HIT企画
□IFゾウ
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「――まだ…意識は戻らないか……?」
往診に来たチョッパーを、ベポがベッドの横に座った姿勢のまま振り返る。
「うん……昨日から時々瞬きしたり、水も少し飲んでくれたけど…名前を呼んでも全然反応しないんだ」
「そうか……まだ熱が少し高いな…熱がある程度下がればちゃんと意識が戻るはずだ」
「うん…」
「お前も重傷だったんだ。ちゃんと寝てるか?無理はダメだぞ」
「…うん」
「…」
じゃあまた来るからなと眉を八の字にして、チョッパーは診察道具を片付けていく。
ベポの妹分だというシノはジャックにひどく甚振られたようで、回復に時間がかかっている。
いまだ目覚めないシノの横でじっと目覚めを待っているベポは、毛でわかりにくいが目の下にぷっくりと不養生の証を蓄えており、シャチ達がそれを指差し告げ口する。
「あっこいつ今嘘ついたぜ先生!」
「そーだぜ先生!」
「そうなのか?」
部屋の隅であぐらをかいていたシャチ達も、仲間の目覚めを傍で待っているクチではあるが、いかんせん、この白熊はあの悲劇からずっと妹分の傍で寝ずの番をしているのである。
「……嘘ついてすみ……ます……」
「「「打たれよゎっ…ってすむんかい!!?」」」
大きな背中を丸めるベポをいつものようにツッコむはずが、言動がおかしい。
怪我と寝不足と心労が、来るとこまで来ている!!と慌てたドクターストップと、それを掲げた仲間達の手により、ベポは問答無用で隣の部屋のベッドまで担ぎ込まれた。
しかしこの白熊、何度部屋に閉じ込めようと妹分目掛けて脱走するので、ハートの海賊団達は熊の監視員として奔走し、ベポ共々更に疲弊していった。
「ゼェ…ハァ……ベポの奴…さすがはうちのネガティブ航海士だぜ……!!」
「ハァハァ…まったく手強い!」
「シノ……シノ……!」
「っておいお前らあああ!!!そういうの本末転倒って言うんだぞコノヤロがァ〜〜〜!!!!」
ネコマムシの旦那達の往診も終えて”クラウ都”へ戻ろうとしていたチョッパーが怒りのあまり巨大化し、その場は医者のゴリ押しで何とか収まった。
”死の外科医”を船長に持つクルー達は、何だかんだで医者の本気の言葉には弱かったりする。
ハートの海賊団達を巨大な手で鷲掴みにしたチョッパーが、ポイポイと部屋へと投げ入れていく。
「――ってて…!!」
いの一番に部屋に転がされたシャチが、頭を抑えて起き上がる。
「医者って何でこう横暴なんブフッ!!」
「あっ悪ィ」
同じく、チョッパーからポイされてシャチを潰したペンギンがいそいそと降りようとした所で
「「ブッフォウ!!!」」
けして人の上に乗せてはいけません、な航海士ベポが降って来た。
色々と限界だったのか、気を失ってしまったベポはいつもより更に重く感じる。
その上また次々とポイポイ入れられていくハートの海賊団達も、限界に近かったのだろう。
動く気力を失ったように、皆部屋の中を這いずったり、寝てしまったり……
患者を放り投げた医者が外でプリプリ怒っているが、それすらもう聞こえていないようだった。
―――身体は動かずとも、悪魔の実の力で音の化身となっていしまったシノは、不思議と夢うつつにその光景を見ていた。
ジャックの攻撃で死すら予感し、意識を失おうかという時、一縷の望みをかけて助けを求めた同盟相手は、見事ここへ辿り着き、ゾウを救ってくれたようである。
その事に安堵し、仲間達の寝息を聞いて無事を喜び、シノの目はまた、少しだけ開いた。
例えすぐ傍にいなくても、目に見える場所にいなくても、シノは壁一枚を隔てた場所に転がる仲間達の吐息や鼓動の数がわかる。
そこにいるのがわかる。
ただ1人、ここにいない人を除いて。
(―――キャプテン)
渇いた唇が音にならない声を模り、再び瞼が落ちた。
ローが麦わらの一味とともに”ゾウ”へ辿り着く、前日の事であった。