HIT企画

□ふたりでできるもん!
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サンジが倒れた。

船医であるチョッパーいわく、感染症ではなく前回入った島に自生していた植物の毒にあてられたのだとか。
命に別状はないらしいが、この船唯一のコックが倒れたともなれば、由々しき事態が生じる。


「大丈夫かサンジ〜〜!!」

「サンジさァ〜〜ん!!」

「あんのアホコック…軟弱か」

「お前達は入るなよ!感染はしないけど、発熱がひどいし意識が朦朧としてる。薬を飲ませたから多分2〜3日で回復するだろうけど……患者に負担はかけたくねェから面会謝絶だ」


医療室のドアの前に集まっていた仲間たちに、チョッパーは小さなヒズメを見せて毅然と告げた。
ルフィやウソップ、ブルックは涙混じりに取り乱している。
そこまで動じろとは言わないが、こんな時までサンジを詰るゾロはいつも通りである。
「ところでメシどうすんだ?」と食事の心配をしている。


「お前ちょっとは心配しろよ!!サンジを!」

「お前が大丈夫っつったんなら大丈夫だろうがよ」

「えっまっまあそうなんだけどよ〜〜あんまり褒めるなよ〜〜コノヤロがっ!」

「フフ」


嬉しそうにクネクネするチョッパーに、ロビンが笑みを零す。
それからすぐにハッとしたチョッパーは「じゃあおれ今から薬を追加で調合するから!」と、たった今開けたばかりのドアを閉めて医療室に消えてしまった。
ひとまず安心した仲間達が医療室の前から動いていく中「そういや…」とウソップが思い出す。


「マジで今日の晩メシどうすんだ?」


一味の間に沈黙が落ちる。
それ見たことかと、ゾロがため息をついた。



「だからおれが言っただろ」


場所を移して、ここはキッチンダイニング。
チョッパーとサンジを除いた面々が集合しており、たった一人のコックの不在に頭を悩ませていた。
「じゃあまずこの中で料理できる奴ー」と進行を兼ねたウソップが手を挙げる。
釣られて手を挙げたのは、速度や高さは疎らながら、一味全員である。


「嘘つけお前らー!!特にルフィゾロ!」

「嘘じゃねェ!修行中、おれはちゃんと自分で肉獲って食ってたぞ毎日!!」

「おれに下ろせねェもんはねェ」

「だからお前らそれ料理じゃねェから!よし除外!ナミとロビンは出来そうだが…」

「あら、あたしは有料よ?」

「「「「(言うと思った……)」」」」


人差し指と親指でわっかを作ってウィンクする航海士は、いくらふんだくるかわかったもんじゃないので除外。
フランキーは食べられる程度には出来るが、料理と呼べる程ではないと本人談。
ブルックも同じようなものらしい。


「…となると、おれとロビンで2〜3日どうにかするしかねェか」

「……」

「あら」


実は最初から小さく手を挙げていたシノが「何も言われてないのに除外された…」むすっとしていた。
個性の強すぎる一味の中では、すぐに姿を消したり出来る小さな管制官は、見え辛い時もあるようだ。
気づいたロビンが優しく髪を梳いた。


「……だから人間は嫌い……」

「かわいそうに」


拗ねるシノの頭を優しく抱き寄せたロビンが、チラッとウソップを見る。


「おれが悪いのかよ!?」

「そうですよウソップさん…ここにいるのに気づいてもらえない…とても悲しい事です。ああっ私霧の中で彷徨った頃を思い出して目から涙が……あっ私目、無いんですけど」

「わーったよ!おれが悪かったって!…でシノ、お前料理出来るのか?」


ロビンの胸から顔を覗かせたシノは、控えめにこくりと頷いた。


「……魚からお醤油が作れます」

「いや、逆にわかんねェよ」

「すごいわね…魚醤を?」

「(こくり)」


無人である空島では、自然から手作りできる貴重な調味料だった。
他には時々やってくる海賊船から拝借したり、時々大鷲に乗って近隣の空島にいる人間から食材を買ったりもしていたので、シノはルフィ程原始人のような食生活をしていたわけではなかった。
さすがに味噌や酒までは醸せなかったが、漬け物系はよく作っていた。
実は今でも、女子部屋の自分のスペースにこっそり色々漬けたりしている。
習慣ってなかなかとれないものである。


「そういやあんた、お酒とか漬け物とか時々やってるもんね」

「!(こっそりバレてた…!)」

「ナミに隠しておくのは無理よシノ」


特に隠していたとかじゃないが、何かショックだ。
超目敏い泥棒猫の目が弧を描き、グラスを呷るような仕草をする。


「波に揉まれたお酒は美味しそうね?シノ」

「!」


シノのかわいい果実酒達がロックオンされている!

シノはロビンを見上げて助けを求めた。


「フフッ楽しみね、シノ」

「!!」


今のシノほどカエサルの気持ちが分かる者はいまい。
ロビンもか!

いや…一緒に飲むのはいいんだけど…いいんだけど……

ウソップは、ショックを受けているシノに、黙して首を振った。
諦めろ。




―――とまあ(主にシノに)色々あって、本日の食事当番はシノとロビンが受け持つ事となった。
その方が、サンジも元気になるだろうと見越しての人選である。


メニューはロビンと相談して、一度に大量に作れる煮物や鍋物、胃袋モンスターの男共の腹を満たすべく、米や米に合うおかず(主に肉類)を中心にする事にした。


「じゃあ私はお味噌汁とかおかずを作るね」

「ええ。私は先に煮物に取り掛かるわ」


もし高熱で唸っているサンジがこの光景を見たならば、さぞや目をハートにして宙に飛ばしたであろう。
キッチンはコックの聖域ではあるが、女性に弱いサンジである。
女性達が和気藹々と料理している姿を見ることが出来ない悔しさは、完治後に持ち越されるとして…

それ以前の問題があった。

包丁を持ち、ワカメを切っているシノの肘は不自然に高い。
切り難そうにしながらも、これまた自分の目線近くにある鍋にまな板から落としている。
傍で野菜を切っていたロビンは、その姿に何とも言えないような顔をして言った。


「シノ…」

「?」

「可愛いわ」

「…ん?」

「これを使ったら?」


何本もの腕を咲かせ、低めの木箱をシノの足元に置いてやる。
しかし、そうすると包丁などの調理器具を収納している棚が開かなくなる。
シノが「いいの?」と見上げると、ロビンも笑って頷いた。


「使う時は言うわ」

「ありがとう」


シノも踏み台については考えていたものの、そうすると足元の収納が開かなくなるので、ロビンに悪いと思いやめていた。
その事をロビンも感づいていたのだろう。
シノはそっと木箱の上に乗った。
シンクが丁度いい高さになると、包丁さばきも乗ってくる。
先程よりも目に見えて軽やかにトントンと鳴る音に合わせ、シノの表情も明るくなる。


この世界の平均的な大人の身長が高い事もあるが、サニー号のキッチンはフランキーによる、いわばオーダーメイドだ。
船を作った彼が、サンジに合わせた最適な高さで設計している。
そのため、シノはテーブルを見上げる幼い子供のように、肘を高く上げて作業しなくてはならなかった。
本人は大変そうだったが、傍で見ていたロビンはとても楽しそうだった。


一連の事を見ていたナミは、読んでいた本に目線を戻して呟く。


「……あれは存分に堪能してから踏み台を与えたクチね」

「いやはやロビンさんてば…よくわかっていらっしゃる。可愛いは正義ですズズッ」

「ちょっと音たてないでよ」


向かいで紅茶を嗜んでいたブルックは、ソーサーにカップを置いて「これは失礼…ゲプッ」と余計なものまで口から出して殴られた。
骸骨なのにたんこぶが生まれる不思議。


「ナ、ナミさん痛い……傷つきました!パンツ見せてくだグフッ」

「見せるか!!」
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