HIT企画

□IF モドモドverキャプテン〜another〜
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これは、NEO海軍の奇襲のにより、シノがモドモドされるはずだったのとはまた別の次元の話である。



「よ、いしょっと」

「おい、なんだそれは」


Zとの戦闘中の不意をつかれ、NEO海軍の女幹部アインに2度も触れられ肉体が逆行していたローは、現在赤子といっても差し支えない2歳児でありながら、将来が不安になるような目つきの悪さでシノを睨んでいた。
縮んでしまったローの身体に、ハチマキ程度の幅の紐を巻いていたシノは「ん?」とローに目を合わせる。
とても幼児に相応しい顔つきではないが、いつもと比べると幾分か可愛げはある。
ような気がする。
シノはにこっと笑って言った。



「おんぶ紐だよ?」



紅葉のような手でシノをビンタした2歳児は、まるで人殺しのような目をしていた。



********



「もう!信じらんないよね」

「いや、おれにはお前が信じらんねェよ…」


ペンギンの意見にコクコクと頷くクルー一同。
味方の不在に、シノはムッと頬を膨らませた。
縮んだローにベポが服を着せてやってから、せっかくシノが用意したおんぶ紐は嫌がられ、あまつさえビンタである。
そのくせ、歩きがおぼつかずにイライラするローを、シノは広い心で抱っこした。
褒められてもいい行為である。
なのに、可愛くない子供は舌打ちした。
これが本物の子供だったら躾と称して拳骨をお見舞いしていた所だ。
ちなみに兄貴分は、そんな2人にも、仲良しだなァといい笑顔だ。

そんなシノ達が食堂に現れてからというもの、クルー達はローの機嫌を損ねないように、コソコソとシノに向かってだけ口笛を吹いたりしてからかった。
てっきり恥ずかしそうに「仕方ないじゃない!」と反論されるだけだろうと思っていたペンギン達は、おんぶ紐のくだりを聞いて内心、こいつ勇者か…!?と思った。
腕の中の2歳児は「チッ」とまた舌打ちをしてから、偉そうに「降ろせ」と椅子を指している。
中身はちっとも変わっていない様子に安心すればいいのか、幼児の肉体に不安になればいいのか。
複雑な心境だったクルー達はしかし、シノ達を見ている内に意識を少し改める事になる。
見ればシノは、キャプテンにおんぶ紐なんて物を使おうとしたとは思えないくらい、素直に「うん」と言う事をきいてやっていて、言葉などとは裏腹に、仕草はとても丁寧だった。
元々素直で憎めないシノは、ベポに面倒を見られていたり、ローに余計な事を言っていたりする一面が目立っていた。
ここにきて、こんなに面倒見がいいのか…とクルー達に意外な発見を齎している。


「お前…案外いい母親になるかもなァ…」

「は?」


ちょっぴり感動した風のシャチに、シノが何言ってるんだこいつ、という目をした一方で、ベポはシャチに大きく頷いていた。


「でしょ?」


ビンタされても、ローを丁重に扱うシノを優しいなァいい子だなァと思っていたベポは嬉しそうに肯定した。
兄貴分に褒められたのを感じて、シノが恥ずかしそうに口角を上げる。


「(この反応の差よ…!)」


いつもの事である。



こんな調子で、ハートの海賊団はシノが収集した情報を元に、ファウス島へと向かった。
NEO海軍との戦闘時に探った様子から、連中がダイナ岩を目的としている事はわかっていたので、その在処に覚えがあったローの指示だ。
腐っても七武海…いや、今は新鮮ピチピチだった。


「む…?」


ベポの腕の中から、不機嫌な子供がちっちゃい手を伸ばしてシノの頬を引っぱっていた。
いつもより、かなりヘナチョコであはるが。
頭脳はローのままなのだ。
シノは、やっぱりキャプテンだなぁと、あくどい目つきの子供をベポの手から抱き上げた。


「キャプテン、オペオペは?」


小さなお手手を触りながら言うシノに、ローは眉間の皺を作ってから、少々の間を置いて苦々しく吐き捨てた。
ローがオペオペの実を食べたのは、この肉体がさらに10年以上成長した後の事だ。


「………できねェ……」


大きくてゴツゴツしてて、器用に動く長い指は、見る影もない。
シノよりもずっと小さいふくふくとしたお手手は、鬼哭も握れなければ悪魔の実の能力も使えなくなったのだった。


「キャプテン……」

「って事は…」


皆、薄々そんな予感はしていた。
ただ、シノのように何でもかんでも素直に口に出来ないだけで、皆が気にかかっていた事だ。
小さくなっても、態度と貫禄だけは変わらないローに忘れそうになるが、彼にだって、何も出来ない子供時代は確かにあったはずなのだ。
強くもなく、悪魔の実も口にしていなかった、最初が。
元海軍大将相手に、ハートの海賊団最強の船長の力は、あてに出来ないのだ。


「じゃあキャプテンは皆で守ってあげないとね」

「そうだねシノ!!」

「ベポ…シノ…」


ぐっと拳を作って賛同するベポを、ぼうっと見ていたクルー達の間に生気が戻る。


「そうだよな!」

「どうせあいつらには落とし前つけなきゃなんねェんだ!尻込みなんかしてられるか!」

「元々ボスっつーのは後で偉そうにしてるもんだ」

「いつもと変わんなくね?」

「偉そうなとこだけな」

「てめェら…」


うちの船長は、ふんぞり返って腰が重くなったお偉いさんとは一味違うのだと盛り上がる仲間達。
いの一番に先陣きって、敵を蹴散らす船長の変わりに、おれ達の出番だー!!と決意を新たにするのは大変結構だ。
ただし、言い草が残念なせいでローの目が若干据わり気味である。
シノはご機嫌斜めな子供を抱え直すと、小さく笑いを漏らした。


「ま、オペオペ出来てもこんな小さかったらどの道危なくて戦えないもんね」

「やくたたずなのはひていしねェが、こどもあつかいはすんな」

「んー…小さくてもキャプテンなのはわかるんだけど、キャプテンだけどやっぱり小さいもん」


わかるようなわからないような事を言うシノの腕の中に甘んじているローは、抱え直されて余計に密着した柔らかさに触れぬよう、肩に手をついた。
そりゃあこの天然のクッションは心地よいが、大きさの反面、今の小さな身体を押し上げてしまい、どこかに掴まらないと不安定だった。
おかげで母親の首に手を回す子供みたいになって、絵的にはとても微笑ましい。
おや、という顔をしたシノも、素直に頼る小さな手に気をよくしたのか、にこりと抱く手の脇を締めた。
安定はしたが、おかげでパフン、と身体の大部分で感じる柔らかさに、ローはシノの肩越しに微妙な顔をした。
この気遣いを少しは悟れという意味での言葉でもあったのだが、生憎とそちらの方は感じ取ってはくれなかったようである。


「…もどったらおぼえてろ…」

「?」


身に覚えの無い捨て台詞を呟かれたシノは、きょとんと瞬きをした。
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