HIT企画

□赤髪海賊団
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赤髪海賊団といえば、かの四皇大海賊赤髪のシャンクス率いる超大手の海賊団である。
つい最近まで、無人島生活ぼっちまっしぐらだったシノには残念ながらあずかり知らぬ事だった。


いつものように海賊である彼らから、動物達を引き離すよう誘導していた所をあっさり看破され、捕獲され…
それも捕まえたシノや他の動物達の様子から、彼女の意図を瞬時に察した副船長のおかげで誰一人傷つけられる事はなかったのは幸いである。
シノが、どうやら話のわかる人?とちょっぴり海賊の認識を改めようとしたのも、このベックマンの功績であった。

そして、それを良くも悪くも突破してかき回すのが、船長のお仕事である。

彼は銃を向けられ膝をついていたシノの前にしゃがむと、にかっと笑って片手を差し出したのだった。


「お前ちっこいのにスゲェなァ!!どうだ?おれたちと一緒に海に出てみ、ぎゃーーーっ!!!」


遠巻きに恐々見守っていた動物達の襲撃に、シャンクスが逃げまわり、暴れまわり、一時の間、状況は混乱を極めた。


「わっコラ!!うえっ汚ェっ!!」

「ヒャハハハッ!!お頭ばっち〜〜っ!!」

「あっはっはっは!」

「みんな…!」


鳥たちは嘴を剣に海鳥のように急降下し、糞尿を撒き散らし、地面に潜んだアナグマがそんなシャンクスの両足を握って逃走を阻止。
最初は笑ってシャンクスを指差していた仲間達も、大型の肉食動物までもが参戦したとあっては各々が反射的に武器を構えた。
シノは、皆が自分を守るために、海賊達と交戦なんて冗談じゃない!と立ち上がって声を上げた。


結局、混沌としていた場は大鷲の登場によって収まった。


で、その後どうして動物達と海賊とで大宴会になったのかは、シノも未だにわからない。


元々人たらしの気があったらしいシャンクスは、何故か瞬く間に島の動物達と意気投合し酒を酌み交わし、仲間達も何も不思議とせずに一緒にどんちゃん騒ぎ。
終いには何故か…何故か、シノがこのお騒がせ船長の船に乗せてもらう事になっていたのである。
解せぬにも程がある。


「んじゃっまたな!!」


と大鷲に向かって笑うシャンクスの1本しかない腕に、しっかり小脇に抱えられていたシノ。
大鷲をはじめとした動物達は既に盛大なお見送りムードであり、海賊達も「シノの事はまかせろ〜!!」と意気揚々と答えている。


「……なぜ…?」


と呟くシノの荷物を、かわりに持っていたベックマンは「フ」と笑う。
他の騒ぎ立てる仲間たちに比べれば、シノとの心の距離が最も近い人間は彼である。


「まァ…お頭に目をつけられたのが運のツキだな」


こうして、荷造りした覚えもなかった荷物を渡されたシノは、世間では四皇と騒がれている海賊団として、彼らとともに旅をする事となったのであった。


それからしばらくは、シノにとってストレスフルな日々が続いた。
船の上では船長に嫌と言うほど構われ、それでなくともおっさん比率の高い船の中で、シノは初めて我が家に来た子猫ばりに注目され、ちょっかいをかけられ、ぐったりとしていた。
これも彼らなりの愛情表現というやつだが、人間という生き物が近くにいるだけで、反射的に瞬間移動したい衝動にかられるシノにはベリーハードな毎日だ。
そのたびに助けてくれるのが副船長であり、時がたつにつれ、シノはすっかりベックマンフリークとなっていた。

それは、仲間達の存在に慣れた今も変わらず、である。



「意義あり!!」


と、裁判を思わせる気迫で木箱を叩いたシャンクスを、シノとベックマンは呆れた目で見ていた。


「何でお前はこいつとばっか飲むんだよ!たまにはおれの隣でかわいく酌してくれたりしてもいいだろー」


今しがた出港した船の上、これまでの島とこれからの島に向けての区切りと、今夜は船上で宴会が催されていたのである。
ところがどっこい、この船の紅一点は宴会に限らず、一番静かで落ち着くベックマンの傍を離れたがらず、シャンクスの叫びにそこかしこから「そーだそーだー」「いいぞ船長もっと言ってやれ〜」などと野次が飛ぶ。
シノはそんな酔っ払い達を見渡し、一言。


「だってシャンクスめんどい」

「めんどいって何だめんどいって!?」


世の反抗期の娘を持った父親は、おそらくシャンクスの気持ちが痛いほどわかるだろう。
ウザイ、と言われないだけマシだと諭されるかもしれない。


「そうやって騒ぐからだぞお頭。シノがそういうの得意じゃねェのは知ってんだろ」

「ベック」


さすが、よく言ってくれた!という気持ちを、名を呼んだだけでありありと表したシノは、そう言って酒を呷るベックマンに慣れた動作で酌をした。
だからそれが羨ましいというに…

シャンクスはぶっすぅ〜と脹れてから自分もジョッキを呷ったのだった。


「まあまあお頭、シノの副船長贔屓は今にはじまった事じゃねェんだし」

「そうそう!」

「それよりこの間街を歩いてた時の事思い出してみろって!シノの奴、知らねェ奴に声かけられるなり、パッとお頭の後ろに隠れてよォ」


当然というか、それはベックマン不在時の出来事であるが、シャンクスはどうにかそれで持ち直したらしい。


「あん時は可愛かったよなァ〜〜こう、世界で頼りになるのはおれだけ!みたいでなァ…」


世界屈指の大海賊も形無しの笑みを見せて盛り上がるシャンクス達を横目に、照れているらしいシノは知らぬフリをしている。
この顔を見りゃァお頭の機嫌ももっと良くなるだろうよ、と思いながら、ベックマンは今日も沈黙を守るのであった。
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