HIT企画

□ドンキホーテ海賊団
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それはまだ、ドンキホーテファミリーがグランドラインに進出したばかりの頃のことである。



「っくぇっく…っ」


「んねーんねードフィーこいつ何?べへへへ」

「散歩に行ったんじゃなかったのか?まだガキじゃねェか」

「フッフッフ!まあな。だがいい拾い物をした」


ある朝ふらっと空に出て行ったドフラミンゴが持って帰ってきたのは、嗚咽を耐える小さな女の子供であった。
見たところローよりも幼く、涙を零している様はファミリーにいる子供の中でも誰よりも弱そうだというのに、その子供は命知らずにもドフラミンゴが頭に置いた手を払い、キッと睨みつけた。


「何が拾い物よ!!主様を……っみんなをっ!!!!」

「ああそうさ。そいつらを見逃してやるかわりに、お前は大人しくついてきた……そうじゃなかったか?」


払われた手で頭を掴んだドフラミンゴに、掴まれた子供は更に顔を歪める。


「いいか。よく覚えておけ―――弱ェ奴は死に方も選べねェ……!!」

「っ!!」

「この海じゃァな……お前の家族も…お前も…―――シノ。思い通りに生きてェなら強くなれ。しぶとく生き抜いておれを出し抜いてみろ!!」


掴んでいた手が開く。
子供が落ち、尻餅をついたかに思われたが、それに見合う音はしなかった。


「おいお前ら!!今日からこいつもファミリーの一員だ!!いいな!!!」




こうしてドンキホーテファミリーに無理矢理入らされたシノ。
その様を静かに眺めていたローは、興味津々のベビー5やバッファローとは違い、せいぜい足手纏いにならなきゃいい、と作業に戻った。


―――が、このシノ。
足手纏いにこそならなかったが、協調性のなさといったらロー以上で、加えて超絶人見知り。
人間は基本敵のように思っているのか、会話すらまともにしない。
ロギアの恩恵で姿を眩ませるのは得意中の得意で、命令しようにもどこにいるかがわからない。
一応、ドフラミンゴに対しては初対面でこっぴどく痛めつけられたのがきいているらしく、表立って逆らったり復讐しようという気配はないが、態度は誰より悪かった。



「おいドフィ。このガキの態度といったら目に余る…”血の掟”に則って一度痛い目に合わせた方が…」

「まあ待てディアマンテ。あいつのアレは幹部どころかこの船の誰に対してもそうじゃねェか。決定的な危害がなければ放っておけ。あれは動物と同じだ。自分より強ェ奴には本当の意味で逆らったりしねェよ」


その証拠に、家族達の仇であるドフラミンゴの命令には、渋々ながら従っている。
家族を大事に思い、強者に立ち向かう度胸を持っていながら、この世の理をきちんとわかっている。
最も惹かれたのはオトオトの実の能力であったが、ドフラミンゴがシノ自身を気に入っている理由は能力ではなく、そこにあった。
生き残る術を理解している人間は、強い。


「獣の躾けに肉体的苦痛なんぞ大したメリットはない……牙をもがれた獣にしたけりゃ別だがな。あいつは将来…ローと同じくおれの片翼を担う女になるだろう。その時まで、牙は周到に研いでおくさ。奴隷にしちまうには勿体ねェ!!」

「お前がそこまで言うなら」

「ああ。悪いな」


子猫の立てる爪ごときに揺れるような小さな器ではない。
ドンキホーテファミリーのボスは大器である、と幹部達は皆納得した。
唯1人、コラソンを除いて―――


(まずいな…あいつの能力ならいずれおれのナギナギの実の能力に気づく……)


コラソンはセンゴクへ報告を入れる際は必ず防音壁を使っている。
盗み聞きされる恐れはない。
しかし、音そのものの存在を探知出来るシノならば、無音空間の存在にもいつか必ず気づく。


(今のうちにこちらに引き入れておくか……ドフィに従うのもあいつの本意じゃ…いや、そもそもあいつは家族の命を盾にファミリーに入れられたんだ…ドフィに逆らうわけがねェ……!!)


シノの家族を海軍で保護してから協力を乞えれば理想的だが、彼女の家族は空島ひとつ分の動物達だ。
それよりは、ドフラミンゴ及びドンキホーテファミリーを確実に滅ぼせる作戦を提案し共犯にしてしまう方が現実的だろう。
だが、もしその作戦が失敗すれば……?
あんな小さな子供の命が、コラソンのせいで散ることになる。
それだけならまだいい。
人が認識する最悪より最悪を平然と閃きやってのける兄が、その後一体何をするか…


(どうする………!?)


裏切りの暴露を恐れながら、赤の他人の子供の未来も捨てきれない。
コラソンが思い悩んでいる間にも時は過ぎ、彼はすぐそばにいた”D”の存在に気づいた。
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