HIT企画

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あれだけここでは正体を隠していたのにルフィを心配して戦い、道を開くハチの背を、シノは複雑な気持ちで見た。
パッパグやケイミーはさて置き、シノはハチの事をずっと怪しい目で見ていた。
振舞われたたこ焼きだって、ナミのを奪って食べて怒られて「毒見」と返すくらいには警戒していた。


聞けばあのハチ、以前はナミを奴隷のように扱っていた、親の仇の1人というではないか。
それはそれ、と割り切ってケイミーを助けたナミの気持ちは素敵だと思う。
ハチを許すか許さないかはナミが決める事であって、自分がでしゃばる事ではないのもわかっている。
わかってはいるが、そのような下地を聞いていて、おいそれとハチをナミに近づけるシノではなかった。
元より人一倍警戒心が強いシノは知らぬ人間には薄情だが、身の内に入れた仲間はその分大事にする。
W7のロビンのように、奪われ傷つけられるかもしれないのを、見過ごしたくなかった。


でも―――




「タコーーー!!?タコの魚人だえーー!!!」

「魚人!?」

「いやー!!気色悪い近寄らないでーーっ!!」


始まらないオークションに怒って喚き散らす天竜人と鉢合わせてしまったハチに対する、人々の醜い言葉には憤りを通り越して、理解できなかった。
まだハチに追いついていない仲間達は徐々に近づくのに手一杯で、中の様子が騒がしくなった程度しかわかっていない。


「何か騒がしい…シノ!ハチとルフィ達は!?」

「………」

「シノちん?」


様子のおかしいシノに、ケイミーが不安そうに問う。
シノは、答える言葉を持たなかった。


「―――わからない……わからない!!」



剣を持ったハチから距離をとるのはわかる。
でもそうじゃない。
ただ剣を持った人間に対する距離とは明らかに違う、歪んだ何かがそこにはあった。



「おおハチ!!ケイミーはどうした?」

「!麦…(まずい)」

「何だえお前?魚人の仲間かえ?」


そんな空気を微塵も気にせずハチを見つけたルフィは笑顔で駆け寄る。
ハチは(しまった!)と名を呼ぶのを躊躇ったが遅く、親しげなルフィを見て”オークション会場を襲撃する魚人”の仲間であると判断した天竜人を含めた観客達。
中には「あれは…」とルフィの顔を知るルーキーらの姿もあったが、彼らはこの状況を静観するのみである。


ややあって、ハチは少しでも距離をとろうとルフィ達から目を逸らし、離れたところで―――撃たれた。



「むふーん♪当たったえ〜〜っ!!魚人を仕留めたえ〜〜!!」


「ハチ!!!」


慌ててハチの元へしゃがみ込むルフィ。
その間も、天竜人は歌い続ける。
血を流す魚人が、無償で手に入る喜びの歌を。


シノは、拳をぐっと握り締めた。


「ロビン!ケイミーをお願い!」

「シノ、あなた」

「チョッパー君!!」

「えっおれ?」


ロビンに声を掛けると、シノはチョッパーの前まで音速移動した。
そしてゴリラになっているチョッパーを小柄な身体に似合わず抱え上げると、入り口まで一目散に走る。
”エコーロケーション”を一旦解除し、身体の周囲に”フレア・ヴィブラート”の膜を作って駆け抜けるシノを邪魔できる者など居はしなかった。



「ハチが撃たれた!!あの”てんりゅーびと”とかいうのに……!!!!」



それを聞いた仲間達の表情が青くなり、ケイミーが呼ぶ彼の名が、悲壮な声となって喧騒の中に響いた。
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