番外編
□HAPPY BIRTHDAY 20161120
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妹分が部屋に寄りつかなくなってもう1週間以上。
食事は一緒だし、寝る時は帰ってくる。
でも、これまでずっと一緒だった生活から考えると、これはあからさまな不自然であった。
たしかにローとシノは番(つがい)一歩手前(?)で、応援すべき間柄だけど、ちょっと急過ぎはしないだろうか。
一緒にいる時の態度は変わらないので、シノがベポに対して何か怒っているだとか、そんな事はないのだろうと思う。
けれど、この突然すぎる空白の時間を、ベポはもやもやとした気持ちで1人過ごしていた。
「何だベポ…お前また背中丸くして!」
「!ペンギン…」
「シノに構ってもらえなくて拗ねてんのか?」
「ちっ違うよ…!おれが構ってあげられてないの!」
「ほー!」
「ホントだぞ!おれは…シノが今頃寂しくて泣いてるんじゃないかって心配してるんだ」
「それにしちゃァお前の方が寂しい背中してたけど…」
「気のせい!!馬鹿!ペンギンのむしあな!!」
「むっ虫穴…?何だよ気持ち悪ィな……あ、節穴?」
「そーだよ!!ペンギンのむしあな!!」
「だから節穴だろ!?」
この聞かん坊め…!と互いに思っている2人がぎゃいぎゃい言っているのを、船内で誰かが「またか」「今度は誰だ?」と思いながら放置する。
どこぞの麦わらの船程ではないが、血の気の多い者達が狭い場所にいたらこんな事は日常茶飯事なのだ。
「こんな所で騒ぐくらいならとっととシノに聞きゃァいいだろォがこのむしあな!!」
「!!ふしあな!!……ってあれ?」
わけわかんなくなった白熊が首を傾げると、フンッ!と肩を怒らせたペンギンが背中を見せる。
すぐに曲がって見えなくなった背中を見送ったベポは、ぐっと拳を握り締めた。
(キャプテンとシノが一歩手前から前進してるならいいけど…何か事情があるのかもしれないし!よし!!)
黒い鼻からフスーッ!と息を吐いて、ベポはズンズンと船長室を目指す。
航海中、シノは大抵”エコーロケーション”を発動しっ放しにしているが、あくまでそれは海中の障害物を大まかに識別しているに過ぎない事を、彼女とずっと一緒にいたベポはよく知っていた。
でなければ、起きている間ほぼずっと能力を使い続けるのは不可能である。
いかに能力者といえど、ローのように行使すればする程消耗はあるのだ。
シノの場合は、精密さや距離が必要とすればする程体力を消耗する。
ローが”ROOM”を広げすぎるとそうなるように。
ただし、空島で不眠不休で海賊たちを監視し続けてきたシノは、精度や範囲を上手く調整すれば長時間、大した消耗もなく索敵する事が出来る。
引き換えにした精度は、怪しい動きや不審を感じた場合にのみ意識を集中して高めている。
それにシノは、わざわざ船内まで監視したりしない。
仲間達のプライベートは無論、そんな事したって、侵入者でもいなければあまりメリットが無いからだ。
つまり、ベポが立ち聞きをするかもしれないと警戒してさえいなければ、ベポにも様子を探る事が充分可能という事である。
ベポは人よりいい耳をひょこひょこ動かして、そろそろと足を動かす。
抜き足、差し足、忍び足…を心がけて近づくと、船長室の言葉が大よそ拾えるくらいになった。
ドアにコップを当てて張りつくのが一番だろうが、いざという時危険なのでそれはやめて、ドアのやや横の壁に張りつき、ベポは聞き耳を立てた。
『――キャプテン…ちょっと相談――だけど…』
「(!シノの声…やっぱり何か悩んでたのかな…?)」
『―――穴があった――と思う?ベポ君に―――塞いで―害するのもどう――だよね。でも』
「(えっ!?おれの話!?)」
『―カングでつけ――から、』
「(穴があった?塞いで害する?勘繰ってつける!?)」
所々はっきり聞こえないけれど、不穏な単語のオンパレードである。
『――ベポ君が――必要ないくらい寒い所で使う事を考え――』
「(おれが…必要無い…暗い寒い所で使う……!!?)」
そこまで聞いた時、ベポはショックのあまりフラッと壁から顔を離して両手をついた。
床を凝視しながら愕然とした。
今しがた耳にした声は、たしかにシノのものだった。
仮に何かを装ったとして、やっぱりそれは能力的にシノ以外に考えられない。
信じられない。
シノが発した言葉に間違いない。
「(そんな馬鹿な!!きっと何かの間違いだ…!!)」
その通りである。
が、隠密行動中の白熊の間違いを正せる者などおらず、ベポは壁に耳を押し付けた。
『かくした方がいいかな?』
『本人―聞け――いてェ――だがな』
「(キャプテンの声!)」
『うん……それに…――ても、――なくても……ベポ君きっとか――と思うんだ」
「(……よく聞こえない…って逆に耳塞いじゃってよく聞こえない!!)」
隠す、とかまた不穏な言葉が聞こえて、聞こう聞こうとする余り、前のめりになりすぎて余計聞こえないという間抜けな事をしてしまい、ベポは心臓の音を振り払うように、ブンブンと上半身を左右に振った。
『どっちも捨て――い…』
『……別にどっちでも――だろ』
「(よくわかんないけどキャプテンの声すごい投げやり…!!吐き捨ててる!?)」
自分の話題である事は確かだ。
しかも不穏ワード満載。
これ以上は何も聞こえず、会話が一旦終わったのだと知り、ベポはしばし呆然と立ち尽くしていた。
これはこの場で確かめるべきか――それとも自分は聞かない方がいいのではないか。
迷っている間にじんわりと目から溢れた雫が、床に跳ねた。
「ベポ?そんな所で何を……グッフ!!!」
何故だかそこにはいられないという気持ちだけが爆発したベポの突進を、まともに食らったジャンバールはその勢いのまま、巨体を甲板方向へと攫われていく。
体格差も何のその、不意打ちの先制攻撃とは実に厄介だった。
「……ベポ君…?」
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ジャンバールは困っていた。
いきなり体当たり食らったかと思えば持ち運ばれ、文句を言おうとすれば実に哀れっぽく膝を抱えてすすり泣く白熊に。
何故だかは知らないがこのベポ、自分がもう必要とされていないのだと頑なに思っているようなのだ。
そんな事はないだろう、と口達者ではないなりにかけた言葉も無意味らしく、己の間の悪さを呪う。
どうにか何か打開策は…とあたりと見回してみると、甲板へ続くドアからオレンジ色がチラリと垣間見え、瞬時に消えた。
ベポ以外、あの色を纏うのはこの船でただ1人だけだ。
ジャンバールは安堵し、息を吐いた。
「……そう言うがなベポ…もし本当にそうなら…あそこに見える影は一体誰だと思う?」
「え…?」
見つかり、そろそろと姿を見せたシノに後を任せ、ジャンバールはその場を去った。
ベポの誕生日を数日前に控えたその日、妹分初のサプライズは台無しとなって幕を閉じたのだった。
「シノ〜〜!!シノシノシノ〜〜〜ッ!!!ごめんねおれ…!ごめん!!」
「ふごふご!!」
「ありがとうシノ!!」
まだプレゼントしてもいないのに、ベポは涙で潤んだ目そのままで、満面の笑みを見せた。
その後は無理に船長室へ出張する事も無く、いつも通り測量室で過ごしたシノとベポ。
ベポは、少しずつ編まれて形になっていくプレゼントが出来る様を眺め、この上なく幸せそうだった。
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ギリギリ間に合いました!お誕生日おめでとうベポ君!!
結局本人に聞いて、どっちでも大丈夫!と言われ、今回は耳穴なしのニット帽にした管制官。
耳をすっぽり覆った所も見てみたかったらしい。
普段耳のある子の耳を覆うのもロマンです。
たけのこもよく、うちのお猫様(茶トラ)の頭を撫でて耳を寝かせてから、どら○もんみたいにして「焼きおにぎり!」とかしてます。