HIT企画
□ハートフールの悲劇
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「あ、ナメクジだ」
「お!知ってるかベポ。ナメクジって塩かけたら死ぬけど、砂糖かけたら生き返るんだぜ」
「えぇーーっ!?」
「なぁーんて…う・そ・!!」
「えええええーーーっ!?」
「ぶわっはっはっはっはっ!!やーい引っかかった〜!!」
この短い間に2回も驚いた白熊を、シャチは指差して笑う。
ベポの顔が渋くなっていき、笑いをなんとか押さえ込んだシャチはネタバラしをすることにした。
「今日はエイプリルフールだぜ?騙される方が悪いんだよ」
「なんだそれ?」
眉を寄せて首を傾げるベポ。
シャチは、そういやこいつ白熊だったな、と思い出す。
「お前知らねーのか……まぁ、なんだ……ウソついてもいい日っつーの?今日のウソはみんなで笑い飛ばすのが風習だ!!」
「そっそうなのか……!」
「(っていう感じだったよな?)…そうだ!!」
風習というよりは、シャチの認識なのだが、ベポは信じた。
神妙に頷いて「知らなかった…おれが悪かったのか…知らなくてすいません……」としょんぼりしている。
シャチは(うわぁ…何か罪悪感が……)と今更ながら思った。
彼自身、さっきペンギンに騙されたばかりだ。
他のクルーはヤケになったシャチの嘘なんぞには耳を貸さず、「ハイハイ」と片手でいなしたり、そこはかとなく適当にあしらわれた。
仕方なく、絶対信じてくれそうなベポをターゲットにしたまでは良かったが…これである。
「なっなあベポ!お前も誰かにウソついてみりゃいいじゃねーか!」
「え?」
「そういう行事なんだからさ!」
―――というのが15分程前の出来事であった。
現在ベポは、自室の測量室へと戻り、妹分と向き合っていた。
何やら挙動不審な兄貴分を前に、シノはクッションを抱いてハテナを飛ばしている。
「っシノ…!!」
「なに?」
「じっ実はっね……」
「うん」
「実は……」
くつろぐシノとは逆に、ベポは椅子に座って行儀良く膝の上で両手をぎゅっと握った。
シャチとの会話を思い出す。
『船の奴らはだいたいウソつき合ってて知ってるからな…エイプリルフールってわかってる相手を騙すのはお前には荷が重い』
『へー』
『ん?シノならいけるか…あいつ今日まだ見てねーし、お前の言うことならとりあえず信じるだろ』
『えーやだよ。シノにウソつくなんて…』
『だからそういう行事だって!!何でもいいじゃん。おれみたいに些細なウソつきゃいいんだよ』
『!!あれ些細なウソだったのか…!?シャチってば悪いヤツだな!!ナメクジにあやまれ!』
『いや…あの…悪いっつーかまあ海賊だけどよ…』
『…ついても笑ってくれるウソかぁ…』
その時ベポの頭にふと過ぎったのが、クールでカッコイイと尊敬する船長の顔だった。
いつも仏頂面で、そんなキャプテンも笑ってくれる嘘だったらいいなあと思った。
『あっ!!いいこと思いついた…!!』