HIT企画

□海軍
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「ちょっと君ぃ」

「!?」

「あ〜…ん〜〜…何つーかさァ……おじさんと一緒に来てくれる?」


ブンブンブン!!

ガタガタガタ…!!


掴まれた腕を必死に振りほどこうと振り回し、掴んでいる張本人である大男を哀れなほど震えて見上げる少女を見ていた部下達は思った。



「「「「(どうしよう……かどわかされる少女と犯罪者にしか見えん……!!!!)」」」」



大将青雉が、空に浮かぶ無人島にて一人の少女を保護した時の出来事であった。





それから少女…シノはというと、本来は親切心からの保護(にしては誘拐っぽかった)だったにも関わらず、後にオトオトの実の能力者だったという事が判明し、海軍の監視下に置かれる事となってしまった。
青雉自身、シノが能力者の可能性が高いとは踏んでいたが、まさか自然系とは思わず、少々かわいそうな事になったと思っていた。
あの島で自由にのびのび生きていた少女は今や、能力の価値に目が眩んだ海軍の手中とは…
たった一人の人間の少女を、人の世界に下ろしてやろうとしたクザンは、真に彼女を思いやっていただろう、あの大鷲に申し訳ないことをしてしまったと思う。
せめて自分の監督下であったなら、そう無茶な要求もされず、少しは自由にやっていけるかもしれない。
そんな気持ちでシノを手元に置いておくことにしたクザン。


しかし能力の有用性から、度々余所から借り入れ要請がくるのはいただけない。



「え〜〜―――ウチの子、超人見知りって知ってるでしょ?だからパス」

「(知らねェよ……親バカか!?バカ親なのか!!!)そっそこを何とかお願いします!!」

「えー」


渋る女子高生か。
シノは音波化して部屋の隅っこでお茶を飲みながら、早くこの年甲斐のないダラダラした保護者が仮面の男を追い払ってくれるのを静かに待っていた。
仮面の男はクザンの態度と目的に気を取られて全然気がついていないが、彼の後で立っている男は、ひとりでに捲れるページや動くティーカップのある小さなテーブルに注意を払っていた。


「オトオトの実は諜報にはうってつけの能力!まさに我がCP(サイファーポール)でこそ真に力を発揮出来ます!!」

「えー……ヤダ」

「そこを何とか!」


手を合わせて拝むように頼む仮面の男にも、クザンは”だらけきった正義”を背後に片肘をついてにべもない様子だ。
やがて、何を言っても適当に断る青雉に折れた男が部屋を去っていく。
シノは、仮面の男に続いて部屋を出て行く男の肩に乗った鳩に手を振った。
海軍本部にはあまり動物がいないので、時々見かけてはつい懐かしくて目を奪われてしまう。
鳩にも見えるよう、その時ばかりは音波化を解除していた。
振り返してくれる鳩に気づいた男がこちらを見て、一瞬驚いたように少しだけ目を見開いたのが印象的だった。
もう会うこともないだろうから安心という気持ちと、あの鳩君とは少し話してみたかったな、という残念な気持ちが半々のシノはまさかこの時―――


あの仮面の男がコネと権力を上手く根回しし、暖簾に腕押しの青雉に政府からの圧力という形でシノをエニエス・ロビーとかいう不夜島に連行するとは夢にも思っていなかった。



「―――絶っ対行かない」

「いや、おれも行かせたくはないんだが……センゴクさんを通して正式に来た依頼だからさァ〜」

「やだ!!絶対イヤ!!」

「そう言わないでさ…ほら、お小遣いあげるから」

「イヤ!!!……クザンは…私を知らない人間の群れに放り込むの…?」

「え…」


はて。
そんな、この世の終わりみたいな顔で言うほど残酷な事だったろうか…確かにCPは諜報機関だから心配な面はあるが…
クザンは、シノの背後でクゥーン…という子犬の声が聞こえたような気がした。


「いやいやっ…別に売りとばそうってわけじゃねーんだよ?ただちょっとばかしの間、シノの力を貸してって話で………ハァ…おれだって行かせたくはねェんだ」


小さなシノの頭を撫でるには、大きすぎる手がわしゃわしゃと動く。


「お前さんを連れて来ちまったのはおれだからさ。大鷲の手前もあるし…何よりハイパー人見知りなお前をCPに送り込むなんてさァ〜もうおれ心配すぎてハゲるかも…」

「……」

「なるべくお前さんが早く帰ってこれるようおれも努力してみるから」

「…」

「本当に嫌になったら帰ってきてもいいから…その時はコレね」

「…(こくん)」


躊躇いがちに電伝虫を両手で受け取ったシノがゆっくり頷く。
シノとて見かけほど子供ではない。
クザンが普段から、色々なものからシノの防波堤をしてくれているのはわかっている。
今回の事が本当に不本意であることも…だから、シノも嫌だけど…嫌だけど……


「……早く、早くね…迎えに来てね……」

「………あー……う、うん……」


見知らぬ人間を嫌がっているせいだ、というのはわかっているが、こう…
自分だけを一心に頼って縋る、潤んだ瞳というのは、すごい破壊力なのだな、とクザンは心からそう思った。


「………お前はかわいいなァ……誘拐されないように気をつけなさいね」

「…クザンみたいに?」

「グサッ」


と、自分で言いながら胸を押さえるおっさんを、黒い目が静かに見ている。
いたたまれなくなったクザンは「おほん」と咳払いをした。


「本当に早くしてね。じゃないと…


『やだ!!絶対イヤ!!』

『そう言わないでさ…ほら、お小遣いあげるから』

『イヤ!!!』


 …これ、エニエス・ロビーとマリンフォードに大音量で流すからね」



「……あ、うん……」



さすが…10年以上を1人で生き抜いてきた野生児は、可愛い顔して実にしぶとい根性をお持ちであった。
こんなものが流されたら、青雉は社会的に抹殺されたも同然である。



そんなこんなで、シノのためにも彼女を早く手元に戻せるようクザンもあちこちに働きかけてはみたものの…
それが効果を及ぼすよりも早く、シノはクザンの元へ帰ってきた。

何でも、シノはこの短期間

『お前の仕事はおれ様の益になる情報を集めることだ。諜報任務も与えるには与えるが、主な仕事はおれの護衛兼情報収集だ。どんな情報でも詳細に集めて報告しろ』

というわけで、諜報任務は程ほどに、CP9の長官にくっついて色々な場所に行かされたらしいのだが


「長官の下種具合とか…ドジとか…色々つまびらかにしてたら、何か帰ってこれた」

「……そう」


本来なら首が飛ぶような行いだろうが…おそらく青雉の威光がシノの身を上手く守ってくれたのだろう。
あの長官が権力に阿る、典型的な小悪党タイプなのはクザンもよくわかっている。
怒髪天をつきながらも、青雉から是非にと引き抜いた人材である故に過剰な処罰も出来ずに歯軋りするスパンダムが目に浮かぶようだった。


ホッとして、肩の力が抜けきったクザンは、シノの両肩に手を置いたまま、だらりと身を下げた。


「………クザン…」

「ん?」


呼ばれて顔を上げると、何故かムッとした様子のシノがフイ、と顔を逸らした。


「何よシノ〜せっかく帰ってきたのに嬉しくねェの?」

「ちがう…」


拗ねた子供のような顔。
クザンだけでなく、シノ自身もそう思っていたが、今まで余所で気を張っていた分、顔に出てしまうものはしょうがないのだ。


「……嬉しくなさそうなの、クザンの方だし…」

「………」


―――ああ、やっぱうちの子かわいいわ…


と、しばし呆けてしまったクザンは、その間にすっかり臍を曲げてしまったシノの機嫌をとるのに苦労することになる。
しかし、面倒くさがりな性分はどこへ行ってしまったのか。
そればかりは少しも面倒に感じない自分を不思議に思いつつ、クザンは結婚もしてないのに、娘っていいな、などと思ったのであった。


その後、スパンダムこそ訪れなくなったものの、しばしばCP9との交流が続いているらしいシノに嫌な予感がしたクザンが聞いてみると

「ハットリ君やルッチ達には結構引き止められてたんだ。シノがいると長官の扱いが楽だって」

「へェ…」


あの短期間で随分仲良くなったものだ…鳩か。
鳩効果なのか…?
おれの名前を呼んでくれたのって一体どれくらい経ってからだったっけ?

自分で聞いといて、ちょっと寂しいクザンであった。


「(まあ…これも勉強だからなァ……シノも人の中で生きる術を知っていくいい機会…)」


まるで巣立っていく子を見送る親鳥のような気分を知りつつあるクザンはしかし…ある日窓から見下ろした光景に考えを改めることになる。



「―――ねえシノ。お父さん怒らないから正直に言いなさい」

「(…お父さん?)」

「ロブ・ルッチとは一体どんな付き合いをしてるんだ?」

「付き合い……?(なんでルッチ?…友達…にしては…うーん…ハットリ君は友達だけど…)ルッチは…知り合い?」

「嘘つくんじゃありません」

「……」

「職場で知り合っただけの男は普通花束持って会いに来たりしません!!」

「そうなの…?」

「そうなの!!」


空島の動物(オス)達にはよく花やら木の実やらを貢がれていたシノは、何だかお怒りらしいクザンを前に、のんびり首を傾げていた。



********

父性に目覚めたらしい大将青雉と、何やら恋の予感?なルッチ氏。
強くて丈夫なメスが動物界でモテモテなのは必定。

いかがでしたでしょうか?
海軍人気が非常に高く、また海軍の中でも青雉とCP9の人気が群を抜いていたのでこちらにスポット当ててみました。

クザンは人間で、捕獲された事もあり、ベポ相手にする程甘え方が素直ではない管制官。
若干ツンデレ入ってる所があるのは、ローに対してと少し似てるかも。


本当はあの誤解を受けそうな音声を流すぞっていうシーンでは、脅しつつも

「大丈夫。クザンが無職になったら一緒に空島で暮らせばいいよ」

「(きゅん…)」

みたいなのもちょっと入れたかった。
こちらの管制官は、きっと本当に無職になった青雉とも、躊躇いなくキャメルとついて行くんだろうなと思います。
むしろキャメルについて行きそうだとは言わないお約束…お父さん泣きます。


企画へご参加くださった方々、どうもありがとうございました!

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