HIT企画

□白ひげ海賊団
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とある空島に立ち寄った際、白ひげが娘としたのがシノだった。
守り神である大鷲の庇護下にあったシノを託された白ひげの器に、流石は親父だと新たな家族を歓迎した白ひげ海賊団。
新しく出来た初めての妹は、兎角一味の興味を惹いたが、半端なく人見知りする気質が未だ彼らとの距離を大きく開けていた。


シノは今日も、ひっそりと白ひげのそばにいる。
点滴を取り替えようとしたナースが、大きな白ひげの上着をテントにくっついているシノを見つけ「あら」と頬を緩める。


「こんなところにいたのねシノ」

「!」


見つかったシノは、ぴゃっと奥へ後ずさり、あっという間に上着と背中の間に身を滑らせた。
白ひげは、もぞもぞと動く小さいものに「くすぐってェ」と笑う。


「どこどこ?」

「やん!隠れちゃったわぁ…」

「あらあら」

「シノちゃんおいで〜お菓子あるわよ〜」

「グララララ!ウチの綺麗どころも形無しだなァ」


男達どころか、この船で唯一だった女性陣のナース達にすら懐かないシノ。
今の所、大鷲に認められた白ひげのみ、彼女の安全地帯らしい。
最近のナース達の楽しみは、この慣れない子猫のような娘を見つけて構うことだ。
白ひげは、背中から脇の方に移動してきた小さな塊をポンポンと叩いてやる。
それが顔を見せてやれ、の合図であることがわかったシノは、そっと顔を出した。


「フフフ!」

「もう!相変わらず親父様にべったりなんだからァ」

「ハイお菓子」


大きな白ひげの身体からちょこっと出てきた小動物に、ナース達の周りに笑顔の花が飛ぶ。
シノは差し出されたお菓子と白ひげとを見て、白ひげが頷く。
すると、おずおずとお菓子の包みを受け取った。


「……あ……りがとう……」


注目を浴びて居心地の悪くなった人見知りは、またもぞもぞと姿を隠した。
見守っていた笑顔の色が濃くなり、いっそう空気が華やいでいく。
少し前までは、お菓子も受け取ってくれなかったシノが、顔を出して礼を言うまでになったことが嬉しくて仕方がないのだ。
やはりいつの世も、女性は可愛らしいものに弱い。
懐き始めた子猫に味を占め、虎視眈々と攻略を企てているナース達。
白ひげは、うずうずと機会を窺うばかりの息子達より一枚上手な女性陣の手腕に笑みを深くした。


そんな息子達の中でも、特にそわそわしているのがエースだ。
時折チラチラと気にしては、白ひげと目が合って逸らしている。
男らしくないと言ってやるのは容易いが、この船の人間で、その理由を知らぬ者はいない。
皆、彼らの成り行きを見守っている。



―――あの空島で一度、エースはシノと戦っていた。
理由は、シノがエースに攻撃してきたからだった。
しかし、どちらに非があるかと言われれば、それはエースにあったと言わざるを得ないだろう。


何故ならエースはあの空島で、シノの家族を一頭………食ってしまったのである。


泣きながら襲い掛かってきた少女は手強く、エースも半ば本気で相手をした。
当然軍配はエースに上がり、嗚咽をもらして地に伏せるシノに理由を問えば、自分は家族の仇であったのだ。
不思議と野生動物が避ける島で、やっと見つけた貴重な肉が、彼女にとっては家族だったと知った時、家族に並々ならぬ思いを抱くエースの心は大いに揺さぶられた。
事情がわかったからには放っておくわけにはいかない。
エースは治療のために、シノを船に連れ帰った。
大事な娘を傷つけられ、奪われたと知った大鷲が黙っているはずもなく、船に襲い掛かってきたところを、白ひげが説得したのだ。
他の息子達にも、島の動物を傷つけないことを約束させた白ひげの器を認めた大鷲は、島でたった1人の人間だったシノを彼に託した。
医療班のナース達を除き、初の娘としてシノを受け入れた白ひげの意を汲んだ息子達も、概ねその存在を歓迎している。

無論エースもだ。
大規模な海賊団相手でも、家族のためにたった一人でも向かってくる勇気は胸を打った。

…のだが。


「あっシノー!!」

「!?」


新しい妹は、思った以上に人見知りの、海賊不信だったのだ。



今日もがっくり落ち込みながら、ガッツリ肉を食うエースを、サッチは呆れた目で見ていた。


「お前まーたシノに避けられて落ち込んでんのか?それとも闘志燃やしてんのか?」

「ふぉっふぃぼばっ!!!(どっちもだっ!!!)」

「うわっ汚ねェ!飛ばすな!!」


長いこと動物の世界で生きてきたシノは、弱肉強食という自然の摂理を充分理解していた。
家族を食われて敗北したことも、エースの謝罪で折り合いをつけたようで、あれ以降何かの怨恨を向けられたことはない。
あとは自分の頑張り次第だ!とエースは己を奮い立たせる。
誰かを…他人を信じる恐ろしさは、エースも知っている。
エースは中々クルーにとけこめないでいるシノの世界を広げる手伝いをしてやりたいと思っているし、それで少しでも彼女とあの美味かった肉にも報いてやれればと思う。


「むぐもごっごっくん……っあいつはいい奴だ!!おれが最初に仲良くなるんだ!!」

「へいへい。ナースに先越されてるけどな」

「うるせェ!!」


あと単純に、シノのことを気に入っているのだった。
サッチは台拭きを放ると「拭いとけよ」と席を立った。



「よい」

「おおマルコ……お前なんで変身して…あぁ…」


食堂に何か青いものが入ってきたと思いきや、何故か船内で不死鳥になっている1番隊隊長であった。
不思議がるサッチが得心したのは、青い翼にさっと身を隠したものを見たからである。


「ふごォっふぐっばぶぼーーっ!!!(ああってめェマルコーーっ!!!)」

「あーあ面倒な奴に見つかっちまって」

「まったくだよい…」


またしても食い散らかし、喋って飛ばすエースに反省の色はない。
マルコは背中から消えた気配を感じ、せっかくここまで連れてきた妹分への苦労が水の泡になったと、ため息をついて人間に戻った。


「ぼばえっ……ごくっ…っお前卑怯だぞマルコ!!鳥になってシノを油断させるたァ…っおれだって…おれだって……っ!!!」

「おいエース…おれがシノをここまで連れてくるのにどれだけ辛抱強く宥めすかしたと…」

「はっ!!おれも鳥の形にメラメラすりゃいいのか…っ!!!」

「…聞いちゃいねェ」

「ははっ」


マルコの肩に、ぽん、とサッチの手が乗った。
ドンマイ。


「あいつは…ウチに来てからあんま食ってねェんだよい」

「えっ!?」

「最初の頃は親父と食ってたけど…そういやこの頃は人気の少ない時に来てるな」

「ああ。親父も甘やかさねェで、ちゃんと食堂に行けって言い聞かせてんだ。だから人がいねェ時狙って食いに来てるみてェなんだが…」


なにぶん、この大所帯である。
人の少ない時間帯というのがそもそも少なく、またその場にいる人間にもよって、シノはなかなか食堂に来れずにいるらしい。


「…だからナース達も率先して食い物やってんだよい」

「ただの餌付けじゃなかったのか…!!」

「空腹に対する餌付けは効果覿面だよい」

「下心じゃねェか!!!」

「女は怖いねェ」


サッチが肩をすくめると、エースは何かを思い立ったのか、食べるスピードを上げ、急いで食事をかきこんだ。


「こうしちゃいられねえ……っ!!」

「あっおいエース!?」


慌しく席を立ったエースは、傍らの肉を掴んですっ飛んでいった。


「ほっとけよい」

「だってよォ……エースの奴…その…食ったんだろ?」


何を、とは言わないが…掴んだものにデリカシーがないのでは、と思う。
気を揉むサッチに、マルコはフ、と笑う。


「そんなに心配しなくても、シノはもう気にしてねェよい」

「ならいいんだが…」


その証拠と言えばいいのか、この後、帆の上に腰掛けて肉を食うシノとエースの姿を、幾人ものクルーたちが目撃した。
皆一様にその光景に安堵していたのだが、ただ1つ余計だったのは、肉を平らげた後、エースがマルコに習って火の鳥になろうとして、うっかり帆を燃やしてしまったことである。
先の安堵も台無しの、クルー一同驚愕の事件を引き起こしたエースを、本物の火の鳥が殴り飛ばしたのは言うまでもない。




「―――何もお前まで正座してなくてもいいんだぞ」


とは言いつつ、エースはどこか嬉しそうだ。
お仕置きとして、修復した帆の下で正座させられているエースの横に、ちょこんと同じく正座しているシノ。
人が通りかかるたび、音波化して透明人間になっていたりもするが、きちんと横にあるその存在に―――帽子のつばを引き、エースは弧を描く口元を隠した。



********

エース君は、妹だと思っている子が実は姉かもしれない疑惑にはまだ気がついていません。
妹弟子的な意味ならそうなんですけどね。

ナース達は白ひげのことを何と呼んでいるのでしょうか?
迷いに迷って親父様で。
ナースによってちょっと違うのもいいかも。
ただ、お父様とかは「ガラじゃねェ」って言われそう。
たけのこの中で、エースって誰かに歩み寄る時はすごく純粋で子供みたいなイメージがあり、こんな感じに。
エースのカッコイイところも書いてみたいなぁ…どこかに落ちてないかな読みたい。

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