番外編

□サニーの甲板から
1ページ/2ページ




作戦会議、及びあらかたの質疑応答も終わり、サンドイッチを平らげたシノはローと甲板へと出てきていた。
そこには海楼石に繋がれたシーザーの姿もあり、「お前はさっきの…!」と妙な目で見られたりしたが、シノは眼球すら動かさずローとベンチに座った。


「おお!トラ男に……ちっこいの!!」

「……」


ちっこいの、も気になるが、そういえばさっきからトラ男って……
微妙な目で見上げるシノを見ようともせず、ローは「シノだ麦わら屋」と訂正した。


「わりィわりィ!シノ!」

「…(ふるふる)」


(ハンコックちゃんのフィアンセだ……)


人好きのする笑みを浮かべ、明るく笑って釣りに励む背中を見て、シノはまたしても電伝虫を懐から出した。

パシャ。


「ん?」


何かしたか?という目で振り向いたルフィをもう一度パシャ、と撮って会釈すると、シノは小さく電伝虫を掲げて見せた。
本来事後承諾は失礼だろうが、撮ってもいいですか?と声を掛けられない人見知りのシノには精一杯の、撮りましたよアピールだ。
隣に座るローからも、呆れたような目が遣される。


「……ハンコックちゃんに…送る。ルフィ君、元気にしてるって…」

「ハンコック?お前ハンコックと友達なのか!」


シノはこくり、と頷いた。
ここでルフィが「おれもなんだ!」とでも言っていたらシノはさぞ困惑しただろうが、ルフィは「そっか!元気してるかなァ」と笑っただけだった。
唯一といっていい女友達のため、シノにしては珍しく社交的に「この前電伝虫したら…元気だった…ルフィ君の事、心配…してた……!」頑張って口をきくと、ルフィはまた嬉しそうに笑う。
シノはひっそり、頬をむふーっと膨らませた。
今度顔なじみのニュース・クーに会ったら渡す手紙には、写真と一緒に、ハンコックの息災をルフィが喜んでいたと是非書こう!と思っているシノ。
ローはというと、どうも以前シノからちらりと聞いたルフィとハンコックの関係が、当の本人からは感じられず、微妙な面持ちだ。


「船…もう少し、撮ってもいい?」

「おう!いいぞ!!」


こうして船長直々に撮影の許可を得たシノは、張り切った様子で隠し撮りに精を出した。
ただの撮影といえど、麦わらの一味に不慣れなシノにかかれば、およそ音波化、音速移動の隠し撮りになってしまったのは当然である。
例外はチョッパーで、動物に好意的なシノは彼にだけ「撮ってもいい?」とお願いした上で撮っていた。
他の者は撮られていた事すら気づいていない者がほとんどであろう。



「ねえキャプテン。一応あの羊のコスプレ?したのも撮っといたけど、あれも麦わらの一味?」

「違う。あれがシーザーだ」

「ああ、あれが…」


あのドフラミンゴが重用するくらいなので、もっと逆光眼鏡のインテリ系を想像していたシノは、青い口したおっさんを微妙な目で流し見た。
「なんだその目は!?」と敏感に反応する青い口からキレイに目を逸らし、する事もなくなったシノは一度”エコーロケーション”を広げてドレスローザまでの距離を測った。
少なくとも領海に入る頃までには、シノは姿を隠すか一足先にドレスローザへ発たねばならない。
ヴィオラの目の事もあるので、シノの存在は無くすに越した事はない。


(まだ…もう少し大丈夫かな………あ、)


シノは気づいたそれに、そわそわと赤い背中を何度も見る。


「麦わら屋がどうかしたか」

「キャプテン……あの、えっと…」


ハンコックのおかげと、ルフィの人柄の後押しもあって、初対面にしてはルフィにはだいぶ友好的な態度のシノからは、言いたいんだけど…でも…といった様子がありありと表れている。
これは緊急じゃねェな…と悟ったローは、聞いておいてアレだが、あまり聞かなくてもいいやつだったか、と思いなおす。
これでもシノとは数年来の付き合いだ。
本当の緊急事態だった場合のシノを予想出来るからこその、信頼の表れでもある。


「どーしたー?」


ゴムの身体を曲げて、首から先だけぐにゃりと後に倒したルフィがそのような機微がわかるはずもなく、不思議そうに背後の2人を見ている。
シノは逆さまの顔からくる真っ直ぐな視線から隠れるようにして、こしょこしょ、とローの耳に顔を寄せた。
ローの眉間が、そんな事か…と皺を刻む。



「……おい麦わら屋」

「んあ?」

「もう食われてるぞ」


と指差すのはルフィの釣竿である。
ついでに「少し先を海獣が通ったばっかりで、このあたりの魚はみんな引っ込んじまって今はいねェとよ」と言い、シノの方を指す。
わけもわからず竿を上げてみると、餌は針ごと消えていて、ルフィは「え〜〜〜!!?」と驚く。


「何でわかんだ!?お前!」


ぐいぐいと食いつかれ、シノは迷うことなくローを盾にし、されたローは迷惑そうに伸びてきたルフィの頭を押し返す。


「…さっきも言ったが、こいつは”オトオトの実”の能力者だからな。海中の事も音波を通して大抵の事はわかるんだ」

「へェ〜〜〜!!海ん中までわかんのか!すっげェな!!」


世辞や打算などとは無縁の瞳はキラキラと輝いていて、ローの背中に張り付いたシノもつい、ぽっと頬を赤くした。
そして、ハンコックが何故この少年に惹かれたのか少しだけわかったような気がした。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ