HIT企画

□いつかかえるところ
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そこは数百年前より、大鷲の治める自然溢れる空島。
いつの頃からか守り神と称され、島の生き物たちすべてに敬われてきた大鷲は、久方ぶりに島を離れていた。
海上を凄まじいスピードで滑空する様は、荘厳であり、美しさすら感じさせる。
長い時の間で、人の言葉で覇気と呼ばれる力を身につけていた大鷲は、中でも見聞色と分類される力を使い標的を見定めるや否や、ソレをパクッと銜えた。


「クウッ!!?」


銜えられたソレが必死でもがこうとするが、辛うじて外に出ている足をビチビチと跳ねさせるだけの徒労に終わる。
次第に足を動かす気力もなくなってきたかという頃、ソレはどこかでペッと吐き出された。


「…ック…クー……」


唾液まみれで這い蹲り、いかにも哀れそうなその鳥を、大鷲は翼を畳んで見下ろした。
力だけでなく知恵もかね添えた大鷲は、その鳥のことを知っていた。
彼らはニュース・クーと呼ばれ、世界中どこにでも新聞という人間の書いた情報誌を届ける鳥である。


「ギュオ…」

「ク!?」


一方ニュース・クーは、悠然と厳かに見下ろしてくる大鷲に、完全に怯えきっていた。
何しろ食われる寸前だったのだ。
グランドラインの異常気象には耐えられても、捕食されるのだけは勘弁なのである。
ニュース・クーは、圧倒的な存在感を放つ強者を前に震え、その言葉を聞いた。


「ギュウギュオ」

「クー」

「ギュオオ」

「クー!」


何と、大鷲様はお客様であらせられるらしい!と理解したニュース・クーは、サッと頭を営業モードに切り替えた。
すると大鷲の後から、虎や豹などの猫科の動物達が何かを銜えて持ってきた。
さすがは大鷲様…猫科の生き物を従えるとは…と、ニュース・クーは驚きに目をぱちくりさせる。
虎たちは、そんな涎まみれの営業マンの前に、ゴトリと何かを置いた。
黄金に輝くそれは、人間の間ではかなりの値打ちがするであろう財宝と呼ばれるもので……え?これで何年購読分かって?それどころかゆうに100年分くらいありますよ!と慌てふためくニュース・クーに、大鷲は満足そうに頷く。
虎たち以外にも、大鷲とニュース・クーを囲むように集まっていた動物達が安心したように見ていた。


たったひとりの人間の少女がいなくなって、灯が消えたかのようだった空島はその日、久しぶりに和やかな空気に包まれた。




それから幾ばくかの月日が流れ、ニュース・クーが訪れるのも珍しくなくなってきた頃。
彼らにとって、待ちに待った少女の顔を見ることが出来た。


『音凪のシノ 5500万ベリー』


「キュイッキュ!!(シノちゃんだ!!)」

「キュー!!(嫌そうな顔のシノ!!)」

「キュッキュキュー(げぇっ後に映ってるの、あのクマヒゲじゃん)」


動物たちの中でも器用な手を持つ猿たちが広げた新聞の中に入っていた手配書に、念願のシノの姿を見つけた動物達のテンションが上がった。
大鷲の近くでパタパタと飛んでいた蝙蝠たちは、彼女の背後に映った背中と腕の持ち主を察して顔を顰めた。
恐らく戦っている時、たまたま背中合わせになった瞬間を撮られたのだろう。
垣間見える腕のタトゥーを覚えていた蝙蝠たちは、クマヒゲめ…!とバラされた恨みを再燃させていた。
しかしそれも、久しぶりに見られたシノの姿が嬉しくて、すぐに忘れてはしゃぎだす。


「ギュオオオン!!」


少女の元気な便りを告げた咆哮が響き渡る。
島中から獣たちの声が上がり、彼女の存在した証を示していた。




―――大鷲は知っていた。
人とは所詮、人の中でしか上手く生きることはできない。

あの小さな少女は動物達を愛した。
動物達も少女を愛した。
少女は海賊と呼ばれる人を憎み、そうでない人も寄せ付けなかった。
少女はそれをよしとしながらも、心の奥底では、動物達とではけして埋められぬ孤独を抱えていたのも知っていた。
人を知り、世界を知り。
それでもなお、ここを故郷と思うのなら―――


この島は、いつか帰る場所であればいい。



可愛い子には旅をさせろ、とはよく言ったものだ。

大鷲の生きる時は長い。
それこそ、シノの一生など刹那の瞬きであるかのように。
いつか見違えた彼女とまた会えるとしたら…ほんの少しの別れなど、惜しむべくもなかった。



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読者さま、企画へのご参加ありがとうございました!

・ヒロインが旅立った後の空島はどうなったのか
・賞金首のリストか新聞で知れたら

実はその後の空島はいつか番外編でやろうと考えていて、リクをいただいてキター!って感じで筆が進みました。
ニュース・クーをとっ捕まえるところくらいまで考えていたので、やっぱり新聞ですよね、と思いながら。
海賊くらいしかやってこない空島で、その時、その手段として選ばれたロー。
本編ではあまり詳しく描写できませんでしたが、主様は人としての幸せも考えたうえで、ヒロインを送り出していました。
キャプテンは、大事な娘を任せるお眼鏡にかなったということです。
まさに渡りに船なリクエストでした。
どうもありがとうございました。

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