HIT企画
□IN FILM Z
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お花見ムード漂うサウザンドサニー号の船内、シノは浮き輪3つにシュノーケル、フィンまで装備して、大浴場をプールにして楽しんでいた。
シャワーテンポ様様である。
シャワーテンポの温水は、広い浴槽に溜めていく間に、丁度良い温水プールの温度になるのだ。
海水ではないから、浮き輪さえあればシノだって何とかゆっくり泳げる。
1回で5000ベリー巻き上げられたけど。
「ふふぁ〜…」
水面に顔をつけてプールを満喫するシノのシュノーケルから、くぐもった声が出た。
浮き輪の浮力で背中を中心にスイーっと漂っているシノは、パッと見ただの水死体である。
「イヤアアアアッ!!!どざえもーーーん!!!!」
自分のビジュアルをしばしば忘れるブルックが、どこかの国民的アニメ映画の冒頭のように叫んだ。
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「ヨホ…ッホ…ヨホ……ヨロ…」
「あん?」
ルフィは、ヨロリとよろめくブルックに目をとめた。
大浴場から追い出されたブルックの頭には、花見仕様のアフロのモコモコに混じって、いくつものたんこぶがポコポコと山を作っていた。
何の目的で大浴場に来たかを考えれば、当然の報いである。
力尽きたのか、ガクッと四つん這いになったブルックのそばにしゃがんだルフィは、「どした?」と死にかけの死体を気に掛けた。
「おいこらブルックてめェ…!!」
ナミのドリンクを用意する使命さえなければ、甲板にも美女の水着がなければ、同じ穴の狢になっていそうなサンジが顔に影を作りながら罪深き骸骨にズンズンと向かっていく。
ブルックは経験済みの今わの際の動きで、フルフルと指の骨を震わせた。
「……白の…ビキニ…でした……カハッ…!」
「うおおおッ!!」
「死ぬなブルックー!!」
心配してその手を握ってやるのはチョッパーだけである。
涙ちょちょ切れる骨。
因縁つけようとしていたコックは、最後の言葉に胸を滾らせていた。
「シノちゃんにもドリンク差し入れしよーっとォッ!!」
「…春にゃああいうのがよく出るっつーからな…」
桜の代わりにハートを撒き散らして背を向けるコックを見ずに、ゾロは酒瓶を傾けた。
サニー号の上空にも火山灰が迫ってきていて、プールにいるシノにも、その衝撃が伝わってきていた。
『ねえナミ』
「何?」
甲板に飛ばされた声は、ナミの近くにいるメンバーにも聞こえていた。
『遠くですごい地震があったみたい…何かが噴火したみたいな…』
「噴火?……これは…」
空を見上げたナミは、雪のように舞う火山灰を見つけた。
ついでにシノは、海に漂う何かを発見していた。
拾った何かが人間だった場合、シノが率先してそれに近づく事などあるわけがない。
シノはサンジが淹れてくれたアイスカフェオレに口をつけると、彼が気を利かせて脱衣所まで持ちこんでくれた椅子に腰掛けた。
離れた位置を進んでいた船団が、このままだとまっすぐサニー号とかち合う針路にいるのも気にかかる。
距離がある為、会話までは拾えないが、怪しい。
医務室に運び込まれた漂流物に関係があるのだろうか。
もしかすると、火山灰の方向へ向けて、ルフィがログポースのブレブレ針路を選んだせいなのかもしれないけど…
ひとまず、医務室に放送を入れておく。
「こいつの事探してんのかな?なら良かったじゃねェか!」
「そうとは言い切れないでしょ。元々ワケありって感じだったし…」
「彼を探しているにしろ、慎重になって損はないでしょうね」
「ふーん」
本当に聞いてるのか怪しいルフィ。
いつもの事である。
ナミはため息をつき、ロビンは苦笑した。
しばらくしてシノにも会話が拾えるようになった頃…何か海軍っぽくない?と気づいた。
しかも、船のスピードが速まっている。
その頃には漂流物が目覚めており、シノは医療室の外にいるメンバーにだけ”小さなメロディ”でそれを伝えた。
すると甲板に出たウソップがゴーグルを用いて、まだ遥か遠くにいる船の存在を捉える。
「海軍…にしちゃあ……でもすげェ軍艦だ…!やっぱあいつを狙って来てんのかなァ!!?」
「シノとウソップはそのまま警戒を続けて…!何かしてくるようならどうにかして!!」
「どうにかってお前なァ!!?」
あまりにざっくりとした要求に文句を言うウソップなど気にもせず、甲板に出ていたナミは船内に向かった。
ここにいる人物が目的ならば、どういう狙いかを見定めておく必要がある。
すると近くに控えていたサンジに無言で止められ、ゾロは刀に手をかける。
肩からかけていたバスタオルを落としたシノが脱衣所を出ると、NEO海軍の船団がサニー号を取り囲もうとしていた。