番外編

□管制官のお土産
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我らが船長と管制官のめでたい報せに沸いたハートの海賊団のクルー達。
いつの間にやら酒を持ち出し、ならば料理もとやっていくうち、立派な宴となった騒ぎの中で、誰かがそれを思い出した。


「そういやシノのお土産って何だったんだ?」

「開けて分けようぜ」


料理や酒をざっと腕で端に寄せ、テーブルの上に何かが置かれていくのを見て、他の面々も段々と目を留めていく。
目ざとく掘り出し物を探すような意地汚い視線というよりは、シノのお土産って何だろう?という純粋な興味が色濃い視線ばかりである。


「えーっと…食べ物もあるぞ」


まずは瓶に入った何かが、ゴトリとテーブルに置かれる。
シノも近くに寄って、ドキドキとその様を見ていた。
喜んでくれるだろうか…と若干もじもじしながら、出てくる物に説明を加えていた。


「あ、それ木苺のジャム」

「シノが作ったの?」

「うん。ドフラミンゴの盗聴中とか結構暇だったから…他にも色々作ったのがある」


上から覗き込んできたベポの目がジャムを見てきらりと輝き、シノは照れくさそうに頷いた。
他にもオレンジ色をした柑橘類のジャムや、ベリー系のジャムの瓶がいくつかあって、テーブルの上を華やかに彩っていく。
袋に手を突っ込んでいたシャチは、何か布のような皮のようなものを広げて「これ何だ?」と尋ねた。


「グリーンビットで一番大きな大蛇(うわばみ)の抜け殻だよ」

「抜け殻!?」

「あ、おれちょっとそれ欲しいかも」


その声に「おれもちょっと興味あんなー」と少年の心を持った男達が寄ってきて「でもこれ一部だよな?量的に」とコレクター的な意味で残念がっていると、シノは「うん」と肯定した。
抜け殻全部となると、折りたたんでも巨人1人分くらいの場所をとるのだ。
そんな大荷物持ってこられないし、これはグリーンビットでは貴重な資源でもあった。


「グリーンビットでは何年かに一度の恵みとして、小人達が大事に使うものだからね。だからちょっとなの」

「へー!」


彼らがトンタッタへ持ち帰る前に、グリーンビットの女王というコネで大蛇本人から、一番にどうぞと貰ったものだった。
大蛇の大きさからして、その抜け殻の厚みは通常のそれとは比較にならないくらい厚く、丈夫で、トンタッタでは加工して革製品として扱われていた。
昔シノも、空島で暮らしていた時には時々亡くなった動物の皮などを使わせて貰っていた事もあって、小人達を盗聴観察して手本にしながら、久々に色々手作りしていたのだ。

シノも袋に手を突っ込むと、ごそごそと掻き回して掴んだものをテーブルの上に出した。


「この辺は私が作ったやつ」

「おー!」

「さすが野生児!」


ヒュー!と指笛まで聞こえてくるが、果たしてこれは褒められているのだろうか。
シノが微妙な顔で並べていくものを、いつの間にかベポと並んで背後に立っていたローが興味深そうに見ていた。
そのうちのひとつを手に取るのを見て、シノは「あっ!それ気をつけてね」と注意を促した。


「ナイフケースかと思ったが…中に入ってんのは牙か」

「うん。その皮の子のやつ。結構すごい毒があるから刺さると15分くらいで死ぬ」

「何かいきなり血なまぐさいのきた!!!」

「ジャムとの差ァ!!?」


木苺のジャムでほっこり、抜け殻の話でへーっときていた所に、突然ぶっこまれた死の危険。
クルー達の一部は目をひん剥いてショックを受けていて、シノは「?」と首を傾げた。
ローは何だか嬉しそうなのに。


「ほう……よし。これはおれが貰う」

「えー!キャプテンずりィ!」

「キャプテンは一緒にドレスローザ行ったんでしょ?」


その尤もな意見に、シノも大きく頷いた。
お土産は、再会した仲間達にあげるべく持ってきたものである。


「だからどうした」

「「「「横暴……!!」」」」


キャプテンらしいけど!
涙をのんだ仲間達は、久しぶりでもちっとも変わらない船長らしさに、悔しさより懐かしさが勝ったようである。
「でもそんなキャプテンも好きだー!!」と酔った一部がハグをしようと迫ったものの、あっさりと避けられている。


「あとはベルトと…それにつけられるポーチね」

「おお!なかなかいい作りじゃねェか!」

「前から思ってたけど、シノって実は結構ハイスペックだよな」


諜報も戦闘も、生活に関する雑事にまで、無人島で1人生きてきたシノには、あまり死角がない。
その言葉にベポ達だけでなく、ローまで「まァな」と納得顔をするので、シノは何だか恥ずかしい気持ちになって俯いた。



恥ずかしがるシノによって、ジャムのほっこりが再来したかのような一同は、土産のお披露目を再開していた。
超高価なはちみつに始まり、木苺のジャムに毒蛇の牙、抜け殻革製品と、これだけでもなかなかの品揃えだが、それがまだあるというのだ。
興味に加えて、ただでさえ強い海賊達の好奇心が刺激されていた。


「これって水晶?」

「ううん…岩塩」

「岩塩!?」

「水晶はね……こっち」

「って水晶もあんのかい!!」


ちなみに島の動物(オス)達から貰った食べ物や宝石類は、さすがにここには出していない。
シノを思ってくれたものなのだから。


「イカの干物…あ、魚のもある」

「こっちは押し花か…」


中には、海賊の土産としては不適格っぽいものもあるが、何故かほっこりしてしまう。
可愛いとこあるんだよなァ…と、人見知りのうちの子への贔屓目が、胸をキュンとさせるのだ。

その他、花のポプリや木製の小物入れ、クジャクのような色鮮やかな羽、酒や、酒のつまみに良さそうなジャーキーなど…
テーブルの上は、いつしか土産物屋の棚のようになってしまっていた。


「酒は既製品なんだな…さすがに」

「ちゃんと1人で店に行けたんだなァ」


ワインにウォッカにウィスキー、その他ドレスローザの名のついた地酒など、ラベルのついた様々な酒はけして手作りなんて出来る代物じゃない。
これは明らかに、宴好きな海賊の仲間達を思って購入された品である。
あの人見知りが見知らぬ人と会話してまで、自分達の為に…!
皆して、じーんと感動している。


「大事に飲むよ!」

「おれも!」

「むしろ飲めねェ…!!」

「たしかに!!」

「いや…飲んで」


仲間達の感動と、シノの微妙な眼差しを経て、シノの土産のお披露目会は幕を閉じたのであった。



********

管制官の、野性味(?)溢れる自然派なお土産お披露目の回でした。
蛇の牙って抜けても次々生えてくるらしいですね。
脱皮の頻度とかわかりませんが、長生きな大蛇なので数年に1回のペースにしてみた。
盗聴してるだけって結構手持ち無沙汰だったろうな〜と思って、ずっとあたためていたお土産ネタ。
喜びのあまり感動までされてるのに、どこか素直に喜べない複雑な心境。
特別器用なわけではないけれど、やっていくうちに色々出来るようになっていった管制官でした。

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