HIT企画

□兄と弟
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―――彼は、すごい人だ。

それはシノが思うよりきっと、この船にいる仲間達の方が余程身に染みているのだろう。


シノが唯一心休められる安全地帯、ここの長である白ひげの信頼が厚いのも頷ける。
加えて仲間達からの信望も厚く、言動・行動ともに彼の言う事に間違いは無い、と思わせるすごい人だ。
未だ深く馴染めずにいるシノですら、見ているだけでそう思った。

その人は誰かと違い、距離の取り方も絶妙だった。
立場的にというだけではなく、元々相手の気持ちに敏感な、面倒見の良い気質だったのかもしれない。



「なんだシノ……お前また待ってたのかよい」



柱の影から顔を出し、こくりと頷くシノに苦笑したマルコは、仕方なさそうにしながらも、どこかくすぐったそうだ。
シノを促しながら歩いて行くその背中を、1番隊の隊員達が同じ様な、それでいて誇らしそうな顔で見送っている。
癖のある新入りに懐かれている我らが隊長が誇らしくもあり、動物のように直向に懐く姿が微笑ましくもあるのだ。



********



―――この船で唯一の”妹”となった少女シノは、少し前に2番隊隊長エースとの確執を乗り越えてから、マルコの纏める1番隊の隊員として正式に配属されたばかりである。
「そこはおれんとこじゃないのかよ!」と、物申したどこかの隊長もいたが、船長の決定ともなれば従う他なく。
当のシノも、白ひげが言うなら…といった感じで頷いていた。



「――いいかシノ。ここにいるのはてめェの家族ばかりだ。家族には家族のやり方がある」

「(こくり)」

「まずは兄貴達の背を見てよく学ぶ事だ。……手本にするならヤンチャな盛りを少し過ぎた奴がいい」



そう言ってニヤリと笑みを浮かべた白ひげは、マルコの名を呼んだのであった。
シノとの相性や能力を考慮しての人選でもあった。
ここで物申したエースに、シノは黒い瞳を瞬かせて問う。


「……エースはヤンチャ盛り…?」

「あん?――ん〜まァ否定はしねェけど何でだ?」

「さっき…お…お父さんが」


まだ父と言い慣れないシノにほっこりしていられたのは一瞬であった。
すぐに近くから飛んできたヤジに、エースは「うるせェ!てめェら人の事言えんのか?」と憎まれ口を叩くはめになったからだ。
しかし、本当の爆弾はこの後に落とされた。


「エース…いくつ?」

「19だ。お前は?」


ルフィより2〜3下くらいかな、とエースは見ていた。
身長的には12歳くらいでもおかしくないが…と考えて、どうしても目がいくのは胸である。
ナース達と同じか少し小さいくらいのそれは、体格差を考えれば、下手をするとナース達よりもサイズが上になるのではと思うのだ。
女の下着のサイズ基準に詳しくないので定かではないが。


「二十歳くらい…かな?」


正確にはわかんないけど…とはにかむ妹分のおかげで、船上の時が僅かに止まった気がした白ひげ海賊団。
船を揺らす波以外、すべてが止まってしまったかのようだった。


沈黙がとけた後、目を剥いて驚くエースのような者もいれば、妹分渾身のジョークとして笑う者、背伸びしたいお年頃に微笑ましく思う者、からかう者と様々いたが、その場にいた者達の中で、白ひげとマルコは違った。
白ひげは、思ったより大人だった娘に抱いた驚きが傑作と、サプライズ気分で笑っていた。


「グラララララ!!エースの方が弟か!そりゃァいい!!」

「親父!?」


一理あるとでも言うように笑う白ひげにショックを受けたのはエースである。
彼は元々兄貴分として振舞う事に慣れた男であり、白ひげ海賊団の古参連中にだって従順に”弟”をしていたわけではない。
腹の内で認めていたとしても、素直に弟気分を味わい、振舞えるようなエースではないのだ。
強いが、強がりな息子にいい刺激が出来たな、と思う白ひげの笑みが深くなる。


「んなわきゃねーだろ!!この人見知りな野生動物が姉貴なもんか!!こいつは絶対妹だ!!」

「やめろエース。そういう事言ってると余計下っぽいよい」

「何だとォ…!?」


がーん!となっているエースは、キャンキャンと自分に反抗する弟の事を思い出す。

たったしかにちょっとわかる気がする畜生…!!

と肩を落とす息子達の前では、ぶっすう〜とご機嫌斜めな妹分がいて、ナース達が何やら見分している。


「言われてみると…幼い感じはあってもこう…青臭い感じっていうの?そいういうのないものね」

「たしかに…シノって発育いいと思ってたのよね」

「そうそう。てっきり発育のいい娘だと思っていたけれど…」

「実際は逆だったのね…」


シノの膨れた頬を細長い指が突付いて、ぷすっと空気が出る。
ナース達に囲まれたシノは、一部の男連中からは「そこ代わって!」っと言わんばかりの状況なのだが、ぶるぶると首を振って面白半分な彼女達に抵抗していた。
こういう仕草が幼く可愛らしく映るのだが、シノにはわかっていないようだ、とナース達は思った。
彼女の場合、おそらく大人としての振る舞い以前の問題だ。


「「「「(犬とか猫がこういう感じにぶるぶるするわよね……)」」」」


無人島のジャングルで育ったシノは、見習う大人もまた、動物しかいなかったのだ。


前世が人見知りぼっちだったせいで、世界を狭くしていたシノのツケはこんな所にも現れていたのだった。
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