番外編

□未来の助手?
2ページ/2ページ




―――はたして、散々な目にあったシャチであるが、結果的には彼らの思惑通り、毎朝の憂鬱は見事シノに引き継がれた。
これには一部を除くクルー達から大絶賛で、見舞いと称して酒を贈られたりと、シャチの苦労も報われた形となった。
シノとて口では色々言うが、内心ではきちんとローのことをこの船のボスとして認めている。
船長命令ならば仕方ない、と受け入れた。




「はい。いつもご苦労様」

「クー」

「君は初めて会う子だね。私はシノっていうの」

「クー」


その日最後の不寝番だったジャンバールは、会話が成立しているらしい彼女達を感心したように見ると、大きな身体を翻して船内へと戻って行った。


「女の子の配達員さんかー」


珍しいな、と新顔のニュース・クーに笑みを見せていたが、ふと眉を寄せた。
飛び立とうとするニュース・クーを引き止める。


「ちょっと待って……君、具合悪いの?」

「…ク」


甲板の手すりに立つニュース・クーは、ほんの少し間を空けて、力なく肯定した。


「大丈夫?少し休んで行ったら?」


海に足場などない。
グランドラインの異常気象に耐えられる鳥とはいえ、体調が悪ければ別だ。
この場にベポがいないことが悔やまれる。
シノに彼女達の言葉はわからないのだ。


「ベポ君…仲間なら、君の言葉がわかるから、呼んでもいい?人間のだけど…お医者さんもいるよ」


診てくれるかは、自信がないけど…


「クー…」


ニュース・クーは少し迷っているように見えたが、羽を広げようとする。
シノは止める言葉のかわりに、羽毛をそっと撫でた。


「待って!………ごめん、ちょっと見せて……」


シノはベポを呼ぶのを諦めて目を閉じ、ニュース・クーにそっと手を当た。
撫でるように、優しく刺激しないように……彼女の身体の中を見ていく。
ローのような医学知識はないが、もしかしてと思ったのだ。
シノは目を開ける。


「やっぱり君……お腹に………」


柔らかい顔が、首を伸ばしてそっとシノの頬へ触れる。
シノはポケットからハンカチを取り出すと、ほんの一瞬だけ姿を消した。
ほんの一拍消えたシノが手にしていたのは、倉庫に置いてあるペンキだ。
不思議そうな目をするニュース・クーに、シノは優しく微笑んだ。


「ちょっと待ってて……すぐ済むから」





新聞社に戻った一羽のニュース・クーの鞄に巻いてあった、一枚のハンカチ。
ペンキで色づいたそれを見た社員は目を丸くした。


【産休求ム!!】


「クー!!」


そのニュース・クーは、社員の手にあるハンカチを突付いて急かすように鳴いたのであった。


それから数ヶ月ほどたったある日、お礼の手紙とともに現れたニュース・クーに出産祝いを告げているシノを目撃したローは、読み終わったであろう手紙を引っ手繰った。



「ほォ……お前…超音波で腹の様子がわかるのか…」

「(また悪い顔に……っ!!)」


頬を伸ばすローは、不機嫌なのか上機嫌なのかイマイチ判断がつかない。
ニヤニヤと意味もなくビヨビヨと引かれる頬の痛みよりも、言い知れぬ嫌な予感を感じ取っていた。
新聞を持って自室に引っ込んだはずのローが、人体の臓器に関する書物を押し付けてきたのは、それからすぐの事である。


「…………ナ…ナニコレ……」

「頭に入れとけ」

「……目が滑る」


自慢じゃないが、シノは普通に、勉強とか好きじゃない。


「(………何か面倒なことになった……)」


シノもう覚えてはいなかったが、数ヶ月前に感じた面倒な予感は、実はバッチリ当たっていたのであった。



********

”スキャン”とか出来るくせに…!
なんて文句を言いつつ、ベポに応援されたりして、結局真面目に勉強しちゃう管制官。
黙ってたことにはちょっと不満だけど、いいこと聞いたぜ、なキャプテンでした。
ゆくゆく育てば、助手にしてやらんこともないとか考えてる。
管制官が身体の内部を探れるのは、直接触れて集中した時だけです。

カネ○ンは、某有名特撮に出てくる怪獣さんであります。
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ