HIT企画

□決別のドレスローザ
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ローがすべてに絶望し、また希望で再び世界が開けてから13年―――ついに、ローは因縁の相手の前に立ちはだかっていた。



「偉くなったもんだなァ……ロー……!!」

「てめェ程じゃねェよ」

「フッフッフッフ!!そういやあのガキ…シノも今じゃお前の右腕なんだってなァ?いい女になったか?」



もうローが子供ではないのと同じで、ドフラミンゴの顔にも長い時の流れが感じられた。
サングラスの下、こめかみを中心に顔を縦断する大きな傷は、あの夜に出来たものだというのはローも知っている。
よくもまァ、壊滅寸前だったファミリーを立て直して初志貫徹したものだ。
七武海、ひいては一国の国王にまで成り上がり、ドフラミンゴは再びこうしてローの前に立っている。

同席していた藤虎は、ただならぬ事情がありそうな2人を察し「お知り合いで?」と口を挟んだ。


「知り合い……?フッフッフッ……!そうだなァ……かつての仲間を知り合いと呼ぶならそうなんだろうぜ」

「そいつァ海賊だったって事ですかい?」

「ああそうだ」


ローがドンキホーテファミリーにいたという事実は、海軍本部でもごく一部の上層部しか知らない極秘事項だ。
しかし相手は世界に3人しかいない海軍大将。
とぼけようが大した意味は無い上、別にローはそれを弱みにも、後ろめたくも思っていない。


「あのガキが今や海軍中将とはなァ…!!ゆくゆくは、おれの右腕になってもらおうと手塩にかけて育てたってェのによォ」

「お前こそいい御身分だな……おれの事はいい。お前らとの縁はとうに切れてる」

「つれねェ事言うなァ」


フッフッフ!と笑いながら、ドフラミンゴは心にも無い事を言う。
今でも、あの夜のしっぺ返しの代償を払わせたいのだという事は、ローもよくわかっている。
それは極刑という許しか、はたまた願って止まない不老不死か。
ドフラミンゴの真の狙いは後者なのだろうが、ローにそのつもりが微塵もないのだから、事実上選択肢は1つしかない。
それはローにとってもそうだった。



ドレスローザに到着し、ドフラミンゴとの会談を終えたロー達はその後、CP0に混じって先に潜入していたシノと合流を果たした。
変な被り物を着た小さな怪しい人物は、約束の場所にパッと現れるなり、ベポに何かを持たせると、再び姿を消した。
藤虎の部下達はCP0と思しき姿に目を見張っているが、ローは予め藤虎にだけは、これから来る相手に詮索をするなと言ってある。
事前に、シノからヴィオラの能力を聞いていたからだ。
おそらくドフラミンゴは、ローが来た事でシノの存在も想定はしているだろうが、確証がない内はそのままにしておいた方が都合がいい。


「―――やはりな」


ドレスローザへ向かった記録はあっても、存在が消えてしまった政府の役人などの謎もこれで解けた。
ローはカウンターショックで使用する電流を火種に、ベポから渡されたメモをその場で燃やすと、藤虎にだけ情報を開示した。
この国のオモチャに妖精、そしてシノの存在も想定しているドフラミンゴについても明かされた藤虎は、刀をぐっと握り締める。


「なるほど……そいつァかなりの闇だ」

「ああ…だが行動はあくまで水面下にしろ。さもないと”鳥カゴ”と”寄生糸(パラサイト)”でこの国は前以上の地獄を見るぞ」


あくまで麦わらの一味を標的にドレスローザに来ていた藤虎は、何故トラファルガー中将が派遣されて来たのかを改めて理解しつつあった。
元ドンキホーテファミリーというだけではなく、おそらく彼は独自にドフラミンゴを長年追い続けていたのではなかろうか。
何にせよ、ここまで敵に精通している人材が共にあるのは心強い事だ。


「あんたは…まるでその地獄を知っているようだね」

「……実際中にいた事がある…それだけだ」


たしかに地獄だったが、あの時のローにとっては少し違った。
あの2人がいて、生きられる希望が見つかった夜。
同じ地獄にいながら、まるで対岸の火事ように客観的にすら見えていたあの光景を、ローは忘れもしない。
あの夜は、ローにとって地獄との決別でもあった。



あれから10年以上の時を経て、ついに千載一遇の好機がやって来た。


麦わらの一味のせいでローと藤虎の計画が大幅に狂わされ、結局は”鳥カゴ”と”寄生糸(パラサイト)”のダブルコンボは防げなかったが―――



「―――13年……ずっと決着をつけるこの時を待っていたよドフラミンゴ」


麦わらのルフィにベラミーを当て、高みの見物に戻ったドフラミンゴの背後で、ローは鬼哭の鞘を投げ捨てた。
藤虎の命によって、全海軍は民衆の保護に勤めている。
ソファに座り、足を組んで振り向きもせず、ドフラミンゴは身の程知らずの口上を嘲笑った。
横には、13年前唯一の生き残った最高幹部、ヴェルゴの姿もあった。



「おれも待っていたよ……なんせてめェらのせいでおれの夢は狂わされたんだ」

「ハッ…!夢が不老不死か。今時ガキでも言いやしねェよ…んな安っぽい事」

「てめェらの命ならそりゃ安かろうさ……!!だがおれは違う!!!」


ローは似ても似つかない、血を分けたはずの恩人を思った。


「いつまで経っても変わりゃしねェなてめェは……”ROOM”」

「そう言うてめェはすっかり変わっちまったなァ…――失望した」


もう1人の恩人は、今でも時々故郷が悪魔の手に堕ちていないかと、眠れぬ夜を過ごしている事を知っている。
人見知りのくせ、空島に駐在を命じられている会った事もない海兵に対して、抵抗を押し殺して故郷の無事を確認している事を知っている。


「”タクト”!!!」

「”五色糸(ゴシキート)”!!」


ローの指に合わせ、王宮の塔の一角がドフラミンゴに向かって飛んでいく。
肉体を武装色で黒く染めたヴェルゴは、海軍時代にマスターした”剃”でローの背後をとった。
ドフラミンゴの指先から放たれた糸が塔を斬り、いくつかの瓦礫に分断する。
分かたれた瓦礫の間から、徐々に見えてくるローとヴェルゴの姿に、ドフラミンゴは口角を上げに上げた。
本来自分だけでも事足りるであろうローに対し、こちらは最高幹部ヴェルゴとの2人掛りだ。
身の程知らずの愚か者に育ってしまった子供の末路を予想し、笑うドフラミンゴの遥か上空で、趣味の悪い仮面と衣服が放られる。


直後、切り裂いた瓦礫ごと、ドフラミンゴは爆煙の中に消えた。



「ドフィ!?」


上空から落とされた、目に見えぬ砲撃に塵と消え行く王と王宮の一部を見たヴェルゴが反射的に上を見ると、どこかで見たような小娘がいた。


「余所見してる場合じゃねェぞ」

「!」


ヴェルゴの一撃を受け止めていた刃の向こうで、ローは不敵に笑った。
黒い刃が、黒い体を細切れにする。
浮いた黒い肉片を消し炭にするはずだった音の帯は、一部を燃やしただけで大半が空振りした。


「シノ!!」


瓦礫の上に立ち昇る噴煙から、レーザーのようにシノをまっすぐ貫いた”弾糸(タマイト)”とは別に、糸の群れがヴェルゴの肉体を引き寄せ、繋げていく。
ヴェルゴの背後をとるようにして音速移動してきていたシノは、間一髪、攻撃の手応えの無さで身を引いたのが功を奏した。
胸を貫くはずだったものは、肩を少し掠った程度で済んだ。


「っ」


肩を押さえたシノは、繋がっていく黒い体とその元凶を睨んだ。
少しは食らっているようだが、ドフラミンゴはまだ両足で立っている。


「フッフッフッフ!!やっぱり来ていたなシノ……思ったよりデカくはなってねェようだが」


既に慣れきった類の感想だが、相手がこの男であるというだけでシノはいつもの数倍カチンときた。


「なかなかいい女になったじゃねェか」


シノに向けた人差し指の描く曲線の意味を察し、今度はローの視線に殺気が増した。
シノもローも、これがこの男のペースなのだとわかってはいる。
よって顔色も対して変えずに心を自制したが、それすら見越した悪魔のような男は、僅かな感情の起伏も筒抜けだった。
特にローは、予想通りすぎて失笑ものだった。
コラソンとシノによって命を繋ぎ、未来が見えるようになった男の、何とわかりやすい事か。


「そんな事だろうとは思っちゃいだが……これは予想以上にポンコツになったか?」


既にヴェルゴは、”フレア・ヴィブラート”で消した一部以外の全てのパーツが揃って人の形を取り戻していた。
挑発を聞き逃せない程のガキか、とヴェルゴの目も冷えた瞬間、シノの口が大きく開いた。
先ほど上空からドフラミンゴを襲った”フレア・カペラ”の二撃目である。



「――お喋りな男は好きじゃない」



特にあんたはね。

得意の口先で優位に立っていたつもりでも、その間もシノとローは能力でコンタクトをとっていた。

”カペラ”を避ける2つの影は、既に広がっていた”ROOM”の中にあった。


「”シャンブルズ”」


「「!!」」


音波砲の中に戻された2つの影が閃光に融けた。
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