HIT企画

□うたをうたおう
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※IFPH編。



研究所を脱出し、シーザーを確保した麦わらの一味、海軍G−5らは今、宴の真っ最中であった。
助け出された子供達、研究所で働かされていた囚人達をも巻き込み、その中にはローとシノの姿もあった。
腐っても海軍と誇りを持つG−5らによって、正義と悪の境界線などというものが引かれていたが、そんなもの、もはや誰も気にしてはいなかった。
とうのG−5でさえ


「スモやん中将!!アニキのスープっス!!」


と、海賊の作ったものを、毒見もせずに差し出してくるくらいだ。
スモーカーは呆れるほかない。
G−5の1人がくれた椀を受け取る彼自身、そんな必要がないことはわかっていたが、海兵としては複雑な心境である。
すると、境界線を挟んだすぐ隣で、同じように椀を差し出されたローがいた。


「お前のは…?」

「もっかい行ってきます」


そう言って小走りにスープの列に並び直しているのは、元は2億の首だというのだから驚きだ。
見た目もさることながら…スモーカーは、自分にスープをよこした男が、自分の分もきちんと持っていたのを見ていた。


「……」


相手が海賊でなければ、嫌いじゃない愚直さだ。


「…白猟屋。うちのクルーがどうかしたか」

「何でもねェよ」


目ざとい男だ。
スモーカーは己を棚に上げ、熱々のスープを啜る。

ローに探りを入れてはみたものの、わざわざ明かした行き先が、真実である確証も無い。
しかし、海兵としてこの情報を無いものとしても扱えない。


「あ、キャプテンいけないんだ。ポイ捨て!」

「……」


さっき見送った小さい背中の主が戻り、自分の船長が飲んだ後の器をポイ捨てしたのを見咎める。
ローは低い位置にあたる頭を軽く叩くと、スタスタとどこかへ歩いていく。
せっかく自分の分のスープを持って戻ってきたというのに、1人残されたシノは気にした風でもなく、捨てられた器を拾って座った自分の横に置いた。
律儀な性格らしい。


1人でスモーカーの近くにいるという緊張感はあるのか。
いや、それよりもあの人の群れにいる方が嫌なのだろう。
シノはスモーカーを気にしながらも、この場を動く気配がない。
今までローがいた場所に腰掛け、ふうふうと両手で持ったスープを持って……飲んだ。
目は口ほどに物を言うというが、まさにそれが相応しい様相である。
パンクハザード島に上陸してから、シノのことは何度も視界に入れているスモーカーだったが、口数が少なく、表情もあまり変化が無い印象だった。
それが飯ごときでここまで顕著に目を輝かせるとは…案外単純な奴なのかもしれない、とスモーカーが思っていると、ふと目が合う。
すぐに逸らされたが、あんなに嬉しそうだった目が、一瞬ですごく嫌そうになった。
そんなに見られていたのが嫌だったか。
まあ、スモーカーとて逆の立場ならそうなるが。


それでもさっさとかきこもうとはせず、スープを味わう小さな娘…が、ジッとスモーカーを見つめ、警戒している。


「(動物かこいつは…)」


ジッと観察されれば、誰だって相手に注意を払う。
だが、シノの姿はどこか野生の動物を彷彿とさせるのだ。
そう、まるでスモーカーが撫でようと手を伸ばすと、尻尾をゆらゆらと振り、こちらを警戒する…


「(近所の野良ミケに似てんな)」


少しでも距離を見誤れば、シャーシャーと毛を逆立てて威嚇し、危険がないと思えばその尻尾を翻して去る。
どちらにしろ、彼の手には余る。
けれど気になるような、


「(馬鹿らしい…)」


スモーカーは、一瞬でも血迷いそうになった自分を叱咤する。
あれは海賊だ。
七武海の一味で、逮捕は出来ずとも、海賊は海賊。
ギンッ!と眼光を強くしたスモーカーに、シノはビクッ警戒の色を強くした。



「スモやん!!この小娘が何かしやがったんで!?」

「シメますか!!?」

「いらん」

「「えー」」

「……」


剣呑な雰囲気を察知したG−5が、数人気を利かせて駆けつけた。
ジョッキ片手なのが、その姿を台無しにしている。
スモーカーは、そんな彼らを一蹴した。
シノは増えた人手に益々眉を寄せる。


「だいたいこいつ、七武海のクセしておれらに攻撃してきたヤツの仲間なんですよ!!」

「そーだそーだ!!今度スモやんに何かしてみろ!!おれたちが相手だァっ!!!」

「だからそれがいらんと言ってるんだ馬鹿ども!!」


人見知り発動のため、トラファルガー・ローの後にくっついている印象ばかりが目立っていたシノ。
そのせいか、相手の実力をいまいちよくわかっていない部下にスモーカーが怒鳴る。


「そもそも小娘と侮るな。こいつは元懸賞金2億の”音凪”だ!!てめェらには荷が勝ちすぎる。言っとくが、マトモにやり合ったら束になっても敵わねェ相手だぞ」

「「2億ぅうう〜〜〜っ!!?」」

「見た目に騙されやがって…」


そういえば、入れ替わったスモーカーとたしぎにもよくよく騙されていたのだ、こいつらは…。
スモーカーが額を覆うように手を当て、呆れを滲ませていると、ゆっくりとした足音が近づいてきた。


「何だお前ら」

「!」

「消えた!!」

「出た…!!」

「瞬間移動!?」


ローだった。
何をしてきたのかは知らないが、ローの姿を確認するなり、シノの姿がパッと消える。
驚くG−5たちをよそに、落ち着いた様子のローと、その後からチラりと見える消えたはずのシノは、こちらをムッとした顔で見て、すぐに引っ込んだ。
黒いコートの後にシノを隠したローが、眉を寄せて言う。


「無闇にコレを刺激するな。用がねェなら見るな・寄るな・触るな・話しかけるな」

「「危険物かよ!!」」


似たようなもんだとスモーカーは思うが、ローにとってはまた、違ったニュアンスが含まれるのだろうか。
シノの敵前逃亡のようなこの態度を咎めるどころか、進んで背中に隠してやっているような気さえするのだ。
確証はないが。


「いいかげんにしろお前ら。見苦しい」

「だってよォ…」

「こいつはスモやんと大佐ちゃんに…」

「くどいっ!!」


一喝され、黙るG−5。
されど、気持ちはなかなか上手くついてこないようだ。
ローとの戦いで負った痛手はそれだけ大きく、それだけ彼らの脳裏にも深く刻まれていたのである。

ローには、この手の手合いは面倒以外の何物でもない。
シノを連れてこの場を去ろうとする。
「引きずって喚くだけならクソでも出来る」と部下達を窘めたスモーカーも、それを見送るつもりでいた。


「畜生トラファルガー!!」

「てめー覚えてろよー!!」


どっかの小悪党みたいな捨て台詞をまるっと無視してくれて、助かるだなどと思ってしまう自分が、何だか苦労してるなと思うスモーカー。
くどいようだが、こいつら海軍である。



「……」


ローの大きな歩幅に対し、小まめに動いていた足が止まった。
ローもそれに気がついたようで、名を呼んで先を促そうとしたその時、彼女は捨て台詞を吐くG−5へと向き直った。
いつぞや海賊女帝を相手にした時のように無駄に胸を張って、キッと眉をよせている。
ローは何だか、面倒な予感がした。




「…っキャプテンを、いじめないで!!」




ピキッ―――と、場が氷る音がした。
そして、どん!とG−5を見据えていたシノまで、何故かビシッと固まった。


「あっま、違った……っ!!えっと…!」


啖呵をきるには、あまりにいとけない。
シノはつい、打たれ弱い白熊を庇うときの要領が染み付いていた己を恥じた。
ぐんぐんと頬に熱が集まるのが自分でもわかった。
一方海軍は、わたわたと、何か必死に弁解しようとしている小さな娘を凝視していた。


「「(なっなんだこの生き物……っ!?)」」


目撃していた者は皆、何故か原因不明の動機に胸を押さえた。
ハートの海賊団のクルーたちがいたら、大いに頷いて肩を叩いてくれたかもしれない。
さすがにスモーカーはそのような醜態をさらすことはなかったものの、絶句していた。


「(…これが元2億……)」


自分で部下達を咎めておいてなんだが、本当に金額が正しいのか思わず疑ってしまった。


自業自得とはいえ、知らない人間に注目されまくってしまっているシノは、余計に混乱してしまう。


「(よりによって、いじめないではなかったよ……!!!!)」


キャプテン怒ってるよね…と恐る恐る後を振り返る。


「ふぃっ!?」

「誰が、誰に、いじめられてんだ。ぁあ?」


眉間の皺をグッと深くして、超怖い顔したローがいた。
振り返るなり、凄まじい速さで掴まれた頬がびいんびいんと伸ばされる。


「いひゃいいひゃい〜」


「「いじめられてんのはお前だーーっ!!っつーかんな小っちぇえのいじめんな七武海!!」」


「あ?こいつはうちのだ。どうしようがおれの勝手だ。口出すなG−5」

「ほふ…ひゃふへんほははっへはいひほほ…(そう…キャプテンとは勝手な生き物…)」



「「「「(なんか悟った顔してる……なんだこいつ……かわいそうなのにすげェ……っ!!)」」」」



さながら、頬を伸ばされた菩薩のようだ。
…つまるところ妙なのだが、何故か心打たれているG−5である。


「………ハァ」


海賊と馴れ合うな、と言ったはずの部下達は、無抵抗で頬を伸ばされている小娘を解放すべく、わいわい言い募っている。
目を逸らしたスモーカーは、大きくため息を吐いた。



********


ユイさま、企画へのご参加ありがとうございました!

・連載主で海軍から見た夢主

海軍とのことで、シチュエーションやキャラはどうしようか〜と考えていましたら、やはり一番に思いついたのがスモーカーとG−5だったので、それならとIFでPH編にしてみました。
原作ではスモーカーとくらいしか絡まみがなかったキャプテンも、管制官がいたらG−5とも話すのでは?とやってみましたが、いかがでしたでしょうか?
個人的に、スモーカーさんはローと同じく、グッときたときほど怖くなりそうだと思っています。
そのせいで小動物とかには逃げられそうな。

管制官の悟りを麦わらの一味が聞いていたら、きっと同じような菩薩顔で同意してくれそうな気がします。
海軍からの目線は全然考えたことなかったので、新しく妄想をかきたてられ、楽しく執筆させていただきました。
ありがとうございます!

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