HIT企画

□その罪の名は
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ここは新世界のとある冬島。
相変わらず寒さに弱いシノは、ローやクルー達の手前、彼らの散策に少しだけ付き合った後は、さっさと船内に引っ込んでいた。
島全体を音で探ってみても、この島にあるのは山と森と小さな田舎町だけで、海軍もいない。
比較的寒さに強いクルー達は、これまでの疲れを癒すように羽を伸ばしに行っていて、好きで残っているのはシノくらいだ。
人見知りではあるが、孤独を愛しているわけでもないシノは、早くベポ君帰ってこないかなぁと毛布に包まっていた。
ホットレモンがそろそろ尽きそうだという頃には、お目当ての足音が近づいてきて、シノは残りをぐっと呷った。


「シノただいま!!」

「おかえりベポ君」

「えへへっ」


帰ってくるなり、とてもご機嫌なベポが漏らした笑いに「どうしたの?」と問えば、待ってました!とばかりにベポの両腕が前に出る。
大きな身体で隠していた紙袋を見せるベポは、実に得意げで、可愛らしい。


「町を歩いてたらね、とってもあったかいっていう服があったんだ!!この島の伝統ゲイコ?だって!」


おそらく伝統工芸、と言いたいのだろう。
寒い地域の人たちが愛用しているようなものならば、なるほどあたたかいのかもしれない。
シノは目を輝かせた。


「ベポ君!!ありがとう嬉しいっ!!」


ベポはこんなに可愛くても立派なオス熊である。
男の子が、妹分とはいえ女の子のために服を買うだなんて、相当の思いやりがなければ出来ることではない。
シノは感激で頬を染めて袋を受け取った。


「だからねシノ!これ着ておれと町に出ようよ!!」


そんなに冬島をシノと歩きたかったのか。
これで大丈夫!とキラキラした目で言うベポを裏切る選択肢など、シノにはあるはずもなかった。





ベポの毛皮のように真っ白のミトンに包まれた手を繋いで、シノは決まり悪げに目を彷徨わせた。
先に町を散策していたベポは「あっちにおいしい焼き鳥屋さんがあったんだよ!!あ!あそこはね…」とはしゃいでいる。


「……ねぇベポ君…」

「なぁに?」

「やっぱり私…似合わないんじゃないかなぁ……」


服着て喋る白熊が人目を集めるのはいつものことだが、シノの気のせいでなければ、何だか自分も見られている風なのである。
野生児歴の長いシノは、元来の人見知りと相俟って、人の視線には敏感な方だ。
注目を集めているのがベポだけじゃないのは、明らかだった。
たしかにあたたかいのだけど…とベポから貰ったモコモコに包まれたシノは、羞恥で頬を染めた。
少しでも視線から逃れようと、オレンジのツナギに引っ付いて顔を隠した。


ベポから貰ったモコモコ…彼女が着ているそれは、まさにベポとお揃いと言わんばかりの白いモフモフのワンピースとブーツだった。
ワンピースには同じくモフモフのフードがついていて、ご丁寧に熊耳までついている。
その上からマフラーやコートを着たシノは、後からだとベポと並んだ白い小熊にしか見えない。


「(さっきから妙に生ぬるい視線ばかり感じるし、やはり二十歳過ぎた女が着るのは痛かったのかな…っ)」


シノの感覚では、20代で動物紛いの格好はイベント以外だと結構痛い。
そして彼女は、自分がとても20代には見えないことなど、すっかり忘れている。


「ええっそんなことないよ!!それともシノ…やっぱり気に入らなかったの?」

「えっ!?そういうわけじゃないよ!!すっごくあったかいし、すっごく嬉しかったよ!!」


気落ちしそうになるベポに、シノは慌てた。
ベポは厚意で買ってきてくれたのに、迂闊だったと己の発言を悔いた。
ごめんね、誤解だよ、と言い募ると、ベポもホッと気を取り直してくれたようである。
恥ずかしさが消えたわけじゃないが、自分のために尽力してくれるベポの厚意を改めて感じたシノは、一時その恥ずかしさを忘れることにした。
本当はすぐにでも音波化して町中の視線から逃げたい思いではあったが、彼女はいつだってベポの笑顔には敵わないのだ。
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