HIT企画

□もしも君が
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※管制官が男の子だったら。



********



ハートの海賊団にシノという小さな仲間が入ってから、随分と時が経ったが、彼は未だにローをキャプテンと呼ぼうとはしなかった。



「こっち見んな隈野郎」



船上ではおいそれと鬼哭で太刀筋を作るわけにもいかず、繰り出された拳骨は予想していたのか、瞬時に音波となって消えるシノ。
最初はハラハラと見守っていたクルー達も今ではその光景に順応し、何だかんだでシノもクルー達に慣れた頃、一行はシャボンディ諸島へと上陸した。
ハイパー人見知りのシノは、ベポにくっついて離れたがらない。
それを見下ろしたローがフン、と鼻で笑う。


「男がコソコソ隠れてんじゃねェ」

「隠れてるんじゃない…避けてるだけ」

「物は言いようだな」

「お前だってパン避けてる」

「ふざけんな避けるか。いらねェだけだ」

「物は言いようだな隈野郎」


ハッと低い位置から見下され、イラッとしたローの黒くなった肘がシノの頭を上からゴリゴリする。
シャチ達は「お前もめげねェなァ」と苦笑している。
船長に逆らう事は褒められた事ではないのだが、馬鹿素直でブレない気性はどこか憎めず、懐けばそれなりに可愛げのある小さな少シノは、今やハートの海賊団全体の弟分と言っても過言ではなかった。
ベポとはまた違った意味でマスコットのようなシノとローのケンカには、不思議と危機感などは感じない。
それはきっと、ケンカにも知らず知らずのうちに変化があるのを、皆何となく感じ取っているからだろう。

最初は、シノは喋りもしなかった。
ただただローに負けた自分が許せず、大鷲をバラバラにしたローが許せず、命を狙う暗殺者のように攻撃を仕掛けてきていた。


それがいつしかベポに心を許し、大鷲の意思を思い、ローの声にも耳を傾け、ベポを介して他のクルーとも口を利くようになった。
憎まれ口は相変わらずだが、それも全て他意は無く、ただの心の吐露だというのはすぐにわかった。
それもどうなんだ?という気持ちはなきにしもあらずといった感じだが、今では「まあシノだし」で片付くくらいには、シノは仲間になっていた。

だから…


「ひょっひょへがはかいははっへひょうひひほっへ(ちょっと背が高いからって調子に乗って)…!!」

「あ?聞こえねェ」

「「「(わーキャプテンいい笑顔ー)」」」


頬っぺたを上からひっぱられているシノと、見下ろすあくどい顔に、ベポ、シャチ、ペンギンは和んだ。



********



麦わらのせいで追い立てられるように逃げたシャボンディの事件から少し……頂上戦争を見届けに行った先で、何故かローは死にかけの麦わらを引き取った。
そのせいで、海上にも関わらず人口密度がかなり高い今、シノは警戒心を煽られてかなりナイーブになっていた。
盗んだ海軍の軍艦から飛び移ってきた女帝、ボア・ハンコックのせいで不機嫌に拍車がかかった。


「……お前…うちのベポ君に何様のつもり」

「何じゃこの貧相な子供は」


成長期はとうの昔に通り過ぎたシノの身長は、およそ日本人男子の平均といわれる170cm程度で止まっている。
小さくはないはずなのに、悲しいかな。
この世界だと、シノは時々女性よりも小さいのである。
しかもこのハンコック、女性でありながら190越えで、ローと大差ない長身だった。
同じ様な高さから見下され、シノはまたカチンときた。
人間としての感覚が乏しく、よく野生児などと言われるシノだって成人した男である。
一番小さいサイズのツナギでさえブカブカなのだって、密かに気にしていたりするのだ。


「ざけんな!うちのベリーナイスな素敵白熊のベポ君を……!お前みたいな礼儀知らずがケモノケモノ言っていい白熊じゃねェんだよ!」

「!馬鹿っ」

「シノ…!」


まさかの人見知りの台頭にあっけにとられていた仲間達は、慌ててシノの捕獲に向かう。
七武海を相手に無闇な挑発はいただけない。
あと、白熊はケモノって言われても仕方がないんじゃないかなァとも思った。


「畜生風情に何を言うておるかは理解できぬが……口の利き方のなっておらぬ小僧だという事は理解した」

「…たしかにな」

「「ってキャプテンまで同意しないで!!」」

「もごもごもごっ」


シャチとペンギンの2人がかりで羽交い絞めにされ、口を塞がれたシノが何かを言っている。


「いい子だから!」

「黙っとけ!」

「もががっ?」

「「何ででもだ!!」」


さすがはシノとの付き合いもそれなりになってきただけはある。
くぐもった声を間違いなく読み取って叱る2人を、シノは不服そうにジトリと見上げた。
電伝虫の必要性はわかっているが、だからといってベポへの無礼を黙認出来るかは別問題なのだ。


「おいケモノ!電伝虫を早う持て!」

「はっはいィ…!!」

「いいなーあいつ女帝のしもべみたいっで!!」


いいわけあるかボケ!という代わりに、シノは口を塞いでいたペンギンの手にがぶりと噛み付いた。
痛みに怯んだその隙に、シャチも振り払ってハンコックへの不快さを露にするシノ。
ハンコックもまた、身の程知らずの男相手に肩眉を上げると、両手を掲げ、ハートの形を作った。



「聞き分けのないしつこい男じゃ……!”メロメロ甘風(メロウ)”!!」



振り払われ、どうにか効果範囲を外れたペンギンとシャチはともかくとして、バッチリ技を受けてしまったシノはというと、


「……?」

「……?なにそれ」


石にはなっていなかった。


「!?”メロメロ甘風(メロウ)”!!」

「……??だからなに…それ」

「!!??」


ハンコックにとって、人生唯一にして、最初で最後に思われた青天の霹靂の再来であった。


「そっそんな……!?よもやルフィ以外で…そんな事が…っ!!」


何やら大げさに驚いているハンコックを、シノは半ば白けた感じに眺めていたが、ふと気を取り直したハンコックが「”メロメロ甘風(メロウ)”!!」をシャチ達で試して石にしているのを見て、「あっ!」と目を剥いた。


「何やってんだお前!?」

「やはり……!!……もしやそなた女子(おなご)であったか!?」

「ぶっとばすぞ…!!!」


小さいし、と副音声が聞こえたような気がするのは、シノが身長という問題に過敏になっているからだけではないはずだ。
拳を握ったシノの腕を、フレア・ヴィブラートがしっかりとグローブのように覆っていた。


「いや…たとえ女子であったとてわらわの虜にならぬ者など……!」


「おい。そのへんにしておけ」


1人ショックを受けているハンコックと今にも手が出そうなシノの間に、ローの制止が割って入る。
ルフィの命を取り留めている男の言葉だからか、一応聞く耳を持っていたハンコックにシャチ達を戻させ、女ヶ島への連絡を取り付けると、イワンコフ達と別れたロー達は、一時女ヶ島へ身を隠す事となったのだった。
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