わだじはただ…小動物を愛でたいだけなのだ……そして愛でるなら……愛らしい少女が……イイ…っ!!!」

「ガウ…(瀕死で何言ってんだこいつ…)」

「初めから狙いはシノだったってことか」


ハートの海賊団と知って攻撃してきたわけではなかったらしい。


「で?どうすりゃ戻るんだ?」

「………」


こうまでされて、なお口を噤むこの男の度胸は大したものだ。
ローの眉間の皺が深くなる。


ぺと。


「……」


眉間の皺を潰すように、ピンクの肉球がローの額に当てられた。
無言で眉間をふにふにされるローを、小さな白熊が不思議そうに見る。


「……シノ…」

「?……(こくり)」


確かめるように呼ばれて、きょとんと頷く白熊シノ。
ペンギンとシャチがハッとする。


「キャプテン気をたしかに…!!そんな満更でもなさそうにしないで!!」

「ガルル!!ガウガウッ!!!(トチ狂っちゃダメっスよ!!シノもキャプテンを惑わすな!!!)」

「ウゥ…(え…)」

「…うるせェ……わかってる…」


フイと、ライオン達から顔を逸らすロー。
ペンギンとシャチは((絶対嘘だ……!!))と心がシンクロした。



「ガウ…ガウウ(それにしてもお前…よくそんなに落ち着いてられるな)」

「ウウン…(ベポ君とおそろい…)」


困ってはいるが、なかなか出来ない体験を楽しんでいるシノだった。
意外に図太い。
ベポは妹分の言葉や仕草にいちいちドキッとしている。

そしてシノはどうしてか、ベポが自分のツナギを引きちぎってまでくれた上着を羽織らされていることに疑問を感じつつ、”レクイエム”を発動した。


「っぎゃあああああっ!!!!!やべでーーっ!!!」

「能力はそのままらしいな」

「(こくり)」


シノは熊になってみて、意外に話し辛いと感じる声帯が面倒で、さっきからほとんど喋らない。
慣れないだけかもしれないが、シノはこの身体で当たり前のように流暢に話すベポを改めてすごいなと感心していた。
くりくりの黒い目が尊敬を込めて、ベポを見上げる。
すると、何故かベポがボン!と沸騰した。
白い毛に覆われていてわかりにくいが、彼の頬は人間だったらさぞや真っ赤になっていたことだろう。


「ド、ウシタノ…ベポクン……」

「!?〜〜〜っシノ…っ」

「?」


オトオトの実の能力を駆使して、何とか人の声を再現してみたのだが…ベポはまた何か衝撃を受けた様子だ。
首を捻る小型の白熊と、照れまくる白熊から目を逸らした一味は、ヒソヒソと話し合う。


「…キャプテン…早く戻してやらないとマズいことに…」

「ガル…(ああ、白熊のラブロマンスに突入しちまうよ…)」

「……わかってる」


男の悲鳴をBGMに、何とも悩ましい状況が繰り広げられたのもほんの少しの間だった。
”レクイエム”に根をあげた男がついに自白したのだ。

右手で触れたら動物に、左手で触れれば元に戻せると。




「ベポ君?」

「!!シノ……はぁ…いつものシノだ……」


胸に手を当て、心底安心したと大きく息を吐くベポ。
彼の上半身はツナギがなくなり、モコモコの白い毛が丸見えだ。
シノは破られた上着部分を持って、腕にかけた。


「これ、後で直してあげるね」

「うっうん…」

「でもどうして?破ってまで……」

「えっ!?え〜〜っとぉ〜……」


人差し指同士を合わせて、もじもじするベポ。
白熊になってわかったが、毛皮はとてもあたたかい。
人間のときならまだしも、白熊のシノにツナギをダメにしてまで服を着せる必要はなかったような…と不思議がるシノ。
町へ戻る道を歩きながら、その他の男達はベポの事情をきちんと理解していた。


「(ベポもオスだったってことか…)」

「(おれらには逆にわかんねーけど…)」

「……」


ここは春島で、シノはいつも通りのチューブブラにツナギのズボンだった。
それが白熊になったことで身体が大きくなり、シノにピッタリだった服は小さくなってしまっていた。
人間で想像するならば、小さいブラを無理やりつけているようなきわどい状態だったのだろう。
町外れに捨てたままの男の方を、ベポがチラッと振り返った。



「………シノがメスの熊だったら…かぁ……」



ベポの目には、果たしてどんな風に見えていたのか。
小さな呟きは、風に流れて空に消えた。



*******

やってみたかった白熊化。
同名の映画とは何の関係もないです。
男の子の憧れといったらトラとかライオンかなと。
(トラさんはもういるので)
シャチはオーソドックスなものが好きそうなイメージです。

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